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賢者リノア

狂気

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「うっ・・・」


リノアが目覚めたのは、見たことのない部屋だった。
彼女が目覚めた大きなベッドがある以外は、小さなテーブルとイスが二つあるだけで、後は窓すらないという簡素な宿屋より素っ気ない部屋だ。


「ここは・・・」


どこだ?と言いかけて、思考が回復したリノアは自分の身に何が起こったのかをすぐに思い出した。

トマスと話していたら唐突に抗いようのない睡魔に襲われ、そのまま意識を失ってしまった。
そして自分は今、見知らぬ部屋のベッドの上にいる。


「っっっっ!?」


一つの結論に辿り着いたリノアは、一瞬で全身に悪寒が走るのを感じた。


「安心して良いよ」


突然声がしたのでリノアがハッとしてそこを見ると、いつの間にか部屋の入口にトマスが立っていた。
穏やかな笑みを浮かべ、ゆっくりとした足取りでリノアの元へやってくる。


「そろそろ目覚める頃かなと思ったんだけど、まさにドンピシャのタイミングだったようだね。シンパシーとでもいうのかな?やっぱり僕達の相性は良いんじゃないかなと思ってしまうね」


「私に何をしたの?」


「ん?安心して良いよ。まだ何もしていないから。君をここに運んできただけだ」


トマスの言葉に、リノアは少しだけホッとする。
自分が寝ている間に乱暴した・・・などということは、彼の言葉を信じるならば無かったということだから。

だが「まだ」何もしていないとしか言っていない。
これからどうするかはまだわからないので、リノアは警戒感を露わにしてトマスから後ずさった。


「心配しなくて良い。僕はリノアが嫌がることはしないよ。誓ってしない」


安心させるように優しく言うトマスに対し、リノアは嫌悪感で鳥肌が立った。


「私をここに攫っておいて、そんなこと信じられるわけないじゃん!」


「あぁ、それだけは済まないと思ってるよ。でも、リノアが悪いんだよ。君が素直にならないから、僕がこうして手の込んだ真似をしないといけなくなったんじゃないか」


「は・・・?素直・・・?」


リノアはトマスが何を言っているのか理解できなかった。
トマスはそんなリノアに満面の笑みを浮かべて言う。


「そう、君が自分の本当の気持ちに気付くまで、僕はずっと君の傍にいることにしたんだ。余計な雑音が入らない、この静かで二人きりの空間で・・・ずっと二人で」


リノアは小さく悲鳴を上げた。
トマスの目が、狂気で歪んでいたからだ。
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