上 下
86 / 470

リュートさんがんばれない

しおりを挟む
リュートがリリーナにボコボコにされてから一週間が経過した。

体こそ嫌々ながらもルーデル家の治療師の回復魔法で治ったものの、心が中々治らず今の今まで引きこもっていたがリュートもようやく立ち直り、動き出すようになった。


「失礼します。お部屋のお掃除に参りました」


執務室にメイドが一人やってきた。リリーナとは違う、若く綺麗な女だ。以前のリュートならば食指が動いただろうが、今のリュートはそうではない。


「そう・・・頼むよ」


伏し目がちにそうとだけ言って、リュートはあくまで無関心を装った。

「ちっ」とメイドが舌打ちしたのがリュートの耳に入る。
これは罠だ。手を出せば、ここぞとばかりにリュートを痛めつける理由ができるーー 
リリーナの一件以来、ここ連日代わる代わるメイドがリュートの身の回りの世話にやってきた。だが、リリーナと同じように、手を出されれば辺境伯相手であろうと堂々と正当防衛の名実の元に制裁できると期待してやってくる者ばかりだ。
ショウのことでリュートにヘイトを抱えるメイドは、今か今かと網を張ってリュートの周りをうろうろしているのがここ最近のルーデル邸の光景だった。


「そうだ、掃除はもういい。オミトを呼んでくれないか」


リュートはメイドにそう頼むと「ちっ」と再び舌打ちして、「かしこまりました」と形ばかりの礼をして部屋を出ていった。


「ふぅ・・・」


リュートはメイドがいなくなって溜め息をつく。この屋敷で自分がどれだけ憎まれているというのが本当の意味で肌で実感できた一週間前。リリーナは止めに入られなければ、本当に自分を殺してしまっていたかもしれなかった・・・自分は「殺したいほど憎い奴」なのだとそこで初めて理解できた。
あれ以来、メイドたちが不自然なまでに近い距離で自分の周りをウロウロしているが、性欲より先に恐怖が勝るのが良いことなのか悪いことなのか。今でも冷や汗が止まらない。
騎士団の問題については一つ手を打った。いずれ解決に向かうかもしれない。
だが、屋敷内での危険については自分がとにかく気を付けねばならない。メイドがどれだけ挑発的にうろうろしても、指一本触れてはならんのだ。
いっそメイドは辞めさせて男だけで統一させようとしたが、それがオミトに断られてしまった。


なんにせよシモのことでは文字通り痛い目に遭ってばかりのリュートはようやく懲りた。
これからは無心になって自分の汚名返上のために躍起になろうと闘志を燃やしていた。



「お呼びですか」


少し・・・いや、そこそこの時間を置いてオミトがやってきた。


「財務状況の書類に目を通していたんだが、気になるところがあってね」


騎士団のことは当面後回し・・・リュートはまずは自分に出来ることから始めようと思っていた。
その矢先に気になるところを発見したのだ。


「寄付金という項目だけど、先月までに比べて著しく落ちている。これは何かのミスではないかい?」


収入としては決して無視できないだけの金額が、毎月寄付金として送られてきていたのだ。それが今月から大幅の減額となっており、到底看過できる状態ではない。


「あぁ、それですか。ショウ様が追放され、ルーデルから去ったことが市井に知れ渡ったからでしょうな」


「・・・なに?」


「ショウ様を不当に排除したことへの抗議の意味があるのでしょう。意見書が山ほど来ています。もう以前のようには寄付金も集まらないでしょう。それだけの人気があるお方でしたから・・・」


それは暗に「お前ではショウの代わりにはならないよ」と言っているとリュートは受け取る。
事実、顔だけで中身のないリュートでは人の心を掴むことなどできないだろうなとオミトは思っていた。


「いない者について考えても仕方ないことだ。私が挽回すれば良い」


リュートは意地でそう言った。
オミトは「ハッ」と失笑しながら「どうやってです?」と小ばかにするような目をしてそう言った。


「ショウが名を上げたのもエーペレス叔母様の手腕のお陰であろう!叔母様のお力をまた借りれば良い」


エーペレスのプロデュースによるプロパガンダで、新・ルーデル辺境伯のイメージを再び一新すれば良い。リュートはそう考えていた。


「残念ながら、エーペレス様は既にどこにおられるかわかりません。国内にいるかどうかも不明です」


「何だと!?」


リュートは焦った。


「どうしてだ?どこにいるのかわからないだと?そんなことあるものか!」


「お言葉ですが、本来ルーデル家にここ数年ずっと居たのが異例と言えるほど奔放なお方ですから」


「なっ・・・!」


確かに元々エーペレスはそういう人間だが、ショウのときは家にいて、リュートのときはさっさとどこかへ行ってしまう。リュートは自分がエーペレスからも拒絶されていると思い、また言いようのない悔しさが溢れかえりそうであった。
リュートは泣く泣く寄付金の大幅減額については対策を後回しにすることになった。

だがオミトは知っていた。エーペレスがどこに行き、何をしているのかを。
しかしそれをリュートに教えてやる気は全くなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

無能スキルと言われ追放されたが実は防御無視の最強スキルだった

さくらはい
ファンタジー
 主人公の不動颯太は勇者としてクラスメイト達と共に異世界に召喚された。だが、【アスポート】という使えないスキルを獲得してしまったばかりに、一人だけ城を追放されてしまった。この【アスポート】は対象物を1mだけ瞬間移動させるという単純な効果を持つが、実はどんな物質でも一撃で破壊できる攻撃特化超火力スキルだったのだ―― 【不定期更新】 1話あたり2000~3000文字くらいで短めです。 性的な表現はありませんが、ややグロテスクな表現や過激な思想が含まれます。 良ければ感想ください。誤字脱字誤用報告も歓迎です。

最強スキルで無双したからって、美女達によってこられても迷惑なだけなのだが……。冥府王は普通目指して今日も無双する

覧都
ファンタジー
男は四人の魔王を倒し力の回復と傷ついた体を治す為に魔法で眠りについた。 三十四年の後、完全回復をした男は、配下の大魔女マリーに眠りの世界から魔法により連れ戻される。 三十四年間ずっと見ていたの夢の中では、ノコと言う名前で貧相で虚弱体質のさえない日本人として生活していた。 目覚めた男はマリーに、このさえない男ノコに姿を変えてもらう。 それはノコに自分の世界で、人生を満喫してもらおうと思ったからだ。 この世界でノコは世界最強のスキルを持っていた。 同時に四人の魔王を倒せるほどのスキル<冥府の王> このスキルはゾンビやゴーストを自由に使役するスキルであり、世界中をゾンビだらけに出来るスキルだ。 だがノコの目標はゾンビだらけにすることでは無い。 彼女いない歴イコール年齢のノコに普通の彼女を作ることであった。 だがノコに近づいて来るのは、大賢者やお姫様、ドラゴンなどの普通じゃない美女ばかりでした。 果たして普通の彼女など出来るのでしょうか。 普通で平凡な幸せな生活をしたいと思うノコに、そんな平凡な日々がやって来ないという物語です。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

チートスキル【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得&スローライフ!?

桜井正宗
ファンタジー
「アウルム・キルクルスお前は勇者ではない、追放だ!!」  その後、第二勇者・セクンドスが召喚され、彼が魔王を倒した。俺はその日に聖女フルクと出会い、レベル0ながらも【レベル投げ】を習得した。レベル0だから投げても魔力(MP)が減らないし、無限なのだ。  影響するステータスは『運』。  聖女フルクさえいれば運が向上され、俺は幸運に恵まれ、スキルの威力も倍増した。  第二勇者が魔王を倒すとエンディングと共に『EXダンジョン』が出現する。その隙を狙い、フルクと共にダンジョンの所有権をゲット、独占する。ダンジョンのレアアイテムを入手しまくり売却、やがて莫大な富を手に入れ、最強にもなる。  すると、第二勇者がEXダンジョンを返せとやって来る。しかし、先に侵入した者が所有権を持つため譲渡は不可能。第二勇者を拒絶する。  より強くなった俺は元ギルドメンバーや世界の国中から戻ってこいとせがまれるが、もう遅い!!  真の仲間と共にダンジョン攻略スローライフを送る。 【簡単な流れ】 勇者がボコボコにされます→元勇者として活動→聖女と出会います→レベル投げを習得→EXダンジョンゲット→レア装備ゲットしまくり→元パーティざまぁ 【原題】 『お前は勇者ではないとギルドを追放され、第二勇者が魔王を倒しエンディングの最中レベル0の俺は出現したEXダンジョンを独占~【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得~戻って来いと言われても、もう遅いんだが』

神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~

雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

スキル『日常動作』は最強です ゴミスキルとバカにされましたが、実は超万能でした

メイ(旧名:Mei)
ファンタジー
この度、書籍化が決定しました! 1巻 2020年9月20日〜 2巻 2021年10月20日〜 3巻 2022年6月22日〜 これもご愛読くださっている皆様のお蔭です! ありがとうございます! 発売日に関しましては9月下旬頃になります。 題名も多少変わりましたのでここに旧題を書いておきます。 旧題:スキル『日常動作』は最強です~ゴミスキルだと思ったら、実は超万能スキルでした~ なお、書籍の方ではweb版の設定を変更したところもありますので詳しくは設定資料の章をご覧ください(※こちらについては、まだあげていませんので、のちほどあげます)。 ────────────────────────────  主人公レクスは、12歳の誕生日を迎えた。12歳の誕生日を迎えた子供は適正検査を受けることになっていた。ステータスとは、自分の一生を左右するほど大切であり、それによって将来がほとんど決められてしまうのだ。  とうとうレクスの順番が来て、適正検査を受けたが、ステータスは子供の中で一番最弱、職業は無職、スキルは『日常動作』たった一つのみ。挙げ句、レクスははした金を持たされ、村から追放されてしまう。  これは、貧弱と蔑まれた少年が最強へと成り上がる物語。 ※カクヨム、なろうでも投稿しています。

独裁王国を追放された鍛冶師、実は《鍛冶女神》の加護持ちで、いきなり《超伝説級》武具フル装備で冒険者デビューする。あと魔素が濃い超重力な鉱脈で

ハーーナ殿下
ファンタジー
 鍛冶師ハルクは幼い時から、道具作りが好きな青年。だが独裁的な国王によって、不本意な戦争武器ばかり作らされてきた。  そんなある日、ハルクは国王によって国外追放されてしまう。自分の力不足をなげきつつ、生きていくために隣の小国で冒険者になる。だが多くの冒険者が「生産職のクセに冒険者とか、馬鹿か!」と嘲笑してきた。  しかし人々は知らなかった。実はハルクが地上でただ一人《鍛冶女神の加護》を有することを。彼が真心込めて作り出す道具と武具は地味だが、全て《超伝説級》に仕上がる秘密を。それを知らずに追放した独裁王国は衰退していく。  これはモノ作りが好きな純粋な青年が、色んな人たちを助けて認められ、《超伝説級》武具道具で活躍していく物語である。「えっ…聖剣? いえ、これは普通の短剣ですが、どうかしましたか?」

処理中です...