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人の恋路を邪魔する奴は

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「すみません、お待たせしました」


シュウが部屋から出ると、そこには最初に来ていた二人の騎士と新聞記者だけでなく、宿の通路にも数人の騎士が点在してシュウ達を睨みつけていた。

着替えを待っている間に応援を呼んだらしく、今宿屋は教会の聖騎士に取り囲まれている状況になっている。シュウ達が万が一にも逃亡を図ることのないようにした措置であった。

部屋から出てきたシュウ達の姿を認めた聖騎士達は、逃げずにきちんと出て来てくれたことにまずは安堵した。なんだかんだで逃げ出す可能性もゼロではないので、そこが心配だったのである。

騎士達からすれば、これから辿るであろうシュウの悲惨な運命はわかっている。出来れば最後のそのときまで手荒なことはしたくないと思っていた。
・・・が、シュウの背中にある大きな荷物を見て、怪訝な目を向ける。これから長い旅に出るかのような本格的な旅支度だ。


「すみませんが、そのお荷物は一緒に持っていくことは出来ませんよ」


シュウ達が連行される先は教会。
そしてフローラはともかく、シュウは間違いなくそこで拘束され、投獄されるはずである。そこまで荷物を持っていくことはできない。


「あぁ、ご心配なく。私達は教会のお世話にならぬことを決めました」


そう言って朗らかに笑うシュウに対し、騎士達は戸惑った。


「二人の真実の愛を貫くことに決めたのです。ですから、私達を引き離そうとする教会へは行きません」


シュウのこの言葉はフローラの用意した台本であるが、なんだかんだで一度覚悟が決まったせいか、どうにでもなれとシュウはノリノリである。


「なっ・・・何を言っているのかわかっているのですか!?」


シュウの発言に騎士達が騒めく。
騎士に向かってそう宣言するシュウと、彼の腕に自分の腕を絡めているフローラ。
そんな絵になる二人を「いいですねぇ」と言いながら、新聞記者がバシッと一枚写真を撮った。
写真を撮るときの激しい閃光が辺りを包んだその瞬間のことである。

シュウはフローラを抱きかかえて『お姫様抱っこ』すると、猛然と騎士達の間を縫うように逃走を開始した。


「なっ!つ、捕まえろ!!」


騎士達は混乱から回復しておらず、みすみすシュウの突破を許してしまう。


「むっ・・・!?」


シュウ達が宿屋から外へ出ると、そこには数多の聖騎士達が勢ぞろいしていた。彼らはまだシュウ達の姿を直接見たことのない者達だが・・・


「・・・」


大きな荷物を背負った男と、お姫様抱っこされている少女・・・どうあっても目を引くよな恰好をしているシュウ達を、騎士達は即座に「こいつら、もしかして捕まえる対象なんじゃね?怪しいし」と判断した。


「捕まえろ!」


リーダー格と思わしき騎士が叫ぶと、騎士達は一斉にシュウ達を捕まえようと飛びかかる。


「ふんっ」


シュウは高く跳躍すると、騎士達を踏み台にしながら逃走を開始した。


「お、追えっ!!」


巨大な荷物を背負い、おまけにフローラを抱きかかえながらだというのに、信じられないほどの高機動でシュウは騎士達を翻弄しつつ逃走した。


「がふっ」


「あだばっ」


「ちばぁっ」


取り囲んだと思えば、一瞬にしてシュウの蹴り技により沈黙させられる・・・
後衛だったとはいえ、元は勇者パーティーだったシュウにそうそう勝てる騎士はいない。
それに聖女フローラを抱きかかえているために、万が一のリスクを考えると迂闊に剣を使って制圧することも出来ないので、シュウの拘束は困難を極めた。


「が、がんばれっ!」


これだけ目立つ大捕り物だけあって、一般人の視線も多いに集めていた。
宿屋の女将によって広まった噂を聞きつけた一般人が、シュウに向かってエールを投げる。それに続いて他の人も声をかけるようになった。


「圧力に負けるな!」


「真実の愛を貫いてくれ!」


「教会は二人を祝福してあげてよ!可哀想よ!」


いつの間にか街は声援で溢れるようになり、いつの間にかアウェーの中での捕り物になってしまっている状況に騎士達は困惑する。


「行けっ!数で押せっ!!」


一般人からあらゆるものが投げ込まれ、怪我をする騎士まで出てきているが、彼らとて仕事でやっている。半ばやけくそな心境でシュウ達の確保に躍起になった彼らは、いよいよ数でシュウを圧倒する方向に出た。


「あのっ、そろそろ大変なんですがっ、まだ続けますかっ?」


素早い蹴り技で一瞬にして6人の聖騎士を吹き飛ばすシュウ。
一般人からの歓声は凄いが、当のシュウの疲労は凄まじいものになっていた。
荷物とフローラを抱えた状態で、倒しても倒してもきりがなく騎士は湧いてくるので無理もなかった。


「いえ、そろそろ良いでしょうか」


フローラはそう言うと、名残惜しそうにシュウの腕の中から離れ、地面に降り立った。


「ん?」


騎士達が一瞬、シュウ達が投降するのかと思って動きを止める。
しかしそうではなかった。


「ホワイトキングーっ!!」


耳をつんざくほどの大声でフローラは叫び出し、周囲は騒然とする。
やがて間もなく何やら悲鳴が聞こえてきたかと思うと、平均的な馬の倍以上の大きさの白馬が駆けてきた。


「ぐあぁぁ!」


あまりの大きさに騎士がたやすく踏みつぶされている。
まるで化け物のような白馬の突進に、騎士達はすっかり腰が引けて道を開けた。


『ヒヒィィィィン!!』


聞く者を戦慄させるような大きな嘶きを響かせ、白馬はフローラの元へ来るとそこで動きを止めた。


「ふふっ、ホワイトキング。いい子ですね。良く来てくれました」


ホワイトキングと呼ばれた暴れ馬は、小さく嘶いた。
白馬ではあるが目や体中に傷があり、通常の馬とは比較にならぬほどの筋肉をつけているという、優雅なイメージのあまりない無骨な馬である。
この白馬はフローラにしか懐かぬ狂暴な愛馬であった。


「お、おお・・・」


象のように大きなホワイトキングにフローラとシュウが乗ると、そのあまりの威圧感に騎士達は恐れおののいた。
先ほどホワイトキングが登場するときに踏みつぶされた騎士は、鎧ごと骨を砕かれ今でも悶絶しているからだ。
腰に下げている剣を使ってもこの白馬には勝てそうにない・・・と、ホワイトキングの登場で、騎士達の闘争心は完全に粉砕されていた。


「お退きなさい!人の恋路を邪魔する者は、馬に蹴られて地獄に落ちますよ?!」


フローラがホワイトキングの手綱を操り、帝都の路地を猛然と疾走する。
騎士は誰一人その前に立ちはだかろうとはしなかったが、運悪く進行方向にいた騎士はなすすべもなくホワイトキングに踏みつぶされ、地獄のような悲鳴を上げた。

フローラの作戦その2・・・演出過剰なほどに目立ちながらの逃走劇を見せつける、である。
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