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吐き気をもよおす邪悪とは

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突然目覚めた浮遊術のみならず、俺の中ではこれまで自分が使ったことも学んだこともなかった知らない魔術・・・力が湧き上がっていた。
その一つが幻覚魔術・・・人間の感覚に干渉し、自在に幻覚を見せるという高位の魔術だが、何故だか知らんが俺はいつの間にか使えるようになっていた。俺が俺自身の変化を微細に感じ取れているからこそ気付いたことだった。
これもアリス様からの契約のお陰か。

俺はこの契約の力でもって、ディオからの完全勝利を果たす。
俺とアリス様でディオを排除し、新しい未来を築くのだ。



「おじゃましまーす」


スッと俺は深夜のルーチェ城へ侵入する。浮遊術で空から侵入したので、ただ一人の兵に見つかることもなかった。先日魔族に空から襲撃されたくせになんて酷い警備なんだろうと思う。
俺が入ったのはディオのために用意された部屋だ。まだ一度も王城に入ったことのない俺だが、「ディオ様の部屋」と札がかけてあったのですぐにわかった。

ディオは立派なベッドで既に眠っており、スースーと寝息を立てている。


「ここで殺すことは(多分)簡単だが、それだけでは済まさん」


ここで寝首をかけば全てが終わるのだが、それは俺のプライドが許さなかった。既に道を踏み外しており、プライドを語れるような立場でもない気がするが、それでもプライドが許さなかった(支離滅裂)。


んんっ・・・ とディオが反応を示す。
ヤバイ!思わず独り言を言ってしまって起こしてしまいそうになった。
俺はディオが起きる前にすぐさま仕事を終わらせることに決めた。


「・・・むぅ」


ディオの頭の上で手をかざして念じる。俺の覚えたての幻覚魔術をディオにかけているのだ。



「ふふっ、これで終わりだ。いや、終わりの始まりというべきか」


術をかけ終わると、つい気が緩んでしまったのか独り言ちてしまう。それを聞いてまたディオが起きそうになってきた。今度は本当に起きそうだった。俺は慌ててバタバタと部屋から逃げ出した。もしかしてディオに見られているかもしれないが、とりあえずのところは些細な問題だ。

なんだか締まらなかったが、これにて俺の工作は終了。後はディオが罠にかかるのを見ているだけだ。

吐き気をもよおす邪悪だと以前の俺なら言っていたかもしれない非道を俺は進み始めていた。
それは心のどこかで自覚していたはずだった。
だが俺は止まらなかった。何故だか知らないが、止まろうとする自制の心が働かなかったのだ。
その暴走の正体に気付くのは、もう少し後のなってからのことだった。
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