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元勇者エクス
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勇者エクスの拘束から三か月が経過したラダーム国の王城の城下町でのことであった。
「新しい国王様が即位されたらしいな」
「ああ!なんでも魔王を倒した勇者様だって話じゃないか」
「貴族でも王族でもなかったんだろ?まさか国王様になるだなんてな・・・救国の英雄ともなればそれも可能であるということか?」
「俺の息子なんか早速『将来は勇者様のようになるんだ』って剣術の稽古なんて始めたよ」
「なんにせよ頼もしい勇者様が国王様になるのだったら、魔族や敵国の侵略も怖くねぇ。この国は安泰だな」
市井はラダーム国の新たな国王、『元勇者エクス』についての噂でもちきりであった。
ーーーーーーーーーー
それから更に一月後・・・
新国王エクスについては今だにホットな話題として湧き上がっていた。新国王については今のところ国民はほぼほぼ全員が歓迎ムードだ。
「何とか収まるところに収まったところか」
市井の反応を見るために城下町に来ていたシンは、彼らの反応を見て胸を撫でおろすように言った。
「シモの方はだらしなくても、それほどその悪評は世間には広まってはいなかったんですね」
シンと共に歩くレイもどこか安心したように言った。
「あぁ、もし新国王についての悪評が今の段階であるようなら、また面倒が起きるところだった」
シンとレイはかれこれ一月ほどラダーム国の各地に潜伏し、新国王エクスの評判について探っていた。
シンが言うように即位して一月程度でどこかしら評判に問題が出てくるようなら面倒が起きる。そうでなくても勇者とはいえ平民が国王になるという異例中の異例の出来事があったのだから、貴族会の反発は表立ってないだけで水面下では確実にくすぶっており、新国王の足元は今だに危ういものがある。
それならせめて平民間では評判が上々でないとならないため、そのために前国王も臣下も平民の支持を維持するために神経をすり減らしていた。
そんな前国王の手助けをするのが、シンとレイの今の任務である。
市井に潜りエクスの評判を探り、問題があれば即座に火消しする。シンとレイと同じ任務を持った王室調査室の者が他にも十数名ラダーム国の各地に点々として活動していた。
「始祖の勇者とは・・・凄いのですね。ここまで大規模な工作が必要となるなんて」
レイが感嘆してそう漏らす。
「そうでなければ他国のために我々は動かないよ。始祖の勇者の子種一つで戦争の元だ。それをラダームとラバースの二国だけで抑え込めるのなら、断然安いものだ」
勇者エクスは血筋からして最もマークされる人物だった。
始祖の勇者・・・エクスの血筋は何代かに一人は単身で魔王を凌ぐ力を持ち、一国の軍事力に匹敵したこともあったという。今代のエクスがまさにそれであった。
そんなエクスの血筋を歴代ラダーム王家は裏からも表からも厳重に管理するということを義務としていた。戦争の元になりかねない存在でありながら、有用といえばあまりに有用だからである。
そんな勇者の種を適当にばら蒔かれたのでは、将来国々の軍事バランスを崩してしまうような大惨事に繋がりかねない。
前国王はエクスの良心への失望のあまり血筋のことなどあくまで言い伝えでしかないと一蹴し、エクスには特に期待も警戒もせず、影に監視させることすらしないという失態を犯した。
それ故に阻止できなかった勇者エクスの問題・・・特にシモの・・・子種のばら蒔きについては国は死に物狂いで調査した。
エクスが冒険の際、ラダーム国以外にはラバース国にしか足を運んでいなかったのは不幸中の幸いである。結局ラバース国の高位貴族を巻き込むことになってしまったが、逆にいうとそこまでで済んだのは奇跡といえた。
シンとレイがこうして各地を練り歩いているのは、情報操作の目的もあるが、エクスの子種が他でもばら撒かれていないかの捜査でもある。
シンはこれ以上何もしないでくれよなと自由奔放過ぎた勇者を恨みながら、今日も市井に交じり任務を遂行するのであった。
「勇者エクスは・・・このまま大人しくしてくれるでしょうか?」
レイの質問に、シンはぶるっと身震いをさせる。
「恐ろしいことを言わないでくれ。そういうことを言ってると、何かが起きる布石になりかねないんだ・・・」
「けど・・・」
「そんなことにならないよう、あんな封印処置まで施したんだ。・・・あってはいけないんだよ」
シンはそう言うとエクスがいるだろうラダーム王城の方角を向いて、はぁと溜め息をついた。
「新しい国王様が即位されたらしいな」
「ああ!なんでも魔王を倒した勇者様だって話じゃないか」
「貴族でも王族でもなかったんだろ?まさか国王様になるだなんてな・・・救国の英雄ともなればそれも可能であるということか?」
「俺の息子なんか早速『将来は勇者様のようになるんだ』って剣術の稽古なんて始めたよ」
「なんにせよ頼もしい勇者様が国王様になるのだったら、魔族や敵国の侵略も怖くねぇ。この国は安泰だな」
市井はラダーム国の新たな国王、『元勇者エクス』についての噂でもちきりであった。
ーーーーーーーーーー
それから更に一月後・・・
新国王エクスについては今だにホットな話題として湧き上がっていた。新国王については今のところ国民はほぼほぼ全員が歓迎ムードだ。
「何とか収まるところに収まったところか」
市井の反応を見るために城下町に来ていたシンは、彼らの反応を見て胸を撫でおろすように言った。
「シモの方はだらしなくても、それほどその悪評は世間には広まってはいなかったんですね」
シンと共に歩くレイもどこか安心したように言った。
「あぁ、もし新国王についての悪評が今の段階であるようなら、また面倒が起きるところだった」
シンとレイはかれこれ一月ほどラダーム国の各地に潜伏し、新国王エクスの評判について探っていた。
シンが言うように即位して一月程度でどこかしら評判に問題が出てくるようなら面倒が起きる。そうでなくても勇者とはいえ平民が国王になるという異例中の異例の出来事があったのだから、貴族会の反発は表立ってないだけで水面下では確実にくすぶっており、新国王の足元は今だに危ういものがある。
それならせめて平民間では評判が上々でないとならないため、そのために前国王も臣下も平民の支持を維持するために神経をすり減らしていた。
そんな前国王の手助けをするのが、シンとレイの今の任務である。
市井に潜りエクスの評判を探り、問題があれば即座に火消しする。シンとレイと同じ任務を持った王室調査室の者が他にも十数名ラダーム国の各地に点々として活動していた。
「始祖の勇者とは・・・凄いのですね。ここまで大規模な工作が必要となるなんて」
レイが感嘆してそう漏らす。
「そうでなければ他国のために我々は動かないよ。始祖の勇者の子種一つで戦争の元だ。それをラダームとラバースの二国だけで抑え込めるのなら、断然安いものだ」
勇者エクスは血筋からして最もマークされる人物だった。
始祖の勇者・・・エクスの血筋は何代かに一人は単身で魔王を凌ぐ力を持ち、一国の軍事力に匹敵したこともあったという。今代のエクスがまさにそれであった。
そんなエクスの血筋を歴代ラダーム王家は裏からも表からも厳重に管理するということを義務としていた。戦争の元になりかねない存在でありながら、有用といえばあまりに有用だからである。
そんな勇者の種を適当にばら蒔かれたのでは、将来国々の軍事バランスを崩してしまうような大惨事に繋がりかねない。
前国王はエクスの良心への失望のあまり血筋のことなどあくまで言い伝えでしかないと一蹴し、エクスには特に期待も警戒もせず、影に監視させることすらしないという失態を犯した。
それ故に阻止できなかった勇者エクスの問題・・・特にシモの・・・子種のばら蒔きについては国は死に物狂いで調査した。
エクスが冒険の際、ラダーム国以外にはラバース国にしか足を運んでいなかったのは不幸中の幸いである。結局ラバース国の高位貴族を巻き込むことになってしまったが、逆にいうとそこまでで済んだのは奇跡といえた。
シンとレイがこうして各地を練り歩いているのは、情報操作の目的もあるが、エクスの子種が他でもばら撒かれていないかの捜査でもある。
シンはこれ以上何もしないでくれよなと自由奔放過ぎた勇者を恨みながら、今日も市井に交じり任務を遂行するのであった。
「勇者エクスは・・・このまま大人しくしてくれるでしょうか?」
レイの質問に、シンはぶるっと身震いをさせる。
「恐ろしいことを言わないでくれ。そういうことを言ってると、何かが起きる布石になりかねないんだ・・・」
「けど・・・」
「そんなことにならないよう、あんな封印処置まで施したんだ。・・・あってはいけないんだよ」
シンはそう言うとエクスがいるだろうラダーム王城の方角を向いて、はぁと溜め息をついた。
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