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何やら一人、納得いかない様子で首を捻るシュウを周囲は呆然と見ていた。
今、「解せない?何が?あれだけ好き放題にボコボコにしておいて?」と見ている者達こそが首を捻りたい気分である。

ジャヒーはもちろんのこと、バフォメットは折角変化を遂げたのに、ただ雄叫びを上げるアピールをしただけでなすすべもなくシュウによって過剰なまでに痛めつけられ、ボロ雑巾のように成り果てている。

そこまで好き放題にやっておいて、一体何が不満なのか?誰もが知りたがっていた。


「一体、何が解せないと言うんだね?」


バロウが恐る恐る質問をする。


「あぁ、バロウさん・・・貴方ですよ」


シュウは言って、バロウの方を指さした。


「えっっ?私か・・・?」


「?」と、バロウは頭に疑問符をいくつも浮かべる。自分の何が一体解せないのか、バロウには何も心当たりが無かったからだ。


「私はに彼を折檻しましたが・・・」


シュウはバフォメットが吹っ飛び、その巨体を打ち付けて破損した床や壁を見回しながら言う。


「体が吹き飛ばされ、貴方にぶつかりそうになったとき、バフォメットはどうにか軌道修正して、ぶつかるまいと逸らしていたように見えました」


「な・・・なんだってー!?」


バロウはハッとして壁などにあるバフォメットが衝突してついたらしい破損後を確認すると、確かに自分の近くに来ているのをいくつか確認する。
何度も何度も無作為に吹っ飛んでいたと思っていた巨体が、実はバロウにはぶつからないようにバフォメットが気を遣っていたなどと知り、バロウは唖然とした。


「最初に貴方のところに吹き飛んだときに『あぁ、やってしまった』と思ったのですが、バフォメットは直前で壁を蹴り、軌道を変えたのです。まさかと思い、今度はあえてバロウさんの方に向けて蹴り飛ばしてみたのですが、同じことが起きました。念のためもう一度やってみましたが、結果は同じ。間違いなく、バフォメットは貴方に怪我をさせまいとしていたのです」


「なんてことしてくれてんだ君は?!」


「もし仮説が外れてバロウさんが潰されていたら、そのときは回復させていたから大丈夫ですよ」


「そういう問題じゃないだろう!?」


バフォメットがバロウに衝突しまいと行動していたという仮説が間違っていたら、今頃巨体に潰されて大怪我を負っていたかもしれないと思うと、バロウは背筋がゾッとした。
ただ暴れていただけに見えたあのやり取りの中で、人為的に大怪我をさせられていた可能性がいくらかでもあったかと思うと気が気ではない。
やはりシュウはどこかおかしい。


「それにしてもスライムを使って苦しめていたはずの相手に、衝突しての怪我を負わせまいとする行動・・・ちょっと理解ができないと思いましてね」


ボコボコにされ、意識を失って倒れているバフォメットを見下ろして呟くシュウの言葉に、バロウも唸る。


「確かに・・・一体なんだというんだ」


信頼していたバフォメットとジャヒーは、自分と娘にスライムを忍び込ませ、それこそ死ぬ寸前まで追い詰めていた。その事にバロウは裏切られたとショックを受けたが、そんなバフォメットが今更バロウが怪我することを避けるように行動する理由が理解出来なかった。


「何か事情がある・・・と言いたげだったが・・・」


シュウとの戦闘(という名の一方的なイジメ)の前、バフォメット達はどうにも要領を得ないことを言っていた。
そこに鍵があるのではとバロウは考えるが、問いただしても彼らは恐らく素直に話すことはないだろうことも予想できる。そうでなければ、とっくに話をしていたはずだからだ。


「まぁ、事情を何度も問うたところで、どうせ答えることはしないでしょう。彼らの矜持なのか、それともそういうを受けているのか、それはわかりませんがね」


そう言ってシュウは倒れていたバフォメットを足蹴にする。


「お、おいっ!もう一度機会をくれ!今度こそ彼らから話を聞き出してみせるから!!」


バフォメット達からきちんと事情を聞きだしたいと思ったバロウは、再び彼らを痛めつけようとしているシュウに気付いて慌てて言った。

しかし、シュウは首を横に振る。


「いいえ、時間の無駄です。むしろ、そろそろ頃合いでしょう。この二人を殺します」
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