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追放後

馬鹿ども   

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バルジ王国の冒険者の活動及び冒険者ギルドに関連する事案を統括する機関、バルジ王国冒険庁の庁舎ではある一人の男が部下からの報告を聞いて素っ頓狂な声を上げた。


「あんだってぇ?ゴウキが冒険者ギルドの管理下を離れただぁ?何の冗談だそりゃあ!?」


座椅子の背もたれに体を預けていた体を起こし、泡を食ったような顔をして部下に詰め寄る男は、冒険庁の長官であるジャック・ソーアルド。細身ながら長身で、白髪の交じった銀髪をオールバックにした強面の中老であるこの男は、元伝説級の冒険者であった。


「勇者パーティーの脱退を承認するときに俺ぁ言ったよな?抜けさせるのはいいが、決して冒険者ギルドから目が離れないようにしろって。そいつを冒険者としての登録自体を凍結するたぁ、ちっとばかり話が違うんじゃねぇのか?」


冒険者生活が長く、功労と高位貴族との婚姻により高爵位を得ている彼は、今なお冒険者当時の言葉遣いが抜けていない。ジャックは怒りのあまり唾を飛ばしながら部下を叱責する。部下は平身低頭頭を下げながら、震える声で弁明をした。


「そ、それがギルドの方で伝達が十分ではなかったようでして・・・ただ、冒険者登録自体削除したわけではなく、あくまで凍結でしてまだリストにゴウキの名前は残っておりましてそれで」


ダンッ!


つらつらと言い訳にならない言い訳をジャックがテーブルを叩く音で遮る。


「凍結だ審議だなんてのはギルドマスターの承認がなきゃできねぇだろうが!あいつが私怨でゴウキに余計なチャチを入れたってことだ。リストに名前が残ってる?それがなんだってんだ。ギルドで仕事が出来なくなったら、他で仕事を貰うようになるだけじゃねぇか!この国で冒険者として仕事ができねぇとなったゴウキが他の国に出て行ったらどうするつもりだ!?どれだけの損失になると思ってんだ!!」


ったく、とここで一息ついてテーブルに置かれた冷めた紅茶にジャックは口をつける。
叱責されている部下は顔面蒼白になりながら呆然自失としていた。


「勇者がゴウキを手放すと聞いたときにゃあ耳を疑った。そんな嬢ちゃんには見えなかったが、相当な馬鹿だねって評価を改めたもんだ。けど、なんてこたぁねぇ、俺たちも似たようなもんだったんじゃねぇか」


ジャックはため息をついて再び座椅子に腰を下ろした。脱力したのかさっきまでの迫力はすっかりなりを潜める。
ジャックは勇者パーティーの選抜試験以来、ずっとゴウキに目をつけていた者の一人だった。
これまでゴウキをただの王家のお祭り部隊としておくことには否定的な考えを示しており、ある日ゴウキが勇者パーティーを追い出されたと聞いたときは一も似もなくそれを承認した。それは機を見てゴウキに冒険者として別の道を示そうと考えてのことだった。


「甘かったな。他の目なんて気にしねえで、さっさと唾つけときゃ良かったぜ」


ジャックは悔やむ。ゴウキに興味を持つ者は他にもいた。だが、この国の冒険者である以上、冒険庁の長官である自分の手の届く範囲にいるからと高をくくってしまっていたと反省する。


「あの、お言葉ですが長官。冒険者として生きていく上で、この国ほど条件の良いところは他にそうそうございません。審議が終えるのを待ってでもこの国に留まり続けるほうが、他国で冒険者を始めるよりもずっとリスクが少ないと言えます。ですから、ゴウキがこの国を発つことはないと思われます」


部下の言い分はもっともだった。この国は冒険者に対して実に過ごしやすいようにできている。ジャック自身も冒険者として様々な国を渡り歩いてきていたので、そのことは良くわかっている。だが


「わかってねぇな。ああいう男ってぇのは、損得だけで縛り付けられるたぁ限らねぇんだよ。手元に置いといてるつもりでも、ある日急に羽が生えて遠くに飛んでいっちまう・・・そんなことだってあるんだ」


ジャックは遠い目をしてそう呟いた。「ま、俺も人任せで安心しきってたからわかってなかったな。俺も馬鹿だ」と続く。

翌日、ジャックはセントラルギルドのマスターを呼びつけ、厳しく指導し、ゴウキの冒険者資格の凍結について解除するように迫った。
ギルドマスターは渋ったが、それでも最後には「ではそのように話を進めます」とジャックに誓う。

しかし、時は既に遅く、ゴウキはセントラルギルドとは決別した道を歩んでいたのであった。
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