『濁』なる俺は『清』なる幼馴染と決別する

追放後

女の予感

ゴウキがノーラに追加された仕事に取り掛かっている頃、ゴウキ達がいつも集まっていた酒場「カムシン」ではゴウキ組のいつもの３人が集まっていた。
ゴウキが来ると思い、彼を待っているのである。

そんな時それは突然起こった。



「はっ！？」


頭髪の一部をユニコーンの角のようにピーンと立てて、リノアが何かに気付いたように声を上げた。


「ゴウキ先輩が・・・何か余計なフラグを立ててしまった、そんな気がします！」


「は？」


「・・・」


声を震わせながら言うリノアを呆れながら見るのは、同じテーブルについているスミレとデニスだった。


「余計なフラグ？なんだよそりゃ」


呆れながらもとりあえず無視せず聞いてあげるスミレ。リノアとは衝突は多いが、別に仲が悪いわけではない。良いとも言い難いが。


「余計なコバエがまたゴウキ先輩に寄り付いた予感がするんです・・・！この感覚が走ったときは、大体ゴウキ先輩の傍に新しい女が纏わりついているんです・・・」


「なにそれ怖い…って、んだよそりゃ！マジでそんなことになりやがったら・・・！」


何言ってんだコイツ？とばかりに呆れた視線を向けたデニスとは違い、スミレは過剰に反応する。
まぁ仕方がないよな、ゴウキはモテる。あれだけの男なのだから当然だ。などと考えるデニスはデニスで少々濃いめにゴウキを心酔しているのだが。


「あのコウモリみたいなので今どうしてるかゴウキのこと探れねーのかよ？」


「・・・あれは、ゴウキ先輩にもうやめろと言われました。次にやったら嫌われてしまうかもしれません・・・」


「ったく！肝心なときに・・・ん？」


そんなこんなでスミレとリノアがやきもきしていると、いつの間にかウエイターがテーブルの傍に立っていた。


「ゴウキくんね、昨日新しい女の子と一緒にここに来てたよ」


「「！？」」


これ以上ないほどの笑顔でウエイターは燃料を投下した。


「はぁ！？」


「ゴウキ先輩が・・・っ！？」


意気消沈していると思い、酒場の誘いを断られても食い下がらなかったというのに、女を連れていた！？
スミレとリノアは驚愕のあまり開いた口が塞がらない。

真相を知っているはずのウエイターはあえて誤解するように言っている。こうして煽って修羅場を見たりするのが大好きな、実に困った男であった。


「後これは噂なんだけど、ゴウキくんその女の子をお姫様抱っこしてたみたいだよ」


そして更に燃料を投下する。
本当に本当に困ったウエイターだが、実はマスターも彼と同類なので特に何も言わなかった。


「あっ・・・ふーん・・・」


「へぇ・・・」


怒りの沸点を越え、静かな怒りを燃やすスミレとリノアは「まぁ、本人が来てから聞けばいいか」と今は大人しくゴウキを待つことにした。
だが怒りが鎮火したわけではない。それはバックドラフトのように、新たに爆炎を上げるその瞬間を待っている恐ろしい静寂なのだ。

ゴウキがやってくるその時まで、二人はただただ静かに待っていた。