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哀れ白金の騎士

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屋敷から森を抜け出すまでの道は悪路だった。
屋敷が使われなくなってから、誰もそこを馬車で行き来することがなく手入れもされていなかったから当然だった。

ガタッ ガタタッ

悪路を走る震動で荷室にあるポーションを満載した箱が大きく揺れる。


「箱が崩れそうです」


荷物がひっくり返り、中のポーションが駄目になるかもしれないので、一応フローラはキャビンにいるトラヌドッグにそう伝えた。
そこで「じゃあゆっくり走るか!」などと言われても困るのだが、箱詰めのポーションは全て合わせればかなりの額になる。それらを助け船を出してくれた持ち主の知らぬ間に廃品にしてしまうのも何となく気が引けたので、伝えることだけは伝えようと思ってのことだった。


「気にすることはない!むしろ今となっては荷ほどきしてここで投棄してしまったほうが、都合が良いまであるからな!そいつが見つかったらワシもオシマイだ!」


「は?」


トラヌドッグの言葉を聞き、シュウ達は「やはりこの人は騎士達に対して後ろめたい何かがあるのだ」と確信する。
最初は気の良い商人かと思っていたが、どうもただそれだけではないようなのでジト目で二人して寒い視線を送った。
しかし、いかに素行の怪しい者とはいえ今は共に逃亡を続ける仲間だ。シュウ達とてお尋ね者なのだから、とやかく言うことはない。


「森を抜けるぞ!」


トラヌドッグがそう叫んだ瞬間、馬車が森を抜けて視界が広くなる。
見渡しの良い平原だったが、そこに白金の騎士団が展開していた・・・ということはなく、シュウ達はまずはホッと胸を撫でおろす。


「とりあえず最悪の状況を迎えることはありませんでしたか・・・」


馬車の進行方向には騎士団の影もない。
包囲さえなければどうとでもなる-- シュウがそう考えたときだった。


「追っ手です!」


荷台から後方を見張っていたフローラが声を張り上げる。
その声に反応してシュウも後方を確認すると、三人ほどの騎馬隊が猛然と馬車を追いかけてきているのが見えた。
どうやら本隊による既に追撃が始まっているようだということを知り「流石速いなぁ」とシュウは渋面しながらも感心したように呟く。

一人の騎士が新たに信号弾を上空に向けて打ちあげる。
馬車は猛然と進んでいるが、騎馬は断然それより速いので、信号弾を見た本隊と他の騎馬隊が合流してくるのは時間の問題だ。


「流石に簡単には行きませんか」


現状ではまだ包囲されていないが、実質包囲の一歩手前まで来ていることにシュウは焦りを感じる。


「来るなら来なさい・・・相手をしますよ」


シュウは気を高め、来る戦闘に備えて身構える。
しかし、騎馬隊は馬車からつかず離れずの一定を距離を保って並走し、ときたま信号弾を上空に向けて打っているだけで、決して馬車に近づいてこようとはしてこなかった。

これは白金の騎士団の応援が来るのを待ち、合流してから仕掛けるためである。
万が一にも取り逃がしをしないようにするために、数を揃えてから確実に捕らえるつもりだった。
帝都では不測の事態が起き、フローラ達をみすみす逃してしまったという失態を起こした白金の騎士団は、慎重に慎重にとシュウ達を捕まえようと動いているのだ。


「バインド!」


だが、白金の騎士団のそれに付き合ってやるつもりなどシュウ達には無い。


「ぐあっ!?」

ズシャッ

馬車の荷台から騎馬隊を睨んでいたフローラが拘束魔法を使うと、騎馬隊の一人の馬が白い光の帯に絡めとられて動きを止め、乗馬していた騎士が落馬して地面に身を投げ出された。
白金の騎士は聖魔法に対する耐性があるとスコーンが言っていたので、ならばと馬に狙いを定めたのが功を奏する。

騎馬隊の残りは二人。
フローラは引き続き拘束魔法で落馬を狙おうとすると、騎馬隊は今度は作戦を変えたのか騎馬隊は馬車に急接近し、ついには馬から飛び降り馬車に飛び乗ってきた。
仲間の数が揃ってから強襲する予定だったが、追跡しながらフローラの魔法による妨害を防ぐのは不可能だと判断し、強襲する方針に変えたのだ。


「このっ・・・!」


「待ちなさい」


慌ててフローラが戦おうと身構えると、シュウがそれを押しのけて前に出る。


「私が代わります!」


キャビンから素早く荷室に移ったシュウは、フローラに代わり応戦体勢に入る。
ここが正念場だ、と緊張した面持ちでシュウは荷室に乗り込んできた騎士と対峙した。だが、ここでシュウは思いもしないことを騎士に言われるのであった。


「お前さえここで倒せれば、団長の暴走は止まる!!」


と。
「え?突然なに?」とシュウは困惑した。
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