上 下
44 / 92

逃せないビッグウェーブ

しおりを挟む
浮かれていた俺は、アリス様に俺のことを知ってもらおうといろいろなことを話した。

ディオと幼馴染であること。子供の頃からディオとはいろいろと競っていたライバルだったこと。

そして、アリス様を一目見たときに恋焦がれ、彼女との婚約を賭けた武闘会では死ぬ気で特訓して臨んだことなど、気が付けば一時間以上も俺自身のことについて語ってしまっていた。
アリス様は話の全てを相槌を打ちながら笑顔で聞いてくれていた。正直これだけで俺はもう満足だと思った。夢のような時間を堪能することが出来た・・・心からそう思っていた。


「まぁ・・・それほどまでに想って頂いていたなんて、何だか照れてしまいますわ・・・」


全てを聞き終わった後、アリス様は顔を赤らめてそう言った。
そう言ってもらえただけで・・・俺の中にあったディオを出し抜いてきたことの罪悪感は消し飛んでいた。
そして、俺は天まで届かんばかりに上がったテンションに任せ、とんでもないことを口走っていた。


「私は!ディオが想う気持ちのそれよりも、深く強くアリス様をお慕いしております!!」





・・・やらかした。

言い放った直後に、僅かに残る理性的な部分の俺がそう思った。
今俺が言ったことは、アリス様への無礼のみならず、暫定次期国王であるディオに対する不敬でもある。
合わせ技で極刑になることは火を見るより明らかだった。
この後アリス様をルーチェ城へ連れ帰ったとき、アリス様がここであったことを告げれば俺は直ちに牢に繋がれ、時を置かずして死刑となるだろう。慈悲はない!


「・・・まぁ」


アリス様の反応は「呆気にとられる」。まさにそれであった。驚いた顔のまま硬直してしまっているように見える。
きっと心の中では「この人何言ってるのかしら」「とりあえず今は適当に流して刺激しないでおこうかしら」「ディオ様を侮辱したわね許せないわ」などと思っているに違いない。
それだけ俺は失態を犯したのだ。いや、今更だが。
だがディオと比較してしまったのはもう駄目だろう。不敬だ。死刑だ。

顔はキメ顔のまま、俺は心の中でそんなことをずっと考えていた。

だが、アリス様は


「そんな・・・どうしましょう・・・そんなこと言われたの初めてだわ・・・」


そんなことを言いながら、顔を赤らめてもじもじしている。
か、可愛い・・・じゃない!
これは・・・もしかしてディオへの裏切りを誤魔化すどころか、ワンチャン姫様のことを狙えるのでは?


このままただ帰してはいけない。俺の中の悪魔が囁いていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

完結 幽閉された王女

音爽(ネソウ)
ファンタジー
愛らしく育った王女には秘密があった。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

転生令嬢は現状を語る。

みなせ
ファンタジー
目が覚めたら悪役令嬢でした。 よくある話だけど、 私の話を聞いてほしい。

お爺様の贈り物

豆狸
ファンタジー
お爺様、素晴らしい贈り物を本当にありがとうございました。

悪役令嬢にざまぁされた王子のその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。 その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。 そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。 マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。 人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

処理中です...