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ゴウキ・ファミリー
ミリアの矯正
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精神魔法使いロンダル。
彼がバークマン侯爵から最初に依頼を受けたのは、ミリアがまだ侯爵家に引き取られて間もない頃のことだった。
「お孫さんの記憶を改竄したい・・・ですか?」
真顔でそんなことを依頼してきたバークマン侯爵を見て、ロンダルは「生粋のイカレ野郎だ」と思った。
精神魔法が禁忌とされている理由は、その恐るべき効果だけにあるのではない。精神魔法をかけられた者は、魔法の効力が無くなってからも生涯残るほどの後遺症が出たり、魔法をかけた瞬間に精神が壊れるというリスクが多少なりともあった。特に人の記憶に干渉するものに関してはリスクが跳ね上がる。
使い手の腕によってそのリスクは減るのだが、それでもゼロになるわけではない。ロンダルは今となっては希少となった精神魔法使いの中でも選り抜きの腕を持つ。歳は40ほどだが、人生の大半を精神魔王使いとして過ごしてきたベテランの彼であっても、何人か意図せず壊してしまったことがある。
それでトラブルを起こしたこともあったロンダルは、事前に精神魔法の使用におけるリスクについては念入りに確認をするのだが、バークマン侯爵は迷う素振りも見せずに「やってくれ」と言ってのけた。
実の孫に精神魔法を使うということ自体異常だが、リスクがあるというのに躊躇しないところもロンダルが「イカレ野郎」と思う所以だ。
「どのような改竄でしょうか?」
とはいえ、精神魔法の使用を依頼してくるような人間にそうそうまともな者などいるはずもない。慣れっこであるロンダルは気を取り直して侯爵にそう問う。
「ミリアは第四区で暮らしていた事がある。その事の一切合切を忘れるようにしてほしいのだ」
「あぁ、そういうのか」とロンダルは合点がいった。
血縁者を引き取ったが、後ろめたい過去は消してしまいたいのだと察した。しかし・・・
「残念ですが、それは出来ません。記憶の多少の改竄は可能ですが、完全に消し去ることは不可能です。間違いなく『壊れ』ます」
精神魔法で記憶操作は可能だが、それでも元々あった記憶を消し去ることは不可能だった。出来ることといえば記憶に対しての解釈を変わるよう誘導すること、もしくは思い出しづらいように奥の方へ押し込んでしまうとか、そういった程度の物だ。
「お孫さんの年齢を見るに、長い期間そこで過ごしてきたことでしょう。記憶の量も膨大です。思い出せないようにすることも難しいです」
今回の依頼は無理だな、とロンダルは匙を投げるつもりでそう言うが、侯爵は顎に手を当てしばらく考え込んだ後
「なら、せめて一人の男に関する記憶、印象・・・こいつだけでもどうにかできないか?」
と、そう言った。
一人の男・・・それはゴウキのことであった。
彼がバークマン侯爵から最初に依頼を受けたのは、ミリアがまだ侯爵家に引き取られて間もない頃のことだった。
「お孫さんの記憶を改竄したい・・・ですか?」
真顔でそんなことを依頼してきたバークマン侯爵を見て、ロンダルは「生粋のイカレ野郎だ」と思った。
精神魔法が禁忌とされている理由は、その恐るべき効果だけにあるのではない。精神魔法をかけられた者は、魔法の効力が無くなってからも生涯残るほどの後遺症が出たり、魔法をかけた瞬間に精神が壊れるというリスクが多少なりともあった。特に人の記憶に干渉するものに関してはリスクが跳ね上がる。
使い手の腕によってそのリスクは減るのだが、それでもゼロになるわけではない。ロンダルは今となっては希少となった精神魔法使いの中でも選り抜きの腕を持つ。歳は40ほどだが、人生の大半を精神魔王使いとして過ごしてきたベテランの彼であっても、何人か意図せず壊してしまったことがある。
それでトラブルを起こしたこともあったロンダルは、事前に精神魔法の使用におけるリスクについては念入りに確認をするのだが、バークマン侯爵は迷う素振りも見せずに「やってくれ」と言ってのけた。
実の孫に精神魔法を使うということ自体異常だが、リスクがあるというのに躊躇しないところもロンダルが「イカレ野郎」と思う所以だ。
「どのような改竄でしょうか?」
とはいえ、精神魔法の使用を依頼してくるような人間にそうそうまともな者などいるはずもない。慣れっこであるロンダルは気を取り直して侯爵にそう問う。
「ミリアは第四区で暮らしていた事がある。その事の一切合切を忘れるようにしてほしいのだ」
「あぁ、そういうのか」とロンダルは合点がいった。
血縁者を引き取ったが、後ろめたい過去は消してしまいたいのだと察した。しかし・・・
「残念ですが、それは出来ません。記憶の多少の改竄は可能ですが、完全に消し去ることは不可能です。間違いなく『壊れ』ます」
精神魔法で記憶操作は可能だが、それでも元々あった記憶を消し去ることは不可能だった。出来ることといえば記憶に対しての解釈を変わるよう誘導すること、もしくは思い出しづらいように奥の方へ押し込んでしまうとか、そういった程度の物だ。
「お孫さんの年齢を見るに、長い期間そこで過ごしてきたことでしょう。記憶の量も膨大です。思い出せないようにすることも難しいです」
今回の依頼は無理だな、とロンダルは匙を投げるつもりでそう言うが、侯爵は顎に手を当てしばらく考え込んだ後
「なら、せめて一人の男に関する記憶、印象・・・こいつだけでもどうにかできないか?」
と、そう言った。
一人の男・・・それはゴウキのことであった。
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