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追跡者ライルの災難 その12
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霧が晴れ、視界が良くなったライル達の目に入ったのは、衝撃的な光景だった。
「な、なんだあれ・・・?」
魔物など自分の引き立て役でしかない、さっさと剣の錆となれ!としか考えていなかったライルも、目に映る現実に冷静にならざるを得なかった。
千体に達しそうなほどの魔物の大群。
それも、ザッと見るだけでも数十に上る種族の混成軍団だ。
魔族はごくわずかな例外を除き、基本的に他種族とは共生しない。同じダンジョンに巣くうとしても、種族ごとの縄張りはしっかりと決められている。
侵犯する者は即座に排除され、殺し合いが起こることもしばしばだ・・・というのは、シュウがかつてライル達に教えてくれた知識である。
知能がある程度高い高位の魔物となれば共生もありえるが、ライル達に見えるのは特にそれに属さぬ普通の獰猛な魔物達ばかりだ。混成軍団など築ける知能があるという種族ではない。
「なんだよあれは!?あんなのがいたらとっくに騒ぎになってるだろ!?」
千体に迫る他種族混同の魔物の群れなどいれば、必ず誰かの目に留まり一瞬で情報は国中・・・果ては近隣国へも回るはずだった。
それこそ白金の騎士団が出動しかねないほどの騒ぎになる。それだけ異常な出来事なのだから。
他種族による混成軍団・・・それだけでも異常だが、本当にライル達を驚かせたのはそこだけではない。
それは、そこにいる魔物の様子が明らかに異常であることだ。
ライル達が普段相手にしている魔物の面影を残しているが、良くみると体毛が剥げ、皮膚が腐り、一部体がもげていながらも、ライル達に迫ろうと動いている・・・
魔物達は動く死体・・・ゾンビであったのだ。
「・・・!」
ライルは地面に転がっている、先ほどまで自分が斬り伏せた魔物の死体に目を向ける。
濃霧の中、矢継ぎ早に出現する相手に対応していたから気付かなかったが、ライルがそれまで戦っていた相手もしっかり見るとゾンビだったようだ。
「そういえば、血が少ない・・・」
アリエスは前衛として剣を振るっていたライルとサーラに目を向け、ハッと気づいたように漏らす。
「そういえば、ほとんど返り血がないわね」
レーナも気付く。
ライルは勇んで数十体の魔物を切り刻んでいた。普通なら返り血でライルの体にはびっしりと血がつき、地面も血で染まっているはずだった。
だが、敵が死体であったためか、返り血がほとんど出ることなく、ライルも地面も比較的綺麗なままだった。
「敵はゾンビの軍団っスか!?」
アリエスがそう叫んだ瞬間、ライルに斬り伏せられた魔物達の体が動き出した。
「げぇっ!?確かに斬ったはずなのに!」
「生きている生物と体が動く原理が違うので、斬っただけで行動不能に出来るとは限りません」
慌てて飛びのくライルにそう言いながら、アイラが炎の魔法で動き出した魔物の死体たちを焼き払う。
「私達に任せて」
レーナがそう言い、アイラと共に前に出る。
ゾンビとの戦いはライル達は多いほうではないが、それでも初めてではない。だから物理的な攻撃よりも魔法攻撃の方が有効であることを知っている。こうなればライル達前衛はレーナやアイラ達の露払いに徹するしかない。
折角自分が前衛に立ち、サーラ達に良いところを見せられるチャンスだったのに!と、こんなときでもライルは呑気なことを考えつつ、渋々交代することを飲み込んだ。
これからは魔法による殲滅戦。魔法の射程に入らないよう後ろに下がっていないと、仲間が放つ攻撃魔法の餌食になるというアホみたいなことになるからだ。
「ちっ、仕方がないか・・・サーラ、そういうわけで直掩のほうを頼む・・・ぞ?」
共に魔法使い達の援護に入るために下がることになるサーラの方の見ながら、ライルはそう言ったところで・・・
「サーラ・・・?」
サーラの様子がおかしいことにライルは気付く。
体を縮こませながら、持っていた剣を地面に落としてがくがくと震えている。
「おいおい・・・?」
剣士たるもの、何があっても敵前で剣を手放すことなどあってはならぬ。
剣豪の中の剣豪であるはずのサーラが、そんな基本中の基本の剣士としての矜持すら忘れていることに衝撃を受ける。
「シュウ・・・シュウ、やっぱり、お前がいないと駄目だ・・・」
小さくそう呟いたその声を、ライルは聞き逃さなかった。
「な、なんだあれ・・・?」
魔物など自分の引き立て役でしかない、さっさと剣の錆となれ!としか考えていなかったライルも、目に映る現実に冷静にならざるを得なかった。
千体に達しそうなほどの魔物の大群。
それも、ザッと見るだけでも数十に上る種族の混成軍団だ。
魔族はごくわずかな例外を除き、基本的に他種族とは共生しない。同じダンジョンに巣くうとしても、種族ごとの縄張りはしっかりと決められている。
侵犯する者は即座に排除され、殺し合いが起こることもしばしばだ・・・というのは、シュウがかつてライル達に教えてくれた知識である。
知能がある程度高い高位の魔物となれば共生もありえるが、ライル達に見えるのは特にそれに属さぬ普通の獰猛な魔物達ばかりだ。混成軍団など築ける知能があるという種族ではない。
「なんだよあれは!?あんなのがいたらとっくに騒ぎになってるだろ!?」
千体に迫る他種族混同の魔物の群れなどいれば、必ず誰かの目に留まり一瞬で情報は国中・・・果ては近隣国へも回るはずだった。
それこそ白金の騎士団が出動しかねないほどの騒ぎになる。それだけ異常な出来事なのだから。
他種族による混成軍団・・・それだけでも異常だが、本当にライル達を驚かせたのはそこだけではない。
それは、そこにいる魔物の様子が明らかに異常であることだ。
ライル達が普段相手にしている魔物の面影を残しているが、良くみると体毛が剥げ、皮膚が腐り、一部体がもげていながらも、ライル達に迫ろうと動いている・・・
魔物達は動く死体・・・ゾンビであったのだ。
「・・・!」
ライルは地面に転がっている、先ほどまで自分が斬り伏せた魔物の死体に目を向ける。
濃霧の中、矢継ぎ早に出現する相手に対応していたから気付かなかったが、ライルがそれまで戦っていた相手もしっかり見るとゾンビだったようだ。
「そういえば、血が少ない・・・」
アリエスは前衛として剣を振るっていたライルとサーラに目を向け、ハッと気づいたように漏らす。
「そういえば、ほとんど返り血がないわね」
レーナも気付く。
ライルは勇んで数十体の魔物を切り刻んでいた。普通なら返り血でライルの体にはびっしりと血がつき、地面も血で染まっているはずだった。
だが、敵が死体であったためか、返り血がほとんど出ることなく、ライルも地面も比較的綺麗なままだった。
「敵はゾンビの軍団っスか!?」
アリエスがそう叫んだ瞬間、ライルに斬り伏せられた魔物達の体が動き出した。
「げぇっ!?確かに斬ったはずなのに!」
「生きている生物と体が動く原理が違うので、斬っただけで行動不能に出来るとは限りません」
慌てて飛びのくライルにそう言いながら、アイラが炎の魔法で動き出した魔物の死体たちを焼き払う。
「私達に任せて」
レーナがそう言い、アイラと共に前に出る。
ゾンビとの戦いはライル達は多いほうではないが、それでも初めてではない。だから物理的な攻撃よりも魔法攻撃の方が有効であることを知っている。こうなればライル達前衛はレーナやアイラ達の露払いに徹するしかない。
折角自分が前衛に立ち、サーラ達に良いところを見せられるチャンスだったのに!と、こんなときでもライルは呑気なことを考えつつ、渋々交代することを飲み込んだ。
これからは魔法による殲滅戦。魔法の射程に入らないよう後ろに下がっていないと、仲間が放つ攻撃魔法の餌食になるというアホみたいなことになるからだ。
「ちっ、仕方がないか・・・サーラ、そういうわけで直掩のほうを頼む・・・ぞ?」
共に魔法使い達の援護に入るために下がることになるサーラの方の見ながら、ライルはそう言ったところで・・・
「サーラ・・・?」
サーラの様子がおかしいことにライルは気付く。
体を縮こませながら、持っていた剣を地面に落としてがくがくと震えている。
「おいおい・・・?」
剣士たるもの、何があっても敵前で剣を手放すことなどあってはならぬ。
剣豪の中の剣豪であるはずのサーラが、そんな基本中の基本の剣士としての矜持すら忘れていることに衝撃を受ける。
「シュウ・・・シュウ、やっぱり、お前がいないと駄目だ・・・」
小さくそう呟いたその声を、ライルは聞き逃さなかった。
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