上 下
69 / 92

運命の時

しおりを挟む
俺とアリス様が閨を共にしているときだった。
一匹のコウモリがアリス様の元へ飛んできて、彼女の肩に止まったのだ。


「・・・そう。わかりました」


どうやらコウモリから何か報告を受けたようだ。アリス様が頷くと、コウモリは再び飛んでどこかへ消えていった。こうしているところを見ると、なんとなくアリス様に「魔王」的な雰囲気が確かに感じ取ることができるなと何となく思った。


「ディオ様がこちらに向かっているようです」


どうしたのかと訊ねた俺に、アリス様はそう言った。


「馬鹿なっ!」


俺は思わず叫んでいた。


ディオがこちらに来ている?国王殺しをさせ、牢に閉じ込められ、処刑が確定しているところまでは知っている。だから、何があってもここ魔王山には来られないはずだった。
ディオの存在自体を排除だけでなく、世間体も壊すことで俺とアリス様が王城に戻っても問題なく結ばれるはずだった。だが、ディオは生きてこの魔王山に向かっているという。
どこまでも目障りな存在、ディオ!


「ふふ・・・」


怒りで震える俺のことを見ていたアリス様は微笑んだ。一体なんだ?と思ってアリス様を見ていると


「とても嬉しそうですわね。笑っていますよ?」


俺の顔を見ていたアリス様がそう言った。


「えっ・・・?」


笑っていた?
俺が笑っていただと?


自分で自分の表情に気付かなかった。俺はいつの間にか笑っていたらしい。怒りを感じるはずのこの時に。

・・・そうだな。嬉しいのかもしれん。罠にかけてこのまま処刑されるよりも、やはり俺が直接自分の手で決着をつけることを望んでいるようだ。それが出来ることが嬉しくてたまらない。
やはり最後は直接対決こそが俺達にふさわしい決着のつけ方であるよな。これこそが運命だ。
例え俺の今の力が借り物で、謀略で処刑までさせようとしたことがあったとしても、こうなることが運命だしこうあるべきなのだ。予定外のことではないのだ。きっと。



「私のことを連れ戻しに来たのでしょうか」


アリス様が悪戯っぽく微笑んだ。俺はそんなアリス様の頬にキスをすると


「では、その不埒な輩をこれから退治するとしましょう」


キメ顔でそう言ってのけた。

負ける気がしない。
今の俺はアリス様との契約により、爆発的に魔力が向上し、抑えきれない力が体から溢れている。
このやり場のないほどの力、全てをディオに叩き込めばあいつとて生きてはおるまい。
これまで辛酸をなめ続けてきたこの俺が、他でもないディオの婚約者の協力であいつをぶちのめすのだ。



「これまで俺に屈辱を与え続けてきたことを、あの世で俺に詫び続けろ・・・ディオ!」
しおりを挟む

処理中です...