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賢者リノア

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トマスが少し先を歩き、リノア達は人通りの少ない路地へ向かっていた。
なんてことはない、昔の思い出話をトマスが振り、リノアがそれに答える。それだけの会話。
それでも、昔の話をするたびにリノアは少しだけ寂しい気持ちが芽生えていた。

(何事もなくトマスと結婚していたら、一体どうなっていたんだろう)


などと、今となっては通ることはない自分のもう一つの『道』についてリノアは考えたりもした。
だが、未練があるわけではない。むしろここでトマスとは今生の別れになると思っているからこそ、そんなことをふと考えていたのだ。

この昔話をし出したのが例えトマスの情に絆させる作戦だったとしても、まるで取り付く島もない状態である。それだけリノアはトマスに興味がないし、決別することに未練もない。


「リノア。今のあの彼は、それほどに好きかい?」


リノアが自分を見る目に何の感情も無いことを実感したトマスが、ふとそう訊ねた。


「うん。私、ゴウキ先輩以外に考えられないくらい、あの人のことが好き」


別にトマスに当てつけるわけでもなく、リノアはフラットに心の内を打ち明ける。
ただそれだけだったが、強く深いリノアの愛情がゴウキに全力で注がれているのを目の当たりにし、トマスは苦笑いを浮かべる。


「妬けるなぁ。僕はどうして君のことを蔑ろにしてしまったんだろう。後悔しかないよ」


返答に困るような面倒くさいトマスの言葉に、リノアは平然と切り返した。


「でもお陰で私はゴウキ先輩と会えた」


グサリとトマスの心にリノアの言葉のナイフが突き立てられる。
流石にこれにはトマスも歩みを止め、顔から笑顔が消えた。


「・・・あぁ、リノアが幸せなようでいて良かった」


トマスはすぐに笑顔に戻り、そう言った。
そして再び歩き出す。


「僕はこれから村に帰る。そこで、前も言ったように魔道具開発販売の商売をするつもりなんだ」


「そう。がんばってね」


「才能があったのか、勉強に打ち込んだお陰か、良い魔道具を作れるようになってね」


「へぇ・・・」


リノアは特に興味も無さげに無難に切り返す。



「どうせだから、最後に僕が発明した魔道具を一つ見せようか」



そこまで言ってピタリと歩みを止め、体をリノアの方へ向けて満面を笑みを向けてトマスは言った。
人通りの完全にない、静寂に包まれた路地だった。


「・・・っ!?」


それは突然のこと。
リノアは強烈な睡魔に襲われ、膝をついた。
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