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忍者スミレ

言う通りにいたします

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スミレは一人、王都の人通りの少ないエリアである第4区を歩き回った。

理由二つ。一つはスミレに用事があるだろうモチヅキ家の人間を引き込むためである。
人目があると派手な動きを見せることは絶対にないだろう彼らは、四区の人目のないところまで来れば向こうから顔を出すだろう・・・そう考えてのことだった。


第4区の中でも人気の少ないエリアに差し掛かると、ほんの一瞬、スミレは自分を追跡していると思わしき気配を感じた。


「ちっ・・・」


スミレは思わず悔しそうに舌打ちをする。
王都に滞在し続けてゴウキ達と楽しくやっているうちに、確かに自分の忍者としての感覚が鈍ってしまったのだということを実感したからだ。

今、自分は明らかに追跡を受けている。恐らくは故郷からやってきたモチヅキ家の者達・・・十勇士達だろう。
抜け目のない十勇士のことならば、知らぬ間に逃げ場がないくらいには自分は包囲されてしまっているだろうという確信があった。だが、今の今までそれに気付かず、包囲を許してしまった自分自身の迂闊さをスミレは悔やんでいた。


(ちっとばかりぬるま湯に浸かり過ぎたか)


異様に頼りになるゴウキを始めとした仲間達と何度かダンジョンを潜り、何度も非凡なる成果を上げてきた。並の冒険者なら生涯稼げないような大金も稼いだ。

だが、そんな日々に浮かれ、感覚を研ぎ澄ます鍛錬を怠ったせいだろうか・・・

かつてのスミレなら気付けるだろうことに気付かず、はまるはずのないだろう罠にはまってしまうことになった。







「やぁ、久しぶりだねスミレ」


街中のとある角を曲がると、そこにはスミレの婚約者であるサスケがいた。


「サスケ・・・様」


予想していなかったタイミングでのサスケの登場に、スミレは呆然と彼の名を呟く。

サスケは親が決めたスミレの許嫁。
彼は五つほどスミレの年上ではあるが、故郷でもかなりの美男子で、忍者としての才も非凡なるものがある男だった。
人格も申し分ないとされ、スミレにもいつも優しく接していたが・・・


(今、全く気配を感じなかった・・・)


才能があると言われ、持て囃されてきたスミレだったが、サスケに背後の取り合いなど、忍者としての実力で勝てたことはあまりなかった。
スミレからすればサスケは婚約者であると同時に、ライバル・・・そして、得体の知れない存在でもあったのだ。

そして今も、サスケに感じているのは懐かしいという気持ちよりもである。
サスケは今笑みを浮かべているが、少しでも彼の機嫌を損ねると、一瞬にして首を刎ねられてしまいそうな、そんな恐ろしさをスミレは感じていた。


「スミレ。もう十分この国も堪能しただろう?そろそろ帰ってきてもらおう思って迎えに来たんだ」


サスケがにじり寄り、反射的にスミレが後ずさる。

そこで気付いた。背後にも既に何人かの気配があることに。


「そろそろ我儘は終わりにしないとな、スミレ」


「留学は今日で終わりだ。すっかり弛んでしまってるようじゃから、鍛え直しだわい」


背後、側面、屋根の上、いたるところでモチヅキ十勇士がスミレを取り囲むように立っていた。


「はい・・・言う通りにいたします」


スミレはそう言い、ゆっくりとサスケに向かって頭を下げた。
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