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踏んだり蹴ったり

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リュートは茫然とルーデル邸への帰路についていた。

辺境伯の出出しとして肝心な騎士団との初顔合わせ・・・それが散々な結果となったからだ。


「なんなんだ・・・なんなんだアイツらはっ!!」


当時の記憶が蘇った瞬間、リュートは思わず怒鳴っていた。

リュートはオミトの言う「辺境伯だが最底辺という立場を自覚しろ」という助言に対し、それを正面から受け取っていなかった。「そういう気持ちで謙虚でいろ」というニュアンスで受け取ったのである。

だが、実際のところオミトの言う通り、兵舎では誰もが自分を主と思わぬような態度を終始取り続けた。
それどころか自分の背中を誰かが足蹴にし、騎士団長もオミトもそれを見て見ぬふりで騎士達と笑っていた。


「今後は困ったことがあればなんでもご相談ください」


リュートに心にもない言葉を吐き、ニタニタと下品に笑う騎士の顔が忘れられない。
誰もが自分を見下した笑みを浮かべていた。
私を誰だと思っている!とリュートも一度は凄もうとしたものの「あぁ?」と騎士達に威圧され、言葉を失った。

リュートの顔は屈辱による悔しさと怒りで滲んでいたが、一方のオミトはホッと胸を撫でおろしていた。


(どうやら暴発するよりまずは虐め倒そうと考えたか・・・)


在籍が浅ければ、上官であろうとも虐めの対象になりえる風紀のよろしくない騎士団だったが、今矛先をリュートに向けることにしてとりあえずの溜飲を下げようとしているようだ。これが彼らのとりあえずのところの復讐のようだ。

だがショウとて子供の頃からこの雰囲気に馴染んで生きてきたのである。ルーデルの当主ならば、これくらいのには耐えてもらわねば話にならない。
これでリュートが潰れてしまうならそれはそれで良いかとオミトは考えた。


(くそっ・・・!)


リュートはオミトを恨めしそうな目で睨んだ。
兵舎で自分が騎士達に蔑まれても、ただの一度も助け舟を出してはくれなかった。それどころか一緒になって自分を笑っていた。
オミトは頼りにならない・・・なんとかしなければ・・・!
味方のいないこの状況に、リュートは活を見出そうとしていた。









「ふぅ」


ルーデル邸に戻り、リュートは上着を脱いだ。こんなことでも誰一人として従者がやってくれないので自分でやるしかない。上着を見るとやはり騎士団の誰かが蹴った足跡がついていた。


「ちっ・・・!」


苛立って仕方が無かった。この鬱憤を今すぐ何かで晴らしてしまいたい衝動に駆られた。

だが、それにしても上着がこのままではいけないので、誰か呼んで上着をクリーニングしてもらおうとリュートが呼び鈴を鳴らすと、そこへやってきたのはかつてショウの侍女をしていたリリーナであった。


「お呼びでしょうか?辺境伯様」


どこか壁のつくられた態度のリリーナだが、リュートは目の前の少女を見て唐突に劣情をもよおした。
固い表情の娘だが、綺麗な顔立ちをしている。前からいい女だとは思っていた。

ショウは馬鹿だな、こんないい女が侍女にいながらにして、全く手を出していなかったのかとリュートは心の中で笑う。


「上着が汚れてしまってね。悪いが綺麗にしてくれるかい?」


そう言ってリュートは汚れた上着をリリーナに差し出した。


「お預かりします」


頭を垂れて上着を受け取ろうとして伸ばされたリリーナの手をリュートは取った。


「はっ!?」


驚愕に目を見開くリリーナ。
リュートはここで今すぐリリーナを手籠めにしてしまおうと決めていた。
円満に口説いてやりたいところだが、自分がこの屋敷では今嫌われ者であることは知っている。
ならば強引にでもシてしまい、後は権力でなあなあにしてしまえばいい。


「来い、私の相手をしたまえ」


力を入れてリリーナを手を引くリュート。

怒りと溜まった性欲でリュートは冷静さを欠いている。
あわれリリーナはリュートの手に・・・落ちなかった。


「何触ってんだこのダボがぁ!!」


突然、股間に走った強烈な痛みに、リュートは意識を失いかけた。
豹変したリリーナがリュートの股間を蹴り上げたのだ。


「クソ汚物のてめぇが私に触るんじゃねぇ!私のショウ様を追い出したゲロ以下のゴミ屑野郎が!」


リリーナは怒りの声を上げながら、痛みで悶絶するリュートの顔を拳で何度も打ち付けた。
そこにかつての慎ましいリリーナの姿はなかった。


「がはっ・・・!」


ついには倒れこむリュートに対し、攻撃の手を緩めることなく、リリーナは大股で何度も足蹴にする。


「ショウ様ならともかく、てめぇみてぇなクズ男の〇〇〇なんて1ミリたりとて受け入れるかボケ!死ね!変態!!
変態!!変態!!変態!!」


リリーナは自身の抱えていた怒りを口汚くぶちまけてガスガスと蹴り続ける。
本当に殺してしまいかねない勢いに、騒ぎを聞きつけた他の使用人がようやく止めに入ったが、リュートの意識は既に無かった。

こうしてリュートは屋敷でも騎士団でもますますその肩身を狭くしていった。これぞまさしく踏んだり蹴ったりであった。
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