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魅了スキル その2

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「ご質問ですが、普段お酒は飲まれますか?」


唐突なシンの問いに、令息は怪訝な表情を浮かべた。


「飲むが、それが何だ?」


「あまり飲み過ぎると陽気になったり、陰鬱になりやすくなったり、普段と違う自分になりますよね」


「まぁ、そうだね」


「お酒を飲み過ぎてはしゃいだ結果、いろいろと問題を起こしたり誰かに暴力を振るってしまったとしたら、それは、で免責になると思いますか?」


「なるわけがないだろう。・・・おい、まさか・・・」


シンの言いたいことを理解して、令息の声質が怒気を孕んで低くなる。


「はい、それと同じです。魅了状態での行動に関しては、概ね我々の認識としては酒酔い状態であるという程度なのです。行動や思考が多少変わる原因にはある程度の理解は得られても、その結果起こされた行動の結果については免責になりません」


「酒と魅了は違うだろ!一緒にするな!!」


令息は激高してドンと目の前のテーブルを力いっぱい叩いた。
シンは動揺することなく、ただただ無表情で令息を見つめている。



「それは受け取り手次第の話です。ただ、こちらとしての認識は同じであるということです。故に、其方でのトラブルに置いては我々に手出し出来ることは何もないのです。それに・・・」


シンは自身の左手に巻かれている大き目の腕輪を指さした。


「魅了魔法への対策として、我々は常々これを身に着けるようにと忠告していますので」


「ぐっ・・・」


シンのその言葉を聞いた瞬間、令息の表情が歪む。
シンが身に着けている腕輪は、魅了耐性の効果がある術式の組まれているものだった。国とて傾国の発端となりかねない魅了魔法に対する対策を取っていないわけではないのだ。
シンを含め、国の重要職に就いている者は、この腕輪を身に着けることが義務とされており、貴族達にもこの腕輪の装着が推奨されている。製作費が非常に高いので実費を負担するとなるとそれなりの額になるが、それでもこうした魅了トラブルを防ぐための手段として多くの貴族が装着しているのだった。

だが、中には装着しない者もいる。
かさばる、格好悪い、自分は大丈夫・・・理由は様々だが、あえて装着しないでいる貴族もいるのだ。今回の令息もその一人であった。

そして、こうして事件が起きる。
終わってから後悔しても知らぬぞと国は何度も警告を発する通り、トラブルを起こし、身の破滅を迎える者が後を絶たない。

ちなみにこの問題で厄介なのは、魅了の魔法は誰しもがかかるとは限らないこと。あらゆる状態異常魔法に言えることだが、人の体質によっては魅了状態にならない、なりにくい、解けやすいということがあるのだ。精神力の強さに起因するという話もあるがそこはまだ定かではない。
つまり魅了にかかった者は「気合が足りない」「気持ちが足りない」そう言って捨ててしまえるという状況であり、これがまた問題をややこしくする。
単純にかかったら最後、どうにもならない・・・ということになっていれば、被害者も同情はしてもらえるだろうに。

数時間ほど令息は粘ったが、最後はどうにもならぬとようやく理解し、肩を落として帰っていった。
今度彼はどうするだろうか、こういった魅了魔法の被害者はおよそ4分の1が自害を図ったり行方不明になる。突然やってきた理不尽に全てを奪われるのは確かに堪えることだろう。

それでも被害者に現実を突きつけなければならない、それがシンの仕事だがやりがいもなければ後味が悪いだけという嫌な仕事だ。

だがこの日、シンの元に更なる面倒な仕事が押し込まれることになった。
勇者と魅了に関する面倒極まりない案件である。
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