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ゴウキ・ファミリー
クレアの多難 その1
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勇者パーティーのリーダーであるクレアはというと、心身ともに疲れた体を引きずるようにして王城へ向かっていた。帰還の挨拶をするためである。
本来ならば一度実家に戻り、翌日にしっかりと身だしなみなど準備をしてからそうしようと思ったのだが、セントラルギルドと少しばかり揉めてしまったために、出来るだけ早めにそのことを説明だけしておこうと思ったのだ。
セントラルギルドは国の指導の元に運営されている組織である。
そのギルドと揉め事を起こしておきながら説明が遅れたのでは、また後になって面倒にこじれることになるかもしれない・・・といった恐怖があったのである。
「やるべきことを後回しにするとろくなことにならない」というのはゴウキのことで痛い目にあって学んだので、いてもたってもいられずにクレアは王城へ報告へ上がったのだ。
予め手紙で大体の帰還の予定日は伝えてあったとはいえ、それでも先ぶれなく訊ねたところで王と謁見することは叶うまい・・・代わりの人物に報告してそれで終わりだろう、そうクレアは考えていたが、それでも無理に調整をした王の計らいによって謁見に間に通されることになった。
ちなみに勇者はその特権により先ぶれなく王城を訪れたところで不敬にはならない。
「随分と疲れているようだな」
謁見の間に姿を現したクレアに対して、国王は言った。
「いえ、大したものではありません。まだまだ大丈夫です」
クレアはそう返事をするが、それでも実際のところ今日だけでも様々なトラブルに見舞われ、心身ともにすっかり疲弊しきってしまっていた。
だがそんな彼女を更に打ちのめす言葉が国王から発せられた。
「遠征から戻ってきたところ悪いが、ちょうど良かった。其方たちに再び出向いてもらいたいところがあるのだ」
「はいっ、どこへなりとも」
ようやく王都に戻ってきたのに再びそうなるのかと少しばかりげんなりしたが、クレアは打てば響くような返事をしてみせる。
「以前北の国境に出向いてもらったが、今そのときに近いような不穏な動きが西の国境でも報告されているのだ。またも『魔人』とやらの絡みかもしれぬ。杞憂ならば良いのだが、ひとつ様子を見に行ってきてくれぬか?」
ーーーゾクッ
『魔人』。
その言葉を聞いて、クレアは一瞬思考が停止した。
動こうにも動けなかったあの圧倒的な恐怖・・・
体の芯まで凍てつくような、絶望するまでの威圧感・・・
その当時のことを思い出して、クレアは全身から汗が噴き出していた。
「準備がある故、出発の日取りはこちらからまた伝えるとしよう。それまでこの王都で待っていると良い」
国王の言葉に頷いて、クレアは王城を後にした。
良くぞ気を失うことなく保ってられたと自分で褒めてやりたいほど、王城を出たクレアの足取りはフラフラだった。
本来ならば一度実家に戻り、翌日にしっかりと身だしなみなど準備をしてからそうしようと思ったのだが、セントラルギルドと少しばかり揉めてしまったために、出来るだけ早めにそのことを説明だけしておこうと思ったのだ。
セントラルギルドは国の指導の元に運営されている組織である。
そのギルドと揉め事を起こしておきながら説明が遅れたのでは、また後になって面倒にこじれることになるかもしれない・・・といった恐怖があったのである。
「やるべきことを後回しにするとろくなことにならない」というのはゴウキのことで痛い目にあって学んだので、いてもたってもいられずにクレアは王城へ報告へ上がったのだ。
予め手紙で大体の帰還の予定日は伝えてあったとはいえ、それでも先ぶれなく訊ねたところで王と謁見することは叶うまい・・・代わりの人物に報告してそれで終わりだろう、そうクレアは考えていたが、それでも無理に調整をした王の計らいによって謁見に間に通されることになった。
ちなみに勇者はその特権により先ぶれなく王城を訪れたところで不敬にはならない。
「随分と疲れているようだな」
謁見の間に姿を現したクレアに対して、国王は言った。
「いえ、大したものではありません。まだまだ大丈夫です」
クレアはそう返事をするが、それでも実際のところ今日だけでも様々なトラブルに見舞われ、心身ともにすっかり疲弊しきってしまっていた。
だがそんな彼女を更に打ちのめす言葉が国王から発せられた。
「遠征から戻ってきたところ悪いが、ちょうど良かった。其方たちに再び出向いてもらいたいところがあるのだ」
「はいっ、どこへなりとも」
ようやく王都に戻ってきたのに再びそうなるのかと少しばかりげんなりしたが、クレアは打てば響くような返事をしてみせる。
「以前北の国境に出向いてもらったが、今そのときに近いような不穏な動きが西の国境でも報告されているのだ。またも『魔人』とやらの絡みかもしれぬ。杞憂ならば良いのだが、ひとつ様子を見に行ってきてくれぬか?」
ーーーゾクッ
『魔人』。
その言葉を聞いて、クレアは一瞬思考が停止した。
動こうにも動けなかったあの圧倒的な恐怖・・・
体の芯まで凍てつくような、絶望するまでの威圧感・・・
その当時のことを思い出して、クレアは全身から汗が噴き出していた。
「準備がある故、出発の日取りはこちらからまた伝えるとしよう。それまでこの王都で待っていると良い」
国王の言葉に頷いて、クレアは王城を後にした。
良くぞ気を失うことなく保ってられたと自分で褒めてやりたいほど、王城を出たクレアの足取りはフラフラだった。
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