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ゴウキ・ファミリー

魔人の圧

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「中々勤勉なお嬢さんだ」


宙に浮いた男は、クレアを見下ろし拍手しながら感心したように言った。


「・・・!」


クレアは男の姿をジッと観察する。長い銀髪に、グレーの肌。歳は自分より少し年上に見える、絶世の美形と言える整った顔立ちだった。


「魔人・・・」


呆然と、クレアがつぶやいた。
彼女の脳裏に浮かんで来るのは、古代種の魔物とともに歴史書に描かれていた人型の魔族・・・魔人。
獣のような人間と似ても似つかない姿をしているのが多くの魔物であるが、中には人と酷似した見た目をし、言語で意思の疎通の出来る存在までいるという。
たまたまクレアが目を通した歴史書の一冊に記してあっただけの存在で、まさか実在するとは思っていなかったそれが目の前にいる。


「ほぉ、私のこともご存じとは。いやはや、剣の腕が立つだけでなく、博識でもあるとは実に優秀なお嬢さんだ」


宙に浮いていた魔人は、ゆっくりと高度を下げ、地面に降り立った。


「初めまして。私はあなた方のいうところの魔人・・・エーリヒと言う」


魔人エーリヒは、優雅にクレアに礼をしながら自己紹介をした。
呆気にとられたクレアだったが


「私はクレアと申します」


クレアは侯爵家の令嬢だが、勇者となってから家柄は関係なく一人の冒険者として扱ってほしいらしく、上位の貴族に対するとき以外は自己紹介のときに家名を名乗らない。


「クレア・・・ふむ、良い名前だね」


エーリヒは満足そうに微笑むが、そこに剣を構えたリフトがやってくる。


「さっきから見ていれば、貴様は一体何なんだ!?」


ここは戦場、そしてエーリヒは魔人。
敵であるのが明白なら、本来はリフトのように敵対する態度をあらわにするのが自然だ。

だが、今にも斬りかかりそうだったはずのリフトが、エーリヒを前にして硬直し、気勢をそがれたかのように動こうとしない。リフトの隣にいるマリスもそうだった。


(・・・仕掛けられない・・・!)


クレアとてエーリヒが魔人であるとわかったときから、最初は悠長に話を長引かせようなどとは思っていなかった。すぐに剣を向けることになると思っていた。
だが、実際には斬りかかるどころか、構えることさえできなかった。
エーリヒはそうさせないだけの威圧感が、底知れぬ戦慄を与えてくるだけの何かがあった。

この感じ、似ているとクレアは思った。
かつて幼いころにゴウキと勝負したときに感じた圧倒的なほどに大きかった圧とかぶった。


「ん・・・?どうしたかね?威勢が良かったのは最初だけか?」


当のエーリヒは、動けないでいるリフトを揶揄うような笑みを浮かべて茶化した。

魔人エーリヒ。彼は少なくとも現段階においてオーラだけで勇者パーティーの面々を圧倒していた。
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