『濁』なる俺は『清』なる幼馴染と決別する

賢者リノア

決着の一言

「おい、失神してるぞ」


「無理もねぇ・・・あんなん不意打ちも不意打ちじゃねぇか・・・」


「幸せそうな顔してるぜ・・・」


「幻覚か・・・？なんだかリノアさんの頭から花が生えているように見えるぞ・・・」


ギャラリー達は、感情を限界以上まで高まらせてしまい気絶したリノアを見て口々に言った。
駆け付けて現場を見ているデニスはそれを見て思った。


（そこまで言う・・・？）


概ね期待していた展開にはなったが、それでも段階を飛ばして少々行き過ぎなのではとデニスの口元には自然と苦笑いが浮かんでいた。

が、すぐにあれはあれで良いかと考え直す。

「俺の女だ」とは随分俺様系ではあるが、今の世間のゴウキに対するイメージとしてはそれくらいで良いとデニスは考えていた。
相手の気持ちを顧みないことはない普段のゴウキを知る者からすれば違和感があるが、あぁまではっきりと言えば世間的にも賢者リノアはゴウキのものであり、彼の元から離れることはないという認識を植え付けることが出来るだろうと。


（それに何より・・・）


恍惚とした表情になり、半開きの口から涎を垂らして喜びのあまり気絶という、不必要なまでの幸せアピールを披露しているリノアを見ていると、願いが叶って良かったねという気持ちが湧いて来る。



一方で、トマスと対峙するゴウキの頭の中は半ば混乱していた。


（俺は・・・勢いでつい何を言ってしまってんだ！？）


実はゴウキの発言は勢いによるものであり、本来伝えたかったものではなかった。
正確には「もう少し言葉を選ぶつもりだった」のだが、トマスに対する苛立ちと、リノアにある種の告白をする場面というテンパりにより、思わずあんな言葉が出てしまったのだ。

少し前に「これが今の流行りですから」と、手下に勧められた恋愛小説を斜め読みしたときの影響だ。そこから思わずこのフレーズを拾ってしまったのだ。


「・・・」


ゴウキは内心ではテンパりながらも、それでもトマスをじっと睨みつけたまま動かない。
言葉選びこそ間違ってしまったと自覚していたが、それでもリノアをトマスに渡したくないという気持ちは本物だからだ。


「・・・はっ、君は何を言ってるんだ？リノアはモノじゃない。彼女の気持ちも考えないで君が一方的に言っているに過ぎないだろ」


トマスは一瞬引いていたが、それでも気を持ち直してゴウキに食ってかかる。
勝敗は既についているように見える状況だが、トマスは今だリノアはゴウキによって強引に囲われていると思い込んでいた。
リノアは物ではない、とあくまで彼女の意思を尊重すべしだと、トマスは自分のことを棚に上げてドヤ顔で言い放った。

だが、トマスの指摘には僅かなトリップ時間から現実に意識を引き戻されたリノアが返事をする。


「ううん、私はもう身も心もゴウキ先輩のものなの。私は私の意思でここにいるし、貴方にはもう指一本触られたくないし、話だってしたくないの。ゴウキ先輩がヤキモチ焼くんだもん」


ゴウキの腕に自分の腕をしっかりとホールドさせながら、若干を脚色を交えながらリノアがそう言うと、もうトマスが可哀想なくらい大局が決した。