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遭遇

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「っ!!」


それは一瞬のこと。
シュウは即座に身を翻し、それまで居たその場から距離を取って身構える。


(いつの間にっ!?)


先ほどまでシュウがいた場所の隣には、一人の細身の男が立っている。シュウはその男が言葉を発するまで、全く存在に気が付いていなかった。
シュウの全身からブワッと冷や汗が溢れ出る。『光の戦士達』に属し、圧倒的な強さを誇る魔族と対峙していたときのような、震えるほどの緊張感が全身を走っっていた。


「おぉ、素早い反応だな。大したものだ」


男はシュウの方を見やり、感心したように言った。
歳は二十歳前といった感じで、綺麗な銀髪と赤い瞳、見ていて寒気がするほど整ったマスクを持った白いスーツ姿の美男子である。
背丈はシュウより低く、見てくれは完全に人間で全く驚異的ではないはずだが、それでもシュウはすぐに気が付いた。


(こいつは魔人だ・・・!)


バフォメット達のことを最初に見たときからそうと気付いていたように、シュウは目の前の美男子が魔人であることを見抜いた。


「ほぉ、お前・・・に気付いているな?中々勘のいいやつだ」


銀髪の男はそう言ってフッと口角を上げた。


「貴方は誰ですか・・・!」


銀髪の男に問いながら、ジリ・・・とシュウはほんの数ミリ間合いを詰める。会話をとっかかりに相手に隙を作り、瞬時に飛び掛かる・・・そのつもりだったが・・・


(・・・隙がない!)


手をだらりと下げ、ただ立っているように見える銀髪の男には、シュウから見て全く隙がないように見えた。どのようにどのタイミングで打ち込んだところで対処される・・・そんな確信があり、全く手が出せないでいた。
手合わせはしていないが、シュウは目の前の男がこれまで出会ってきたその敵よりも強力であることを直感する。


「やれやれ、とんだ無礼者だな。まずは自分から名乗るが礼儀だろうに・・・だが、まぁいい。お前は面白いから特別に名乗ってやる。俺の名はアモン。ちょっと所用があったのでここに出向いただけだ。そう警戒せずとも、用が済めばすぐに帰る」


フッと薄く笑い、アモンと名乗った男はルーシエとジャヒーの方へと視線を向けた。シュウがどう仕掛けてきたとしても、対処できる自信があるのか余裕のある態度である。
視線を自分から外しても全く隙があるように見えないアモンに対し、シュウはただ構えて彼を凝視することしか出来なかった。


「ア・・・アモン様っ!?」


そのとき、横から声を上げたのはバフォメットだった。
羊頭で表情などシュウには読めないが、酷く狼狽しているように感じる。


「だ、誰だあれ・・・?」


「イケメンだわ・・・」


「こんな場面にいきなり現れるイケメンっておかしくはないか?」


「ならミステリアスなイケメンなのよ!」


「まじかよイケメンなら何でもありだな・・・」


バフォメットの声でようやくマモンの存在に気付いた使用人達だが、アモンの見た目が特に驚異的でないためか、何とも呑気な反応だ。バロウですら「はて、あんな使用人いたかな?」と首を傾げるだけだった。


「アモン様・・・」


バフォメットの他に、明らかに驚愕しているのはジャヒー。
それまでどこかぼうっと呆けていたような雰囲気だったが、アモンの登場によりハッと我に返ったように顔色を変えた。


「貴方は・・・?」


バフォメットとジャヒーの態度を豹変させたマモンに対し、ルーシエは怪訝な顔をしながら問いかけた。
しかし、アモンはルーシエの質問には答えず、微笑を浮かべながらジャヒーへと目を向ける。口元に笑みこそ浮かべているが、その瞳には無言の圧力のようなものがあった。


「随分とおしゃべりな口だねジャヒー。『箝口の制約』はかけたものの、もし何らかの手段で口が割られるようなことがあればわかるようにとしておいたのだが・・・まさか本当に口を割って俺が出向くことになるだなんて思いもしなかった。一体どういうことなのか・・・」


そう言いながら、顎に手を当て、考える素振りを見せるアモン。
それを見たシュウは、アモンがバフォメット達を監視する立場の魔人であることを察した。そしてバフォメット達より遥かに格上であり、さっきまでのようにシュウが一方的に制することは不可能であるということも。

となると、アモンがどうしてここに現れたのかについて理由にも自然と見当がついた。
シュウは冷や汗を流しながら。それだけは阻止したいと考えるが、果たして自分で止められるのかと考える。


「『箝口の制約』の解除・・・はされていないみたいだ。その状態で秘匿内容について口を割れば全身から血を吹きだして死ぬはずだが・・・はてさて・・・」


アモンはしばらく独り言つっていたが、やがて「うん」と一人納得したように頷いてから、真顔になった。


「まぁ、とりあえずは俺自身の手で処分しておくとするか。考えるのはそれからにしておこう」


アモンがやや低い声でそう言うと、バフォメットとジャヒーが引きつった表情を浮かべた。
瞬時にアモンから戦慄するまでの圧が発せられる。
バフォメット達は自分達がアモンによって処分されることを察し、小さく悲鳴を上げる。
シュウやバフォメット達は体を硬直させ、バロウ達もここで漸くアモンがただならぬ危険な存在であることに気が付いた。


(やはりそう来たか!)


スライム問題を解決するにあたって、シュウはまだバフォメット達から聞いておきたいことがあった。だから彼らを口封じで屠られることは避けたいのだが、シュウには隙の無いアモンに飛び掛かる勇気が持てない。体が動かなかった。


「言う事を聞けなかった悪い子でも、最後くらいは大人しくしていろよ?」


スッと右手を挙げ、ジャヒーに歩み寄るアモン。
口を塞ごうと思えば、アモンは時間をかけずいてそれを遂行してしまいそうだと考えたシュウは、そうされる前に一か八かで飛び掛かろうか、逡巡していたそのときだった。


「貴方の名前はなんですか?ここに来た目的は何ですか!?答えなさい!!」


またもや空気を読まず、ルーシエが再度アモンに強い口調で問いかけた。
(え、今それ?)と誰もが思ったが・・・


「俺の名はアモンだ。バフォメットとジャヒーの口封じにやってきた」


今度はさっきと違い問いかけを無視せず、反射的に答えるアモンを見て、一同はキョトンとした。

・・・この圧倒的に強そうなアモンですら、ルーシエに強く命令されると頷いてしまっていたことに、周囲は勿論のこと、当のアモンですら困惑していた。
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