上 下
60 / 449

敗北者達の哀歌

しおりを挟む
「真実の愛・・・シュウとフローラ・・・まさか・・・そんな・・・」


自分が目にした物を信じきれずに、サーラは呆然として俯いた。
元よりメンタルの脆いところ来て、不眠不休の大捜査の後なので余計にサーラの精神には大きなダメージが与えられてしまった。


「何ぼけっとしてるんすか!早く今のを追うんすよ!!」

バキッ

「ぶふっ」


そんなサーラを現実に引き戻したのはアリエスだった。グーパンチで。


「シュウ先輩はきっとフローラに脅されてるんす!真実の愛なんてものが本当にあったら、娼館通いなんてしないっしょフツー」


「そ、そうか・・・!」


アリエスの正論に、口からダラダラと血を流しながらサーラはハッとする。


「例え本当に真実の愛とやらに即興で目覚めたとしても、まだ時間は経ってないからこっちがより深くて熱い愛で上書きしてやればいいっす!それでノーカンっす!」


「な、何にせよ追い付いて捕まえればいいんだな!」


気を取り直したサーラは、即座に姿を消したシュウ達の後を追う。
通りは完全に都民と混乱している騎士によって埋め尽くされており、走り抜けるスペースはない。サーラと同じくシュウ達を追い始めたアリエスは、即座に人の壁に飲まれてからぎゅうっと挟まれ「ぐふっ」と声を上げて口から血を吐き、無惨にも圧死した。

対してサーラは高く跳躍し、都民と騎士を踏み台にしながら後を追う。
壁を蹴り、走り、時には屋根に飛び乗り、人の壁を無視して飛び越えとにかく走った。

しかし・・・


「は、速い・・・!」


いかに人並み外れた高機動で追っているとはいえ、逃げる相手は並を大きく外れた巨大な馬である。それも騎士の壁すら障害のうちに入らないと言わんばかりに失速することなく突破してしまうのだ。
人の壁という障害物と格闘するサーラに元々追いつける相手ではない上に、昨日からの疲労がピークに達している。


(くそっ、こんなところで・・・!シュウ!!)


人の向いている方向を見れば、シュウ達がどの方向へ逃走したのかはわかる。見失っても、決して諦めずに走り続ければ、いずれは捕まえることが出来るはずだ・・・
その一心でサーラは足を動かすが、いくら気合を振り絞ったところで、やがては体の限界が訪れる。


「あふぅ・・・」

バターン

結局30分そこそこ走ったところで、サーラはついに力尽きて倒れてしまった。
実際体力の消耗を考えれば、これだけ走っただけ十分に大したものである。それも全てはシュウへの強烈な愛が為せた業であったが、しかしそれにも限界というものがあった。


「シュウ・・・頼む・・・行かないでくれぇ・・・」


地面に突っ伏し、悔し涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら、なおもサーラは這い上がろうとする。
そんなサーラのところに、一人の盗賊風の男が近づいて話しかけた。


「アンタすげぇな。まるで東方の国のニンジャってやつみたいに滅茶苦茶早く走ってたじゃん。見ていて感心しちゃったよ」


素早さを売りにする盗賊を生業とする男は、サーラの快足に感動して話しかけたのだった。


「アタシがどれだけ速くたって・・・追いつけなきゃ意味がねぇんだよぉぉ」


涙声を震わせ、サーラは無理矢理体を起こそうと全身を奮い立たせる。
ここで諦めるわけにはいかないと。
だが、そんなサーラを見て、男は不思議そうに首を傾げながら言った。


「気になってたんだけど、そんだけ急いでんならどうしてそんな鎧と剣なんて重いもの持って走ってんのさ。それ脱いでいけばもっと速く長い距離まで走れただろうに」


「あっ・・・」


男の言葉が引き金になったのか、張り詰めた糸が切れたようにサーラの体から力が抜けた。体が限界のところまで来たところに来て、最後のとどめの精神的ショックがきっかけとなってサーラを支えたものが全て崩れ落ちてしまったのだ。

哀れサーラはアリエスと同じく、最後は志半ばにしてダウンした。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】討伐対象の魔王が可愛い幼子だったので魔界に残ってお世話します!〜力を搾取され続けた聖女は幼子魔王を溺愛し、やがて溺愛される〜

水都 ミナト
ファンタジー
不本意ながら聖女を務めていたアリエッタは、国王の勅命を受けて勇者と共に魔界に乗り込んだ。 そして対面した討伐対象である魔王は――とても可愛い幼子だった。 え?あの可愛い少年を倒せとおっしゃる? 無理無理!私には無理! 人間界では常人離れした力を利用され、搾取され続けてきたアリエッタは、魔王討伐の暁には国を出ることを考えていた。 え?じゃあ魔界に残っても一緒じゃない? 可愛い魔王様のお世話をして毎日幸せな日々を送るなんて最高では? というわけで、あっさり勇者一行を人間界に転移魔法で送り返し、厳重な結界を張ったアリエッタは、なんやかんやあって晴れて魔王ルイスの教育係を拝命する。 魔界を統べる王たるべく日々勉学に励み、幼いながらに威厳を保とうと頑張るルイスを愛でに愛でつつ、彼の家臣らと共にのんびり平和な魔界ライフを満喫するアリエッタ。 だがしかし、魔王は魔界の王。 人間とは比べ物にならない早さで成長し、成人を迎えるルイス。 徐々に少年から男の人へと成長するルイスに戸惑い、翻弄されつつも側で支え続けるアリエッタ。 確かな信頼関係を築きながらも変わりゆく二人の関係。 あれ、いつの間にか溺愛していたルイスから、溺愛され始めている…? ちょっと待って!この溺愛は想定外なのですが…! ぐんぐん成長するルイスに翻弄されたり、諦めの悪い勇者がアリエッタを取り戻すべく魔界に乗り込もうとしてきたり、アリエッタのウキウキ魔界生活は前途多難! ◇ほのぼの魔界生活となっております。 ◇創造神:作者によるファンタジー作品です。 ◇アリエッタの頭の中は割とうるさいです。一緒に騒いでください。 ◇小説家になろう様でも公開中 ◇第16回ファンタジー小説大賞で32位でした!ありがとうございました!

完結・私と王太子の婚約を知った元婚約者が王太子との婚約発表前日にやって来て『俺の気を引きたいのは分かるがやりすぎだ!』と復縁を迫ってきた

まほりろ
恋愛
元婚約者は男爵令嬢のフリーダ・ザックスと浮気をしていた。 その上、 「お前がフリーダをいじめているのは分かっている! お前が俺に惚れているのは分かるが、いくら俺に相手にされないからといって、か弱いフリーダをいじめるなんて最低だ! お前のような非道な女との婚約は破棄する!」 私に冤罪をかけ、私との婚約を破棄すると言ってきた。 両家での話し合いの結果、「婚約破棄」ではなく双方合意のもとでの「婚約解消」という形になった。 それから半年後、私は幼馴染の王太子と再会し恋に落ちた。 私と王太子の婚約を世間に公表する前日、元婚約者が我が家に押しかけて来て、 「俺の気を引きたいのは分かるがこれはやりすぎだ!」 「俺は充分嫉妬したぞ。もういいだろう? 愛人ではなく正妻にしてやるから俺のところに戻ってこい!」 と言って復縁を迫ってきた。 この身の程をわきまえない勘違いナルシストを、どうやって黙らせようかしら? ※ざまぁ有り ※ハッピーエンド ※他サイトにも投稿してます。 「Copyright(C)2021-九頭竜坂まほろん」 小説家になろうで、日間総合3位になった作品です。 小説家になろう版のタイトルとは、少し違います。 表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。

お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)

いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。 --------- 掲載は不定期になります。 追記 「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。 お知らせ カクヨム様でも掲載中です。

悪妻と噂の彼女は、前世を思い出したら吹っ切れた

下菊みこと
恋愛
自分のために生きると決めたら早かった。 小説家になろう様でも投稿しています。

自宅アパート一棟と共に異世界へ 蔑まれていた令嬢に転生(?)しましたが、自由に生きることにしました

如月 雪名
ファンタジー
★2024年9月19日に2巻発売&コミカライズ化決定!(web版とは設定が異なる部分があります) 🔷第16回ファンタジー小説大賞。5/3207位で『特別賞』を受賞しました!!応援ありがとうございます(*^_^*) 💛小説家になろう累計PV1,830万以上達成!! ※感想欄を読まれる方は、申し訳ありませんがネタバレが多いのでご注意下さい<m(__)m>    スーパーの帰り道、突然異世界へ転移させられた、椎名 沙良(しいな さら)48歳。  残された封筒には【詫び状】と書かれており、自分がカルドサリ王国のハンフリー公爵家、リーシャ・ハンフリー、第一令嬢12歳となっているのを知る。  いきなり異世界で他人とし生きる事になったが、現状が非常によろしくない。  リーシャの母親は既に亡くなっており、後妻に虐待され納屋で監禁生活を送っていたからだ。  どうにか家庭環境を改善しようと、与えられた4つの能力(ホーム・アイテムBOX・マッピング・召喚)を使用し、早々に公爵家を出て冒険者となる。  虐待されていたため貧弱な体と体力しかないが、冒険者となり自由を手にし頑張っていく。  F級冒険者となった初日の稼ぎは、肉(角ウサギ)の配達料・鉄貨2枚(200円)。  それでもE級に上がるため200回頑張る。  同じ年頃の子供達に、からかわれたりしながらも着実に依頼をこなす日々。  チートな能力(ホームで自宅に帰れる)を隠しながら、町で路上生活をしている子供達を助けていく事に。  冒険者で稼いだお金で家を購入し、住む所を与え子供達を笑顔にする。  そんな彼女の行いを見守っていた冒険者や町人達は……。  やがて支援は町中から届くようになった。  F級冒険者からC級冒険者へと、地球から勝手に召喚した兄の椎名 賢也(しいな けんや)50歳と共に頑張り続け、4年半後ダンジョンへと進む。  ダンジョンの最終深部。  ダンジョンマスターとして再会した兄の親友(享年45)旭 尚人(あさひ なおと)も加わり、ついに3人で迷宮都市へ。  テイムした仲間のシルバー(シルバーウルフ)・ハニー(ハニービー)・フォレスト(迷宮タイガー)と一緒に楽しくダンジョン攻略中。  どこか気が抜けて心温まる? そんな冒険です。  残念ながら恋愛要素は皆無です。

両親と妹から搾取されていたので、爆弾を投下して逃げました

下菊みこと
恋愛
搾取子が両親と愛玩子に反逆するお話。ざまぁ有り。

勇者は発情中

shiyushiyu
ファンタジー
顔立ちよし、性格よし、決してモテないわけではない助態はウキウキのエロライフを満喫中だった。 今日もいつもみたいに一発ヤれると思っていたのに… 気が付いて異世界に転生したら、自分が思ってたハーレム世界とはちょっと違う世界だった! 神様!さっき話してたことと違いませんか? 助態は異世界でもエロライフを満喫できるのか…? ムフフでハラハラな異世界生活! ―――――――――――――― 毎日をそれとなく過ごしていた助態は、電車の中で綺麗なお姉さんのパンチラを見かける。 誘われたと思った助態は高揚する気持ちとは裏腹に階段から転落して死んでしまう。 死後の世界なんて信じていなかったが、本当にあった。 そこで神様に出会い、輪廻転生するまでの間、他の世界に転生させてくれることになった。 しかも自分の望む世界へと! でも待って!ハーレム世界を望んだのに転生したのは発情中の勇者じゃん!話が違うよ神様ー! スキルは自分ですることだけ。 武器は股間の秘剣。 そんなポンコツ発情勇者が異世界で無双しまくる?いいえしません。 ハーレムしまくる?いいえしません。 ある意味うらやまで、ある意味絶対にこんな世界に転生したくない異世界転生! 輪廻転生するまでの間の暇つぶしに主人公助態は、たくさんのエロを獲得することができるのか? 常に発情している勇者の冒険が今、始まった… 最初から裸の女の子とのラッキーハプニング? ―――――――――――― 主な登場人物 平変助態…物語の主人公・職業:勇者・特徴:見た目は上の下、短髪で長いまつげに二重で高い鼻とやや吊り上がった目 情粋純純…職業:ヒロイン・特徴:貧乳・おっきくてくりくりの目 くびち:職業:魔術師・特徴:真っ赤で長い髪の毛、やや巨乳、スタイル抜群の綺麗系お姉さん もふとも:職業:シーフ・特徴:純純が大好きなレズで胸のサイズは平均的、男っぽい性格 ルブマ:職業アーチャー・特徴:貧乳でロリ属性・むっつりスケベ ぱいお:職業:騎士・特徴:巨乳でちょいぽちゃ、妄想癖のある腐女子、メガネっ娘

処理中です...