上 下
506 / 506
賢者リノア

ゴウキ達の後始末

しおりを挟む
さて、外道達の後始末が終わり、それだけで全ての日常が帰ってくるわけではない。
ゴウキにも、最後にやらなければならないことがあった。


「やるしかねぇ・・・やるしかねぇんだ。ま、しゃーねーわな・・・」


ゴウキは自室で煙草を吸いながら、虚空を見つめてそう呟いた。
かれこれ同じことを呟きながら、何時間も延々と煙草を吸い終えては新しい煙草を手に取っている。部屋は煙草の煙で充満し、灰皿には吸い殻が山になり、いよいよ捨て場に困りそうなほどになっていた。

ゴウキは一つの決心をしていた。
それは周囲からも言われていた通り、スミレやリノアとの関係をはっきりさせること。
が、その決め事を実行に移すには、それなりのエネルギーが必要なことだった。
やることは決まっている。考え直すつもりはないし、止まる気だってない。後は動くだけなのだが、これが中々動けない。

しかし、いくら煙草を吸って考えにふけようとも、いずれは時間は無くなるし、煙草だって無限にあるわけではない。
やがて煙草が切れたところで、ゴウキはハッと気が付いた。気が付けばあれこれ考えだしてから二時間が経過していることに。


「あぁ、そうだよな」


潤沢に用意したはずの煙草に限りがありいずれ無くなるように、時間もまた有限である。
こうして悩んでいる間にも、どんどん時間は無くなっていく。

そう、スミレやリノアといられる時間も。
凶行に及んで、リノアの身柄をさらったトマスのように、理不尽に奪い取られることだってある。

ゴウキは決断して立ち上がる。その表情にもう迷いはなかった。







------




ゴウキはスミレとリノアを呼び出して思いのたけをぶつけた。
要約すると

・ゴウキは二人のことを女性として好きだ。
・しかし、どちらか一人を選ぶことが出来ない。
・二人とも俺の女になってくんね?

ということだ。

どちらか一人ではない、二人とも欲しい!これがゴウキの率直な気持ちだったわけだが、ぶん殴られるのを・・・いや、ぶっ殺されるのを覚悟でゴウキはこれを言った。
ゴウキから見ても、不誠実極まりない発言だ。
貴族やらが側室やら愛人やら持つのは珍しいことではないが、平民であるゴウキがそれを望むというのは非常識なのだ。

しかし・・・


「うん、わかった・・・」


頬を赤らめ、照れくさそうに少し俯きながら言うスミレ。


「はい、わかりました」


満面の笑みでそう答えるリノア。


「・・・え?」


二人のリアクションに茫然としたのはゴウキだった。
彼が思っていた以上に、あまりにあっさり受け入れられてしまったからである。
二人が向けてくる好意については、鈍いゴウキも周囲に指摘されるまでもなくそれとなく気付いていた。よって完全拒否という回答にはならないにしても、少しばかり悶着があるだろうくらいに考えていたのだ。

それがいきなりの満額回答に、ゴウキは呆気に取られてしまった。


「・・・良いのかよ?」


野暮であることはわかっているが、思わずそう訊ねてしまうゴウキ。


「・・・アタシとリノア、どちらかには決められねーんだろ?じゃあ、もう仕方ないじゃん。それに・・・」


「私達二人がゴウキ先輩の女になれば、ゴウキ先輩の・・・ゴウキ・ファミリーに箔が付きますしね」


スミレとリノア。
どちらも王都・・・いや、国でも冒険者としてトップと呼べる逸材である強大な軍事力だ。その二人を侍らせていることは、それだけでゴウキが絶大な影響力を持つことになる。

どうせゴウキが二人どちらかを選べないのであれば、逆に両方を選ぶメリットを最大限利用するべきだとスミレ達は考え、示し合わせていたのである。


「アタシ達二人を侍らすんだ。それなりの覚悟は決めてんだろ?」


しかし、だ。
スミレ達の用意したこの道を選ぶということは、相応の男になるという覚悟を持たねばならない。
スミレの問いに、ゴウキはグッと息を飲んだ。

二人を侍らせるに値するだけの価値と、力を持った男になる・・・そして、その男相応の振る舞いをするという覚悟だ。
そこを中途半端にするのであれば、「だったら両方じゃなくどちらか選んでくれ」となる。

ゴウキにはスミレ達の言いたいことがわかっていた。
そのように振る舞うということ・・・それはこれまでと違い、完全に強者の側になるということ。
俺は元々平民だから・・・などと、甘えたことを言うことは許されない。

これはただ単純にゴウキがゴウキ・ファミリーの長として、王都の実力者として君臨するとだけの話ではない。
ゴウキがそうするということ・・・力を誇示して生きていくということは、ゴウキの幼馴染にしてかつての仲間・・・勇者クレアの方針に反する。
青い理想を掲げながらも、自分を殺し、弱者に寄り添い、あくまで他者のためのみに力を使うというクレアの力になりたいと思っていたゴウキが、今は彼女と違う道を歩もうとしている。


「わかってるよ。スミレとリノア、二人に見劣りしねぇ男になろうじゃねえか」


だが、ゴウキは意を決して言った。
スミレとリノア、二人を自分のものにするというだけの宣言ではない。
クレアとの決別をも意味する宣言だった。
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

急に妹に絶縁されて俺は家を出て行った。そしてドッキリだとは俺は知らない。

ああああ
恋愛
急に妹に絶縁されて俺は家を出て行った。そしてドッキリだとは俺は知らない。

国外追放者、聖女の護衛となって祖国に舞い戻る

はにわ
ファンタジー
ランドール王国最東端のルード地方。そこは敵国や魔族領と隣接する危険区域。 そのルードを治めるルーデル辺境伯家の嫡男ショウは、一年後に成人を迎えるとともに先立った父の跡を継ぎ、辺境伯の椅子に就くことが決定していた。幼い頃からランドール最強とされる『黒の騎士団』こと辺境騎士団に混ざり生活し、団員からの支持も厚く、若大将として武勇を轟かせるショウは、若くして国の英雄扱いであった。 幼馴染の婚約者もおり、将来は約束された身だった。 だが、ショウと不仲だった王太子と実兄達の謀略により冤罪をかけられ、彼は廃嫡と婚約者との婚約破棄、そして国外追放を余儀なくされてしまう。彼の将来は真っ暗になった。 はずだったが、2年後・・・ショウは隣国で得意の剣術で日銭を稼ぎ、自由気ままに暮らしていた。だが、そんな彼はひょんなことから、旅をしている聖女と呼ばれる世界的要人である少女の命を助けることになる。 彼女の目的地は祖国のランドール王国であり、またその命を狙ったのもランドールの手の者であることを悟ったショウ。 いつの間にか彼は聖女の護衛をさせられることになり、それについて思うこともあったが、祖国の現状について気になることもあり、再び祖国ランドールの地に足を踏み入れることを決意した。

旅行中に彼女が取られたけど、旅行先で俺は

ああああ
恋愛
旅行中に彼女が取られたけど、旅行先で俺は

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

処理中です...