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肉団子

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アリスが不気味なオーラを纏うと、すぅっとこちらに近づき、空中にいた状態から再び魔王山に足を付けた。

隙だらけだ!

だがっ!俺もディオも今攻撃するのは何か無粋だという思いがあるのか、特に手出しはしなかった。どう考えても今攻撃すれば全てが終わる気がするのに、まったく不思議なものだ。

ややもしないうちに、どこからか音が聞こえた。
この音は・・・


「いかんレイツォ!避けるぞ!!」


ディオが突然叫び、俺を促す。
瞬間、俺とディオはシュバッと跳躍し、部屋の天井にぶら下がっているシャンデリアにしがみついた。
その直後、四方八方からありとあらゆる魔族が現れ、なんとアリスのいるところに飛び込んでいくではないか。


「うげっ!」


アリスの体が肉団子みたいに膨れ上がっていく。否、魔族の体と融合を果たしていた。
ドラゴン、スライム、昆虫、種族を問わぬ魔族がアリスと融合するために現れては溶け込まれていった。どうやらアリスの魔王としての力を使って魔族を操っているらしかった。


「ここももたん!逃げるぞ!!」


ディオが叫び、俺もそれに続いてシャンデリアから飛び降り外に飛び出す。
これまたすぐにその場も魔族の肉団子によって埋め尽くされた。あのままあそこにいたら俺達も飲み込まれていただろう。


「あらあら、形勢逆転ですわね?」


良く通る綺麗なアリスの声が聞こえる。


「きっも!」


見るとアリスの上半身はそのままに、下半身が魔族の肉団子という感じになっていた。今なお魔族が加わり、アリスと融合をして肉団子はどんどん大きくなる。


「かつての魔王クダーンシタは世界中の魔族、動物、果ては人間も自らの肉体に取り込んで、生物としての究極進化の道を模索したようですわ。失敗したのか、その後の記録は残ってはおりませんが。不確実ながらも、これが私に出来る最後の抵抗。こうして全てを取り込み力をつけて、全てを滅ぼしてくれますわ!」


魔王の血が流れているアリスは文献で魔王クダーンシタの進化法を覚えたのか、それを最後の手段として俺たちに戦いを挑むようだ。しかし・・・


「すごく・・・大きいです」


アリスは魔族を吸収し続け、ついには本体であるアリス自身が小さくて見えなくなるほど全体が風船のように大きく膨らんだ。それは今もなお膨れ続けている。
だが問題はあれは風船ではなく、れっきとした一個の肉であるということ。風穴空けたらしぼむようなことはなく、ただただ純粋に巨大な肉として降臨しているのだ。つまり・・・あれを倒すのは至難であるということ。


「愚かな・・・」


ディオは剣を構え、アリスを見上げた。


「・・・やるのか?」


答えはわかっている。だが、俺は一応聞いてみる。


「やる。馬鹿な婚約者の始末をつけるが、私にできる最後の仕事だからだ」


俺は溜め息をついた。俺だけがやってみせたらかっこがついたのに、結局ディオに持っていかれてしまった感だ。


「じゃあ、やるか・・・!」


俺とディオはアリスに向かっていった。俺達の戦いはこれからだ!


「行くぞ兄弟!」


「もうそれ言うのやめろ!!」
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