上 下
369 / 508
ゴウキ・ファミリー

女の戦い

しおりを挟む
「・・・なんだぁコイツら?こんだけコケにされても言われるがままかよ」


過度とも言える挑発に対して、中々乗ってこないクレア達に拍子抜けしたスミレは呆れ返ってそう言った。
世間体を気にする勇者パーティーとなれば、そうそう往来で揉め事を簡単に起こせるはずもないのだが、クレア達が動けないのはそれだけでないことをスミレ達は感じ取っていた。


「うーん、理性的と言うよりはビビってますねぇ」


「はぁ、ツマンネ。冷めたわ。もういいや、とりあえずゴウキには近づくなよ?近づいたらただじゃおかねーから」


すっかりやる気をなくしたスミレは、ビッと中指を立てながらそう言って踵を返そうとする。
そのときだった。


「あっ・・・貴方は・・・!」


ミリアが何かに気付いたようにリノアを見ながら声を上げる。
戦慄して動けないクレアとリフトと違い、どちらかというと傍観の立場に近かったミリアは、ずっとリノアの顔に見覚えがあると思い、どうにか思い出そうとしていた。そして、今漸く思い出す。


「ゴウキのっ・・・こ、恋人とかいう・・・!」


顔を真っ赤にしながら、リノアは言いにくそうにしながらも言い切った。


「えっ・・・?」


キョトンとするクレアとリフト。


「あ・・・?」


不機嫌そうに顔を歪ませるスミレ。


「あら・・・♪」


嬉しそうになるリノア。


「・・・」


我関せずでぼーっとしているマリス。


一瞬、空気が硬直した。


「恋人・・・?あ、あああああああああっ!!」


クレアもリノアの顔を見て、思い出したように大声を上げた。
あまりの大声に辺りの空気がビリビリと震動し、近くにいたリフトの体がビクッと震える。


「新聞に載ってた・・・ゴウキの恋人とかっていう!」


クレア達は以前、王都の新聞を見たときにリノアの顔写真付きの記事を読んでいた。それにはリノアがゴウキの恋人であることを匂わすかのようなことが書かれてあったことを、今思い出したのだ。


「あら?私のこと知ってるんですかぁ?」


ニコニコと機嫌が良さそうに笑うリノアが言うと、クレアとミリアは「やっぱり!」と同時に声を上げる。


「おいおい、何を勝手に・・・」


スミレが恋人面するリノアに食ってかかろうとすると、リノアはスミレを無視しながら


「ちなみにこちらはゴウキ先輩の愛人です」


と紹介した。


「てめー、ふざけんな!」


スミレは激昂するが、クレアとミリアはリノアの言葉を真に受けて硬直する。


「愛人・・・」


クレアはそう呟き、わなわなと震えていた。


「あの・・・クレア?」


少しばかり様子のおかしいクレアを見て、リフトが呼びかける。
クレアと同じように呆然としていたミリアも、クレアの様子がおかしいことに気が付いて怪訝な顔をした。



「・・・あん?」


スミレが表情を引き締める。
さっきまで戦慄していたはずのクレアの雰囲気が、一気に変わったことに気付いたからだ。


「あら・・・」


クレアから発せられるのは、怒気とも取れる凄まじいまでの威圧感。
それをもろに浴びせかけられているリノアは、いつもの飄々とした彼女にしては珍しく冷や汗をかいていた。


「どうやら、ゴウキに詳しく聞かなきゃいけない話ができたみたい・・・」


低く怒気を孕んだ声を発するクレアの目は、彼女を知る者とて誰一人見たこともないほど怒りで据わっていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛しの婚約者に「学園では距離を置こう」と言われたので、婚約破棄を画策してみた

迦陵 れん
恋愛
「学園にいる間は、君と距離をおこうと思う」  待ちに待った定例茶会のその席で、私の大好きな婚約者は唐突にその言葉を口にした。 「え……あの、どうし……て?」  あまりの衝撃に、上手く言葉が紡げない。  彼にそんなことを言われるなんて、夢にも思っていなかったから。 ーーーーーーーーーーーーー  侯爵令嬢ユリアの婚約は、仲の良い親同士によって、幼い頃に結ばれたものだった。  吊り目でキツい雰囲気を持つユリアと、女性からの憧れの的である婚約者。  自分たちが不似合いであることなど、とうに分かっていることだった。  だから──学園にいる間と言わず、彼を自分から解放してあげようと思ったのだ。  婚約者への淡い恋心は、心の奥底へとしまいこんで……。 ※基本的にゆるふわ設定です。 ※プロット苦手派なので、話が右往左往するかもしれません。→故に、タグは徐々に追加していきます ※感想に返信してると執筆が進まないという鈍足仕様のため、返事は期待しないで貰えるとありがたいです。 ※仕事が休みの日のみの執筆になるため、毎日は更新できません……(書きだめできた時だけします)ご了承くださいませ。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

国外追放者、聖女の護衛となって祖国に舞い戻る

はにわ
ファンタジー
ランドール王国最東端のルード地方。そこは敵国や魔族領と隣接する危険区域。 そのルードを治めるルーデル辺境伯家の嫡男ショウは、一年後に成人を迎えるとともに先立った父の跡を継ぎ、辺境伯の椅子に就くことが決定していた。幼い頃からランドール最強とされる『黒の騎士団』こと辺境騎士団に混ざり生活し、団員からの支持も厚く、若大将として武勇を轟かせるショウは、若くして国の英雄扱いであった。 幼馴染の婚約者もおり、将来は約束された身だった。 だが、ショウと不仲だった王太子と実兄達の謀略により冤罪をかけられ、彼は廃嫡と婚約者との婚約破棄、そして国外追放を余儀なくされてしまう。彼の将来は真っ暗になった。 はずだったが、2年後・・・ショウは隣国で得意の剣術で日銭を稼ぎ、自由気ままに暮らしていた。だが、そんな彼はひょんなことから、旅をしている聖女と呼ばれる世界的要人である少女の命を助けることになる。 彼女の目的地は祖国のランドール王国であり、またその命を狙ったのもランドールの手の者であることを悟ったショウ。 いつの間にか彼は聖女の護衛をさせられることになり、それについて思うこともあったが、祖国の現状について気になることもあり、再び祖国ランドールの地に足を踏み入れることを決意した。

断罪された悪役令嬢は押しかけ女房~第二の王都と呼ばれる辺境領地で、彼女の夢を応援してたら第二の国になりました~

うどん五段
恋愛
見目麗しい人間が集まる王都、見目麗しくない人間辺境の第二の王都。 その第二の王都の領地を運営する見目麗しくない、輝く光る頭、けれど心はとても優しい男性、ジュリアスの元に、巷で有名な悪役令嬢が押しかけ女房にやってきた! しかしその実は、悪役令嬢はただの噂で? でも、その事を利用して自分の夢である商売をしていて!? 判断が早いリコネルと、おっとりした禿げた年上のジュリアスとの、騒がしくも忙しい領地改革! ※朝6時10分 昼12時10分 夜17時10分の、1日3回更新です!

国王陛下に激怒されたから、戻って来てくれと言われても困ります

ルイス
恋愛
伯爵令嬢のアンナ・イグマリオはルード・フィクス公爵から婚約破棄をされる。 理由は婚約状態で身体を差し出さないなら必要ないという身勝手極まりないもの。 アンナは彼の屋敷から追放されてしまうが、その後はとんでもないことが起きるのだった。 アンナに片想いをしていた、若き国王陛下はルードに激怒した。ルードは恐怖し、少しでも国王陛下からの怒りを抑える為に、アンナに謝罪しながら戻って来て欲しいと言うが……。 運命の歯車はこの辺りから正常に動作しなくなっていく。

継母は実娘のため私の婚約を強制的に破棄させましたが……思わぬ方向へ進んでしまうこととなってしまったようです。

四季
恋愛
継母は実娘のため私の婚約を強制的に破棄させましたが……。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

処理中です...