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猪突猛進

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「あれ?もう出かけるのかい。ディオ君だっていつ出るのかまだわからないのに」

急かしたくせにそんなことを言ってくる母。

「いや、あいつディオが俺の知ってる通りなら、すぐにでも出るはずだ」

やることを決めたら準備もそこそこに俺は家を飛び出した。
なるべく人目に触れぬよう、こそこそと移動をする。
なんとなく予感がしてチラリと家の方を振り返ってみたら、丁度城の兵士が何人か訪ねているところだった。
危なかった・・・
もし俺の徴兵が目的だとしたら、恩を着せるために自発的に協力してやることが出来なくなるところだった。
まぁ俺の力は今の王国にとって喉から手が出るほど欲しいものだろうから多少はね?

とにかく兵士に見つからないように移動し、俺はディオが通るだろう街はずれであいつを待った。
そしてややもしないうちに、遠くから歓声が聞こえてくる。


「ディオ様ーーーっ!」

「勇者だ!勇者のご出立だ!」

「国をお救いください!」

「DIO様ぁぁぁぁぁぁぁaaaaaaaa」


内容を聞くだけで何が起きているのか理解できた。
どうやら俺の読み通り、ディオが出立するようだ。奴は割と猪突猛進の人間だ。こうと決めてからの行動力が段違いなのだ。やつが救出に出るというのなら、それが即日であることは想像できていた。
いや、本当に読みが当たって良かった。万が一明日とか明後日だったら、それまで俺は家にも帰らず待たねばならなかった。

「勇者様ーーっ!がんばってくだされ!!」

国の危機に一人自ら立ち向かうディオを称える声が聞こえる。皆が「勇者」と彼を読んでいた。
新王としてこの国を統べることになる男が、自身の婚約者を助けるために恐ろしい魔族の住まう地へ挑むのだ。今ディオの株は恐ろしいほどの爆上がりを見せている。

やれやれ勝手なことだ。その一人で挑む勇者様は、普通に考えれば高い確率で命を落とす・・・それだけ無謀なことに挑もうとしている。だが、そんなことにも気づかない、あるいは気付いていないふりをして、こうしてディオを呑気に見送る。俺のようにディオの実力をよく知り尽くしているならともかく、そうでないやつがああして称えて送り出すのは無責任だと思った。あれだけ人数がいながら、誰一人として彼に協力を申し出るやつがいないのだ。

まぁ、ディオの仲間が務まる男などそういるはずもないが。
この俺を除いてな。


「一人で行くつもりか?ディオ」

ディオが街はずれまでやってきたとき、俺は歩みを阻むようにやつの前に躍り出た。

「ここで時期国王にいなくなられては国も混乱するのでな。俺も行こう」

時間が無かったのであまりいい台詞を考えることが出来なかった。弱ツンデレみたいだ。
だが、最初こそ驚いた顔をしていたディオは、俺の言葉を聞き終えると微笑み、礼を言った。
こうして俺達は二人で王都を出発することになった。
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