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プロローグ

王都の治安に物思う

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「まずいな。そろそろ帰らないと」


夜も更けた頃、ゴウキは時計を見てそう言った。
あと少しだけ・・・と思いつつも、結局想定していた数倍の酒を飲んでしまい、翌日まで臭いが残らなければ良いがとゴウキは心配になる。
個室で誰の目にも触れずに飲む分には黙認されているが、それでも周囲に悟られるほど多量に飲むと流石に怒られてしまう。最悪また叱咤されることになってしまうなと彼は少し憂鬱になっていた。


「たまに飲む仲間との酒も否定するやつが悪いんじゃん。パーティーの打ち上げだって酒場に行ってるのにノンアルしか飲まないんだろ?ゴウキんとこの禁酒令考えたやつはアホでしょ。そんなん世間体以前に冒険者に舐められるじゃん」


叱咤されるならそれまでじゃんとスミレが彼女なりの慰めをする。
スミレの言う通りな一面はある。ろくに酒も飲めないとなると冒険者として下に見てくる者は一定数いるのだ。
まぁ大体が食事制限を含めた清貧さなんてものは戦士の世界では「自分は未熟者です」と言って回っているようなものだと誰かが言っていたなとゴウキは思い出した。

そんなことを考えていたときだった。


ガシャーン


突然店内に何かが壊れる音が響いた。
見ると身なりからして冒険者と思われる二人の酔客が喧嘩をしているようであった。


「ま、酒を飲んでる未熟者もいるわな」


はぁと溜め息をついてゴウキがそれを眺めていると、酔客は掴みあいの喧嘩になって周囲の他の客のいるテーブルまで巻き込んで暴れている。仲間と酒を飲んでいい気分に浸っていたのに、ちょっと酔いがさめてしまったなとゴウキはうんざりしながらその二人に近づいていった。


「おぅ、二人ともその辺でやめときな」


こうした酔客を収めるのは別にゴウキの仕事ではないが、馴染みの店を荒らされて黙っていられる彼ではなかった。ゴウキは暴れている二人の冒険者の間に立って止めに入る。


「なんだ?てめぇには関係ねぇだろうが!」

「引っ込んでろ!」


ただ止められて止まるようなら最初からここまで暴れてはいない。第三者に突然間に入られた酔客達は当然のように激昂した。


「これ以上暴れるならそれなりに手荒くしなきゃいけなくなるが」


そう言ってゴウキは酔客二人の肩を掴み、ぐっと力を込める。


「いっ・・・ひぎぃっ!?」


「あ、あああ・・・?」


力を込められた途端、大鷲に捕まった獲物のように二人は動きを止めた。オークのような筋肉自慢の魔物と正面から力比べ出来るだけの怪力を持つゴウキの握力は、二人の体に「これ以上力を込めると骨が折れるぞ」という警告が伝わる程度の痛みを与える。


「今日のところは帰りな。な?」


ゴウキは優しくそう語り掛けると、二人はコクコクと頷いて会計にしては多めの金をテーブルに置いておくと、逃げるように店を出て行った。




「すまないね。店が滅茶苦茶にならないで済んだよ」


ゴウキの元にマスターが安堵の笑みを浮かべて歩み寄ってくる。


「憲兵じゃここに来るまでにあまりに時間がかかるからね。ゴウキくんがいなかったらと思うとゾッとするよ。今頃大損害だ」


憲兵は街を見回ってはいるが、彼らとて必要なときにすぐに駆け付けるわけではない。第1区ならそこら中を警らしているので問題ないが、第2区のような住民は中級でかつ広大な地域では十分な数の憲兵が警らしておらず、問題が起きても駆け付けるまでに時間がかかることが多いのだ。酔客が暴れに暴れて遅れて憲兵が到着した挙句に当人は逃亡し、店の被害を弁償してもらえずに泣き寝入りになった酒場はいくつもある。
王都の治安は総合的に見れば悪い、ゴウキはそう思っていた。


「・・・うちも用心棒用意しなきゃいけないのかなぁ」


マスターが溜め息交じりに呟いた。
ゴウキは何か力になれればいいがと思いながらも、何もできない自らの不甲斐なさに気落ちするのだった。
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