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リュートさんがんばれない
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リュートがリリーナにボコボコにされてから一週間が経過した。
体こそ嫌々ながらもルーデル家の治療師の回復魔法で治ったものの、心が中々治らず今の今まで引きこもっていたがリュートもようやく立ち直り、動き出すようになった。
「失礼します。お部屋のお掃除に参りました」
執務室にメイドが一人やってきた。リリーナとは違う、若く綺麗な女だ。以前のリュートならば食指が動いただろうが、今のリュートはそうではない。
「そう・・・頼むよ」
伏し目がちにそうとだけ言って、リュートはあくまで無関心を装った。
「ちっ」とメイドが舌打ちしたのがリュートの耳に入る。
これは罠だ。手を出せば、ここぞとばかりにリュートを痛めつける理由ができるーー
リリーナの一件以来、ここ連日代わる代わるメイドがリュートの身の回りの世話にやってきた。だが、リリーナと同じように、手を出されれば辺境伯相手であろうと堂々と正当防衛の名実の元に制裁できると期待してやってくる者ばかりだ。
ショウのことでリュートにヘイトを抱えるメイドは、今か今かと網を張ってリュートの周りをうろうろしているのがここ最近のルーデル邸の光景だった。
「そうだ、掃除はもういい。オミトを呼んでくれないか」
リュートはメイドにそう頼むと「ちっ」と再び舌打ちして、「かしこまりました」と形ばかりの礼をして部屋を出ていった。
「ふぅ・・・」
リュートはメイドがいなくなって溜め息をつく。この屋敷で自分がどれだけ憎まれているというのが本当の意味で肌で実感できた一週間前。リリーナは止めに入られなければ、本当に自分を殺してしまっていたかもしれなかった・・・自分は「殺したいほど憎い奴」なのだとそこで初めて理解できた。
あれ以来、メイドたちが不自然なまでに近い距離で自分の周りをウロウロしているが、性欲より先に恐怖が勝るのが良いことなのか悪いことなのか。今でも冷や汗が止まらない。
騎士団の問題については一つ手を打った。いずれ解決に向かうかもしれない。
だが、屋敷内での危険については自分がとにかく気を付けねばならない。メイドがどれだけ挑発的にうろうろしても、指一本触れてはならんのだ。
いっそメイドは辞めさせて男だけで統一させようとしたが、それがオミトに断られてしまった。
なんにせよシモのことでは文字通り痛い目に遭ってばかりのリュートはようやく懲りた。
これからは無心になって自分の汚名返上のために躍起になろうと闘志を燃やしていた。
「お呼びですか」
少し・・・いや、そこそこの時間を置いてオミトがやってきた。
「財務状況の書類に目を通していたんだが、気になるところがあってね」
騎士団のことは当面後回し・・・リュートはまずは自分に出来ることから始めようと思っていた。
その矢先に気になるところを発見したのだ。
「寄付金という項目だけど、先月までに比べて著しく落ちている。これは何かのミスではないかい?」
収入としては決して無視できないだけの金額が、毎月寄付金として送られてきていたのだ。それが今月から大幅の減額となっており、到底看過できる状態ではない。
「あぁ、それですか。ショウ様が追放され、ルーデルから去ったことが市井に知れ渡ったからでしょうな」
「・・・なに?」
「ショウ様を不当に排除したことへの抗議の意味があるのでしょう。意見書が山ほど来ています。もう以前のようには寄付金も集まらないでしょう。それだけの人気があるお方でしたから・・・」
それは暗に「お前ではショウの代わりにはならないよ」と言っているとリュートは受け取る。
事実、顔だけで中身のないリュートでは人の心を掴むことなどできないだろうなとオミトは思っていた。
「いない者について考えても仕方ないことだ。私が挽回すれば良い」
リュートは意地でそう言った。
オミトは「ハッ」と失笑しながら「どうやってです?」と小ばかにするような目をしてそう言った。
「ショウが名を上げたのもエーペレス叔母様の手腕のお陰であろう!叔母様のお力をまた借りれば良い」
エーペレスのプロデュースによるプロパガンダで、新・ルーデル辺境伯のイメージを再び一新すれば良い。リュートはそう考えていた。
「残念ながら、エーペレス様は既にどこにおられるかわかりません。国内にいるかどうかも不明です」
「何だと!?」
リュートは焦った。
「どうしてだ?どこにいるのかわからないだと?そんなことあるものか!」
「お言葉ですが、本来ルーデル家にここ数年ずっと居たのが異例と言えるほど奔放なお方ですから」
「なっ・・・!」
確かに元々エーペレスはそういう人間だが、ショウのときは家にいて、リュートのときはさっさとどこかへ行ってしまう。リュートは自分がエーペレスからも拒絶されていると思い、また言いようのない悔しさが溢れかえりそうであった。
リュートは泣く泣く寄付金の大幅減額については対策を後回しにすることになった。
だがオミトは知っていた。エーペレスがどこに行き、何をしているのかを。
しかしそれをリュートに教えてやる気は全くなかった。
体こそ嫌々ながらもルーデル家の治療師の回復魔法で治ったものの、心が中々治らず今の今まで引きこもっていたがリュートもようやく立ち直り、動き出すようになった。
「失礼します。お部屋のお掃除に参りました」
執務室にメイドが一人やってきた。リリーナとは違う、若く綺麗な女だ。以前のリュートならば食指が動いただろうが、今のリュートはそうではない。
「そう・・・頼むよ」
伏し目がちにそうとだけ言って、リュートはあくまで無関心を装った。
「ちっ」とメイドが舌打ちしたのがリュートの耳に入る。
これは罠だ。手を出せば、ここぞとばかりにリュートを痛めつける理由ができるーー
リリーナの一件以来、ここ連日代わる代わるメイドがリュートの身の回りの世話にやってきた。だが、リリーナと同じように、手を出されれば辺境伯相手であろうと堂々と正当防衛の名実の元に制裁できると期待してやってくる者ばかりだ。
ショウのことでリュートにヘイトを抱えるメイドは、今か今かと網を張ってリュートの周りをうろうろしているのがここ最近のルーデル邸の光景だった。
「そうだ、掃除はもういい。オミトを呼んでくれないか」
リュートはメイドにそう頼むと「ちっ」と再び舌打ちして、「かしこまりました」と形ばかりの礼をして部屋を出ていった。
「ふぅ・・・」
リュートはメイドがいなくなって溜め息をつく。この屋敷で自分がどれだけ憎まれているというのが本当の意味で肌で実感できた一週間前。リリーナは止めに入られなければ、本当に自分を殺してしまっていたかもしれなかった・・・自分は「殺したいほど憎い奴」なのだとそこで初めて理解できた。
あれ以来、メイドたちが不自然なまでに近い距離で自分の周りをウロウロしているが、性欲より先に恐怖が勝るのが良いことなのか悪いことなのか。今でも冷や汗が止まらない。
騎士団の問題については一つ手を打った。いずれ解決に向かうかもしれない。
だが、屋敷内での危険については自分がとにかく気を付けねばならない。メイドがどれだけ挑発的にうろうろしても、指一本触れてはならんのだ。
いっそメイドは辞めさせて男だけで統一させようとしたが、それがオミトに断られてしまった。
なんにせよシモのことでは文字通り痛い目に遭ってばかりのリュートはようやく懲りた。
これからは無心になって自分の汚名返上のために躍起になろうと闘志を燃やしていた。
「お呼びですか」
少し・・・いや、そこそこの時間を置いてオミトがやってきた。
「財務状況の書類に目を通していたんだが、気になるところがあってね」
騎士団のことは当面後回し・・・リュートはまずは自分に出来ることから始めようと思っていた。
その矢先に気になるところを発見したのだ。
「寄付金という項目だけど、先月までに比べて著しく落ちている。これは何かのミスではないかい?」
収入としては決して無視できないだけの金額が、毎月寄付金として送られてきていたのだ。それが今月から大幅の減額となっており、到底看過できる状態ではない。
「あぁ、それですか。ショウ様が追放され、ルーデルから去ったことが市井に知れ渡ったからでしょうな」
「・・・なに?」
「ショウ様を不当に排除したことへの抗議の意味があるのでしょう。意見書が山ほど来ています。もう以前のようには寄付金も集まらないでしょう。それだけの人気があるお方でしたから・・・」
それは暗に「お前ではショウの代わりにはならないよ」と言っているとリュートは受け取る。
事実、顔だけで中身のないリュートでは人の心を掴むことなどできないだろうなとオミトは思っていた。
「いない者について考えても仕方ないことだ。私が挽回すれば良い」
リュートは意地でそう言った。
オミトは「ハッ」と失笑しながら「どうやってです?」と小ばかにするような目をしてそう言った。
「ショウが名を上げたのもエーペレス叔母様の手腕のお陰であろう!叔母様のお力をまた借りれば良い」
エーペレスのプロデュースによるプロパガンダで、新・ルーデル辺境伯のイメージを再び一新すれば良い。リュートはそう考えていた。
「残念ながら、エーペレス様は既にどこにおられるかわかりません。国内にいるかどうかも不明です」
「何だと!?」
リュートは焦った。
「どうしてだ?どこにいるのかわからないだと?そんなことあるものか!」
「お言葉ですが、本来ルーデル家にここ数年ずっと居たのが異例と言えるほど奔放なお方ですから」
「なっ・・・!」
確かに元々エーペレスはそういう人間だが、ショウのときは家にいて、リュートのときはさっさとどこかへ行ってしまう。リュートは自分がエーペレスからも拒絶されていると思い、また言いようのない悔しさが溢れかえりそうであった。
リュートは泣く泣く寄付金の大幅減額については対策を後回しにすることになった。
だがオミトは知っていた。エーペレスがどこに行き、何をしているのかを。
しかしそれをリュートに教えてやる気は全くなかった。
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