勇者の処分いたします

はにわ

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勇者ゼルスの刺客

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ガキィィン


金属同士のぶつかり合う音が響く。
謎の女の太刀と、シンの短刀が激しくぶつかり合った。
女は明らかにシンとレイを殺害しようと剣を振るったことがわかるやり取りだ。


「っ!!」


思わず漏れ出しそうな悲鳴をレイは飲み込んだ。
王室調査室こと王調。その業務内容は多岐に渡る。多岐に渡り過ぎて、時に荒事に直面することだってある。
そうしたときのために、人並み以上に戦えるように戦闘訓練を受けてはいるが、それでも着任してまだ経験の浅いレイは実際にこうして自分の命が狙われるような場面に出くわしたことはほとんどない。だから、実際にこうして殺気をぶつけられ、生命の危機に晒されてみると訓練のようには動けず、護身用の自分の短刀すら抜くことが出来なかった。


「あまり動くなよ。刺客が一人とは限らないからな」


シンは短刀を構えながら落ち着き払った声でそう言った。


キィィン


再び金属のぶつかり合う音。
女はシンと一旦距離を取った。女はかなりの使い手のようだが、シンも決して引けを取ってはいないことがレイにはわかった。


「勇者ゼルスに命じられて口封じか。随分と短絡的な真似をしたものだ」


シンが女に話しかける。
女はそれを聞いても沈黙するだけで何も答えることはなかった。しかし動揺しているのだろうか、動きが止まったようにレイには見えた。


「これ以上はゼルスの立場を悪くすることになるよ。『剣姫セリカ』さん」


シンの言葉に今度は明らかな動揺を女は見せ、たじろいでいる。シンはその隙を見逃さなかった。


「っ!!」


シンは短刀を持たぬ方の手を使い、何かを女・・・セリカと呼ばれた者に向かって投げつける。それは数本の投げナイフだった。


キィィン


反応こそ若干遅れたものの、セリカは持っている得物で投げつけられたナイフ全てを叩き落す。が、その若干の遅れのうちに、シンはセリカへの接近を済ませていた。


「くっ!」


セリカが急接近したシンへの対応をするより先に、シンの右手の短刀がセリカの頬をかすめる。レイからすれば捉えたかのように見えたタイミングだったが、それでもセリカは攻撃を凌ぐだけの反応を見せた。

(惜しいっ!)

レイは歯がゆさを感じたが、それでもここに来て漸く頭が冷静になってきたのか、自分の持つ短刀を抜いてセリカに対して身構える。レイはシンほどの戦闘能力はないが、それでも二対一となれば状況は大きく変わるだろう。そう思っていたのだが・・・


「は・・・?」


突然糸が切れた人形のようにがくっとセリカが膝を地面につくのを見て、レイは思わず間抜けな声を洩らす。


「刃に塗ってあった神経毒が効いたようだ。・・・何を驚いているんだ?君の持っている短刀にも仕込んであるだろう?」


シンが呆れた顔でそう言い、レイは思い出したようにハッとする。
そして崩れ落ちるように地面にへたり込んだ。


「気を抜くな。周囲に他に敵がいたらどうする?・・・まぁ、どうやらここにはいないようだが」


シンは溜め息をついてから、倒れ伏しているセリカを縛り上げるのだった。
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