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勇者パーティー 強欲の勇者2
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「あ・・・」
ライルは目の前に突如現れ、自分を助けてくれたシュウを見て茫然とした。
シュウは特に武器を持っている感じではなく、素手であるように見えたからだ。
(サンケベツファイヤベアーを素手で・・・それも一人で?)
同じ魔物がライルの故郷で出没したときには、道具や武器も十分に準備をしたうえで討伐にあたっていた。
それをあっけなく一瞬で素手で片づけたシュウがライルには極めて異質な者に見えたのである。
「あ・・・」
シュウは布を取り出すと、それを使って自分の右手を拭い始めた。
サンケベツファイヤベアーの眉間を貫いたときについて血がべったり付いていたからだ。
「あぁ、失礼。このままというわけにはいかないもので」
シュウはライルの視線に気づいたのか、手をふき取った後にっこりと笑ってそう言った。
太い筋肉に身を纏っているわけではない細身、糸目で笑っているように見える柔和な顔、そんな「人の好さそうな男」に見えるシュウが自分でも苦戦した魔物をあっけなく退治してみせたことに、ライルは大きなギャップを感じていた。
「ありがとうございます。助かりました」
ライルは深く頭を下げて礼を言った。
『勇者』である自分が苦戦した相手をたやすく屠った相手なのだから、さぞかし名のある武人なのだろうと思い、普段は高圧的な態度が板についていたライルも流石に腰を低くした。
「惚れ惚れするようなワザマエ。高名な冒険者の方であるとお見受けしました」
(大変な目に遭うところだったが、むしろそれが縁で高名な冒険者とお近づきになれる機会が出来るとは運が良い)
ライルは帝国で冒険者としてのし上がるとしても、まずは有力なコネクションを作ることが近道となると考えていた。
自分を助けてくれた目の前のシュウを、これからの自分の躍進のための利用しようと思い、ライルは安くない頭を下げたのだ。
しかし、そんなライルの耳に入ったのは、彼が予想だにしていなかった言葉だった。
「いえいえ、とんでもありません。私はただのしがない神官ですから」
「えっ?」と顔を上げると、シュウは恐縮して首を横に振っていた。
本当に戸惑っている様子で、謙遜しているといった感じではない。
「確かに多少は護身術に心得はありますが、本職の冒険者の方とは比べ物にならない程度のものですよ。私のことを買いかぶり過ぎです」
「そんなバカな!サンケベツファイヤベアーをいとも簡単に一人で屠ってみせたではありませんか!?」
ライルは弾かれたようにシュウに詰め寄った。
サンケベツファイヤベアーを単身で倒したなど、ライルの故郷では武神として崇められてもおかしくもない快挙だからだ。少なくとも今のライルではそんな芸当は無理だった。
シュウはライルの言葉にあぁ、と納得したように頷いてから、人差し指で自分の眉間をツンツンと突いて言った。
「サンケベツファイヤベアーの急所の一つが眉間なのです。ここをうまく突きさえすれば、果物ナイフでも仕留めることが可能なんですよ。確かにコツは必要なのですがね・・・他にも複数箇所急所が存在します」
ライルはシュウの言葉を呆然として聞いていた。
彼にとってこれまで全く聞いたことのない未知なる知識だったからだ。
「他にもまぁそこそこの冒険者ならば、急所を突かずとも力押しで仕留めることが出来ますね。私はそこまでの剛腕ではありませんから、急所狙いという小技を使わないと仕留めることは出来ませんが」
「そんな・・・」
高名な冒険者だと思っていたシュウが、実は全然大したことはなく、むしろ彼よりも強力な冒険者が他にいるという現実にライルは大きな衝撃を受けた。
「これから私はこれから帝都に戻るところなのですが、これも何かの縁です。よろければ一緒に行かれませんか?」
シュウの提案にライルは一瞬悩みながらも、やがて「はい」と小さく頷いた。
サンケベツファイヤベアーに殺されそうになったライルを気遣い、プライドを刺激しないようさり気なく同行を提案したシュウの心遣いに気付いたライルは、自分がひどく惨めに感じた。
(こんな、目を開けているんだか閉じているんだかわからなそうな細い目をした、冴えなさそうな男に恩を着せられるなんて・・・!)
助けられておいて心から謙虚になれないライルはそんなことを考えながら、激しい羞恥心と怒りに震えていた。
だが、次に単独で出会ったらシュウの言ったようにうまく眉間を狙えるかはわからない。今度こそ本当に殺されてしまう可能性を考え、ライルは悔しい気持ちを抱きながらもシュウとともに帝都へ向かった。
そして帝都でライルは厳しい現実を知ることになる。
ライルは目の前に突如現れ、自分を助けてくれたシュウを見て茫然とした。
シュウは特に武器を持っている感じではなく、素手であるように見えたからだ。
(サンケベツファイヤベアーを素手で・・・それも一人で?)
同じ魔物がライルの故郷で出没したときには、道具や武器も十分に準備をしたうえで討伐にあたっていた。
それをあっけなく一瞬で素手で片づけたシュウがライルには極めて異質な者に見えたのである。
「あ・・・」
シュウは布を取り出すと、それを使って自分の右手を拭い始めた。
サンケベツファイヤベアーの眉間を貫いたときについて血がべったり付いていたからだ。
「あぁ、失礼。このままというわけにはいかないもので」
シュウはライルの視線に気づいたのか、手をふき取った後にっこりと笑ってそう言った。
太い筋肉に身を纏っているわけではない細身、糸目で笑っているように見える柔和な顔、そんな「人の好さそうな男」に見えるシュウが自分でも苦戦した魔物をあっけなく退治してみせたことに、ライルは大きなギャップを感じていた。
「ありがとうございます。助かりました」
ライルは深く頭を下げて礼を言った。
『勇者』である自分が苦戦した相手をたやすく屠った相手なのだから、さぞかし名のある武人なのだろうと思い、普段は高圧的な態度が板についていたライルも流石に腰を低くした。
「惚れ惚れするようなワザマエ。高名な冒険者の方であるとお見受けしました」
(大変な目に遭うところだったが、むしろそれが縁で高名な冒険者とお近づきになれる機会が出来るとは運が良い)
ライルは帝国で冒険者としてのし上がるとしても、まずは有力なコネクションを作ることが近道となると考えていた。
自分を助けてくれた目の前のシュウを、これからの自分の躍進のための利用しようと思い、ライルは安くない頭を下げたのだ。
しかし、そんなライルの耳に入ったのは、彼が予想だにしていなかった言葉だった。
「いえいえ、とんでもありません。私はただのしがない神官ですから」
「えっ?」と顔を上げると、シュウは恐縮して首を横に振っていた。
本当に戸惑っている様子で、謙遜しているといった感じではない。
「確かに多少は護身術に心得はありますが、本職の冒険者の方とは比べ物にならない程度のものですよ。私のことを買いかぶり過ぎです」
「そんなバカな!サンケベツファイヤベアーをいとも簡単に一人で屠ってみせたではありませんか!?」
ライルは弾かれたようにシュウに詰め寄った。
サンケベツファイヤベアーを単身で倒したなど、ライルの故郷では武神として崇められてもおかしくもない快挙だからだ。少なくとも今のライルではそんな芸当は無理だった。
シュウはライルの言葉にあぁ、と納得したように頷いてから、人差し指で自分の眉間をツンツンと突いて言った。
「サンケベツファイヤベアーの急所の一つが眉間なのです。ここをうまく突きさえすれば、果物ナイフでも仕留めることが可能なんですよ。確かにコツは必要なのですがね・・・他にも複数箇所急所が存在します」
ライルはシュウの言葉を呆然として聞いていた。
彼にとってこれまで全く聞いたことのない未知なる知識だったからだ。
「他にもまぁそこそこの冒険者ならば、急所を突かずとも力押しで仕留めることが出来ますね。私はそこまでの剛腕ではありませんから、急所狙いという小技を使わないと仕留めることは出来ませんが」
「そんな・・・」
高名な冒険者だと思っていたシュウが、実は全然大したことはなく、むしろ彼よりも強力な冒険者が他にいるという現実にライルは大きな衝撃を受けた。
「これから私はこれから帝都に戻るところなのですが、これも何かの縁です。よろければ一緒に行かれませんか?」
シュウの提案にライルは一瞬悩みながらも、やがて「はい」と小さく頷いた。
サンケベツファイヤベアーに殺されそうになったライルを気遣い、プライドを刺激しないようさり気なく同行を提案したシュウの心遣いに気付いたライルは、自分がひどく惨めに感じた。
(こんな、目を開けているんだか閉じているんだかわからなそうな細い目をした、冴えなさそうな男に恩を着せられるなんて・・・!)
助けられておいて心から謙虚になれないライルはそんなことを考えながら、激しい羞恥心と怒りに震えていた。
だが、次に単独で出会ったらシュウの言ったようにうまく眉間を狙えるかはわからない。今度こそ本当に殺されてしまう可能性を考え、ライルは悔しい気持ちを抱きながらもシュウとともに帝都へ向かった。
そして帝都でライルは厳しい現実を知ることになる。
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