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ルーチェ昔話 その8 ~ウラエヌス目線~
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魔王を倒してから10年が経過した。
ワシはルーチェ国を離れ、隣国のリーン国に移って冒険者として活躍していた。
移った当初はナオール草という薬草が大量に溢れたことによって活躍の場が極端に削られたルーチェから大量の回復術師がリーン国に流れついて回復術師の値崩れがすさまじかったが、ワシは高レベルの回復術を使えるのでそれなりの待遇でスカウトされていた。
ワシはパーティーの回復役に徹しつつも、過去の経験を糧に若い冒険者たちにアドバイスをし、後進を育てることに柄にもなく生きがいを感じていた。なまぐさ坊主と言われて教会を爪弾きにされていたわしがこうなるとは皮肉だと思う。
だが、ワシから見てまだまだ未熟な冒険者を見ていると、ついつい世話を焼きたくなってしまうのは自分が年を取ったからであろうか?昔なら放っておいたのに。
そんなわけでリーン国で刺激的ながら遣り甲斐のある活動をして生活していたわけだが、ある時それが終わりを告げた。
「ウラエヌスさんよ!悪いがアンタは今日でパーティーを追放だ!」
酒場で話があるとリーダーである勇者に一人で呼び出されたかと思うと、彼はそうワシに言った。
まさか昔バリーが経験していたことと同じことをワシが経験するとは思わなかった。
「なんじゃと?正気か?」
パーティーに大きく貢献していたはずのワシを追放しようという発言を受けて、言葉通り勇者の正気を疑ってしまった。
「あぁそうだ。これはもう決まったことだ」
勇者の決心は固いようだった。
これには流石にワシも焦りを禁じえなかった。
「な、なぜじゃ?理由を教えてくれんか」
「言わなければわからないのか?」
理由を聞くワシに、勇者はキッと睨みつけてきた。
「なんじゃ?パーティー仲間であるお主の幼馴染のサラと寝たせいか?言ってはなんだがワシから迫ったわけじゃないぞ?ワシが回復術についていろいろ教えていたら、向こうから迫ってきただけのことであって
「黙れ!言わなくていい!!」
ワシの言葉を途中で遮って勇者は叫んだ。顔を真っ赤にして鼻息を荒くしている。ついでに目に涙も浮かべている。
「理由はそれだけじゃない!アンタがもうこのパーティーには必要ないからだ!」
「なん・・・じゃと?」
正直多少のヤンチャはしても許されると思って、勇者には悪いと思いつつもサラに手を出してしまっていた。だが許してはもらえなかったようだ。
「これはわかるだろ?」
勇者はそう言ってあるものをワシに見せてきた。それは液体の入った小瓶・・・
「ポーションか」
ルーチェにあったナオール草を原材料として作られたリーン国で開発された新しい回復薬ポーション。
値は張るが、ナオール草とは比にもならないほどの回復力を誇るアイテムだ。
「ポーションの量産化がついに始まって今までよりずっと安く買えるようになったのさ。こいつがあれば、もうアンタのような口うるさいうえにパーティークラッシャーである役立たずを使う必要はないのさ」
「・・・なんと・・・」
これまでは高価であるということでまだまだポーションが高位の回復術師にとって代わることはないと思っていた。だが、それは思い違いであったというわけだ。
「これまでずっと!ずっとずっと冒険中もいろいろいろいろ口出ししてきやがって迷惑だったんだ!お陰でサラはリーダーの俺じゃなくアンタを尊敬するようになるし・・・」
「それ、ワシが悪いの?」
リーダーに威厳がないのが悪いのでは。
「とにかく!回復術師が必要でなくなった以上、これでもう我慢して年寄りのアンタを使う必要なんて無いってことだ。リーダー権限として、アンタはこのパーティーから追放する!!」
ビシッと勇者はワシに指をさしてそう宣言した。ここまで嫌われては残っても意味はないし、何を言っても無駄だろう。
まさか、まさかついに自分までもが時代の流れによって役立たず扱いされてしまうようになってしまうとは夢にも思わなかった。そのショックに茫然とし、勇者に縋ろうという気持ちさえ湧かなかった。
「わかった・・・このパーティーを抜けよう」
ワシは勇者の宣言を受け入れた。しばらく一人が考え事をしたくて、すぐにでもこの場から離れたかった。
勇者は満足そうに笑みを浮かべていた。
「あぁ、そうだ。もう一人のパーティーメンバーの魔法使いのドロシーな。あれもワシのお手付きじゃ。サラから乗り換えようとしたって手遅れじゃぞ」
せめてもの嫌がらせで勇者に教えてやってから酒場を出た。勇者の発狂する声が聞こえてきたがどうでも良かった。気まずくなってパーティー解散してしまえばいいのだ。
ショックで足取りがふらふらしていた。何も考えたくなかった。
自分が見下していた並の回復術師と同じ道を歩むことになってしまったことがとにかくショックだった。
元魔王を倒した勇者で、高位の回復術師である自分は生涯現役でいられるほど特別な存在だと思っていたのだ。
ひよっこの冒険者を導き続けることが自分の使命であると信じて疑わなかったワシには、この事実は重すぎた。
ワシはルーチェ国を離れ、隣国のリーン国に移って冒険者として活躍していた。
移った当初はナオール草という薬草が大量に溢れたことによって活躍の場が極端に削られたルーチェから大量の回復術師がリーン国に流れついて回復術師の値崩れがすさまじかったが、ワシは高レベルの回復術を使えるのでそれなりの待遇でスカウトされていた。
ワシはパーティーの回復役に徹しつつも、過去の経験を糧に若い冒険者たちにアドバイスをし、後進を育てることに柄にもなく生きがいを感じていた。なまぐさ坊主と言われて教会を爪弾きにされていたわしがこうなるとは皮肉だと思う。
だが、ワシから見てまだまだ未熟な冒険者を見ていると、ついつい世話を焼きたくなってしまうのは自分が年を取ったからであろうか?昔なら放っておいたのに。
そんなわけでリーン国で刺激的ながら遣り甲斐のある活動をして生活していたわけだが、ある時それが終わりを告げた。
「ウラエヌスさんよ!悪いがアンタは今日でパーティーを追放だ!」
酒場で話があるとリーダーである勇者に一人で呼び出されたかと思うと、彼はそうワシに言った。
まさか昔バリーが経験していたことと同じことをワシが経験するとは思わなかった。
「なんじゃと?正気か?」
パーティーに大きく貢献していたはずのワシを追放しようという発言を受けて、言葉通り勇者の正気を疑ってしまった。
「あぁそうだ。これはもう決まったことだ」
勇者の決心は固いようだった。
これには流石にワシも焦りを禁じえなかった。
「な、なぜじゃ?理由を教えてくれんか」
「言わなければわからないのか?」
理由を聞くワシに、勇者はキッと睨みつけてきた。
「なんじゃ?パーティー仲間であるお主の幼馴染のサラと寝たせいか?言ってはなんだがワシから迫ったわけじゃないぞ?ワシが回復術についていろいろ教えていたら、向こうから迫ってきただけのことであって
「黙れ!言わなくていい!!」
ワシの言葉を途中で遮って勇者は叫んだ。顔を真っ赤にして鼻息を荒くしている。ついでに目に涙も浮かべている。
「理由はそれだけじゃない!アンタがもうこのパーティーには必要ないからだ!」
「なん・・・じゃと?」
正直多少のヤンチャはしても許されると思って、勇者には悪いと思いつつもサラに手を出してしまっていた。だが許してはもらえなかったようだ。
「これはわかるだろ?」
勇者はそう言ってあるものをワシに見せてきた。それは液体の入った小瓶・・・
「ポーションか」
ルーチェにあったナオール草を原材料として作られたリーン国で開発された新しい回復薬ポーション。
値は張るが、ナオール草とは比にもならないほどの回復力を誇るアイテムだ。
「ポーションの量産化がついに始まって今までよりずっと安く買えるようになったのさ。こいつがあれば、もうアンタのような口うるさいうえにパーティークラッシャーである役立たずを使う必要はないのさ」
「・・・なんと・・・」
これまでは高価であるということでまだまだポーションが高位の回復術師にとって代わることはないと思っていた。だが、それは思い違いであったというわけだ。
「これまでずっと!ずっとずっと冒険中もいろいろいろいろ口出ししてきやがって迷惑だったんだ!お陰でサラはリーダーの俺じゃなくアンタを尊敬するようになるし・・・」
「それ、ワシが悪いの?」
リーダーに威厳がないのが悪いのでは。
「とにかく!回復術師が必要でなくなった以上、これでもう我慢して年寄りのアンタを使う必要なんて無いってことだ。リーダー権限として、アンタはこのパーティーから追放する!!」
ビシッと勇者はワシに指をさしてそう宣言した。ここまで嫌われては残っても意味はないし、何を言っても無駄だろう。
まさか、まさかついに自分までもが時代の流れによって役立たず扱いされてしまうようになってしまうとは夢にも思わなかった。そのショックに茫然とし、勇者に縋ろうという気持ちさえ湧かなかった。
「わかった・・・このパーティーを抜けよう」
ワシは勇者の宣言を受け入れた。しばらく一人が考え事をしたくて、すぐにでもこの場から離れたかった。
勇者は満足そうに笑みを浮かべていた。
「あぁ、そうだ。もう一人のパーティーメンバーの魔法使いのドロシーな。あれもワシのお手付きじゃ。サラから乗り換えようとしたって手遅れじゃぞ」
せめてもの嫌がらせで勇者に教えてやってから酒場を出た。勇者の発狂する声が聞こえてきたがどうでも良かった。気まずくなってパーティー解散してしまえばいいのだ。
ショックで足取りがふらふらしていた。何も考えたくなかった。
自分が見下していた並の回復術師と同じ道を歩むことになってしまったことがとにかくショックだった。
元魔王を倒した勇者で、高位の回復術師である自分は生涯現役でいられるほど特別な存在だと思っていたのだ。
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