上 下
180 / 506
ゴウキ・ファミリー

外交非礼

しおりを挟む
「ようこそおいでくださいました。こちらへどうぞ」


目的地である北の国境付近に到着したクレア達を出迎えたのは、やつれた顔をした騎士だった。
鎧も服も薄汚れており、戦況が決して楽観視できるような状態ではないことが見て取れる。
クレア達は騎士の誘導に従って本陣のテントまで歩くが、道中は怪我をした騎士がそこら中におり、布に包まれた死体と思わしきものも多く見た。


「・・・・・・」


クレア達も案内役の騎士も、誰も声を出さなかった。
リフトでさえも周囲に広がっている地獄絵図に軽口が出ず、押し黙っている。これがこれから自分達が踏み込むことになる戦場なのだと、ここに来てようやく実感が湧いてきたのだ。


「勇者様御一行をお連れしました!」


騎士団の本陣のテントに来ると、そこには何人かの騎士がいた。彼らはクレア達を見て、安堵したような表情を見せる。


「おぉ、貴方が陛下が送ってこられた勇者様ですか!私がこの現場の指揮を執っておりますギリアムです」


一人の騎士が前に出て、喜色の表情を浮かべる。
ギリアムと名乗った騎士は、歳は30代後半くらいのようだが、戦疲れでやつれているのか随分と老け込んで見えた。自分達が来たことで彼らが少しでも元気づいたのなら、それは幸いなことだ、来て良かったとクレアは思う。


「ギリアム殿ですか。私はリフト・アウナス・・・我々が来たからにはもう大丈夫です」


「おお!なんと心強い・・・!」


横からリフトがでしゃばる。ギリアムは気にした様子もなく、リフトの言葉に笑みを浮かべていた。ちょっとした無礼も気にならないくらい、ギリアムは疲弊していた。
だが、次のリフトの言葉を聞いて、戦慄することになる。


「ところで、今回の戦はということで伺っているのですが、実際のところはディンコクからの侵略なのですよね」


領土問題で揉めている隣国からの侵略と決めてかかっていたリフトは、もうそれで確定だろうという態度でそう言った。一瞬にして場が凍り付いた。


「これまでだって何度もそう言う報告が上がってきた事がありましたが、実際はディンコクの侵略軍との戦いだった。今回もそうなのでしょう?」


「リフト!黙りなさい!」


クレアはリフトの肩を掴む。
極寒の辺境まで王命で来させられて、ストレスも溜まっていたリフトは敵の正体を勿体ぶらされるのが我慢できずに、つい自分から切り出してしまった。どうせ答えはリフトの言った通り・・・のはずだった。


「アウナスさん、貴方は間違えています。非常に愚かな早合点だ」


「なに?」


先ほどまで笑みを浮かべていたギリアムは、くだらない愚か者を見るような目でリフトを見ていた。周囲にいる他の騎士も同様だ。


「報告の通りなのです。我々が今戦っているのは、正体不明の魔物なのです。断じてディンコクの兵士などでは
ありません」


「・・・は?」


唖然とするリフトを無視し、ギリアムは近くにいた自分と違うタイプの鎧を着ている騎士に向かって頭を下げた。


「申し訳ありません!このような無礼を・・・」


「いえ、今はそれについて揉めている場合ではありません。お気になさらず」


「本当に申し訳ありません。そう言っていただけると・・・」


ギリアムと騎士のやり取りを見つめているクレア達の方に、再度ギリアムは向き直る。


「こちらはディンコク国境警備隊の隊長を務めていらっしゃいます、グリード様です。我々は今、共同戦線を張って未知の魔物と戦闘しているところなのです」


ギリアムに紹介された騎士が頭を下げる。
クレア達の頭から血の気が引いた。


「リフト殿。早合点とはいえ、この非常事態にとんでもない外交非礼です。この事は陛下に報告させていただきますよ」


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

急に妹に絶縁されて俺は家を出て行った。そしてドッキリだとは俺は知らない。

ああああ
恋愛
急に妹に絶縁されて俺は家を出て行った。そしてドッキリだとは俺は知らない。

国外追放者、聖女の護衛となって祖国に舞い戻る

はにわ
ファンタジー
ランドール王国最東端のルード地方。そこは敵国や魔族領と隣接する危険区域。 そのルードを治めるルーデル辺境伯家の嫡男ショウは、一年後に成人を迎えるとともに先立った父の跡を継ぎ、辺境伯の椅子に就くことが決定していた。幼い頃からランドール最強とされる『黒の騎士団』こと辺境騎士団に混ざり生活し、団員からの支持も厚く、若大将として武勇を轟かせるショウは、若くして国の英雄扱いであった。 幼馴染の婚約者もおり、将来は約束された身だった。 だが、ショウと不仲だった王太子と実兄達の謀略により冤罪をかけられ、彼は廃嫡と婚約者との婚約破棄、そして国外追放を余儀なくされてしまう。彼の将来は真っ暗になった。 はずだったが、2年後・・・ショウは隣国で得意の剣術で日銭を稼ぎ、自由気ままに暮らしていた。だが、そんな彼はひょんなことから、旅をしている聖女と呼ばれる世界的要人である少女の命を助けることになる。 彼女の目的地は祖国のランドール王国であり、またその命を狙ったのもランドールの手の者であることを悟ったショウ。 いつの間にか彼は聖女の護衛をさせられることになり、それについて思うこともあったが、祖国の現状について気になることもあり、再び祖国ランドールの地に足を踏み入れることを決意した。

旅行中に彼女が取られたけど、旅行先で俺は

ああああ
恋愛
旅行中に彼女が取られたけど、旅行先で俺は

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

処理中です...