上 下
13 / 506
プロローグ

超忍者スミレ

しおりを挟む
「はぁ・・・久しぶりの酒がうまいな」


ゴウキはビールを一気に飲み干すと、溜め息交じりにそう漏らした。


「あー、勇者様パーティーって世間体があるから催し物以外の時はお酒は駄目なんだっけ?」


「酒なんて贅沢品だからな。そんなことに金を使っているのが知られるのは世間体が悪い・・・とさ」


この国では飲酒は15歳から認められているが、勇者パーティーでは原則飲酒禁止がルールとなっていた。王家からの支援金ではなく自分達で稼いだ金であっても飲酒は望ましくないということだ。
だが、それはただ自分が下戸であることが知れ渡るのを恥ずかしいからと、リフトが理由をつけて半ば無理矢理ルール化したものというのがゴウキの認識だ。一応は尤もらしい理由であるためか、クレアもこれに頷いてルールが定められたのは今でもゴウキにしてみれば悔しい思い出である。

お陰で勇者パーティーの目に触れそうな第1区ではどの店でもゴウキは飲酒ができなくなってしまった。
その点、今いる第2区のこの酒場ではまずパーティーメンバーに会うことはない。
彼らは普段から第1区でしか行動せず、まずオフの時に第2区に足を踏み入れること自体がないからだ。そんなわけでゴウキにとってこの店は安全にこっそり酒を飲める息抜きの場であった。


「そんなに形見が狭い思いをしているなら、もういっそのこと辞めちゃえばいいじゃん。それでアタシとパーティー組もうよ」


「辞めねぇよ」


スミレの勧誘に対し、ゴウキは迷うことなく即座に言い切った。「はいはい、わかってましたよ」と言ってスミレはブスッとしてビールをチビっと口にする。これまで何度もあったやり取りだったが、ゴウキはただの一度も首を縦に振ったことはなかった。


「俺なんか勧誘してくるってことは、スミレはまだソロでやってるのか?」


「そーだよ。ゴウキが組んでくれればソロじゃなくなるけどね」


不機嫌そうな顔をしながらそうゴウキの問いかけに答えるのを見て、ゴウキはフッと苦笑いをする。申し訳なさと、少しだけ嬉しい気落ちの複雑な感情がゴウキに湧いていた。



スミレは王立学園でのゴウキの同級生だった。ひょんなことから仲良くなり、良くつるんでいたが、ゴウキが学園卒業とともに勇者パーティーに所属してからは一人で冒険者として活躍していた。

ソロでいるのは口が悪く性格も攻撃的だからかろくに友人が寄り付かないというのもあったが、それ以上にスミレはあらゆる能力がずば抜けていて釣り合う冒険者がゴウキの他に中々いないのだ。斥候も工作も戦闘も人並み以上にこなせる逸材・・・彼女は「忍者」と呼ばれる東方の隠密職の天才だった。
スミレは元は東方の国から他国の視察も兼ねて留学しにきたが、ゴウキと知り合うことでいろいろと考えが変わり、帰国することなくバルジ国へ残っている。

ちなみに一度ゴウキは「そんなに俺と組みたいなら」と、勇者パーティーとしてスミレを推薦したいと言ったことがあるが、本人が拒否した上に国からも「能力に不足は有らずとも、性格に著しく問題があり」として門前払いされている。


(まぁ、スミレは一人の方が伸び伸びと活躍出来ていいか)


半端な仲間を作ると足を引っ張ってかえってスミレの能力を引き出せなくなってしまうだろう。そう考えるほどゴウキはスミレのことは買っていた。
勇者パーティーにさえ属していなければ、スミレと組んでみたかったなと思っていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

聖獣がなつくのは私だけですよ?

新野乃花(大舟)
恋愛
3姉妹の3女であるエリッサは、生まれた時から不吉な存在だというレッテルを張られ、家族はもちろん周囲の人々からも冷たい扱いを受けていた。そんなある日の事、エリッサが消えることが自分たちの幸せにつながると信じてやまない彼女の家族は、エリッサに強引に家出を強いる形で、自分たちの手を汚すことなく彼女を追い出すことに成功する。…行く当てのないエリッサは死さえ覚悟し、誰も立ち入らない荒れ果てた大地に足を踏み入れる。死神に出会うことを覚悟していたエリッサだったものの、そんな彼女の前に現れたのは、絶大な力をその身に宿す聖獣だった…!

石しか生成出来ないと追放されましたが、それでOKです!

udonlevel2
ファンタジー
夏祭り中に異世界召喚に巻き込まれた、ただの一般人の桜木ユリ。 皆がそれぞれ素晴らしいスキルを持っている中、桜木の持つスキルは【石を出す程度の力】しかなく、余りにも貧相なそれは皆に笑われて城から金だけ受け取り追い出される。 この国ではもう直ぐ戦争が始まるらしい……。 召喚された3人は戦うスキルを持っていて、桜木だけが【石を出す程度の能力】……。 確かに貧相だけれど――と思っていたが、意外と強いスキルだったようで!? 「こうなったらこの国を抜け出して平和な国で就職よ!」 気合いを入れ直した桜木は、商業ギルド相手に提案し、国を出て違う場所で新生活を送る事になるのだが、辿り着いた国にて、とある家族と出会う事となる――。 ★暫く書き溜めが結構あるので、一日三回更新していきます! 応援よろしくお願いします! ★カクヨム・小説家になろう・アルファポリスで連載中です。 中国でコピーされていたので自衛です。 「天安門事件」

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

(完結)足手まといだと言われパーティーをクビになった補助魔法師だけど、足手まといになった覚えは無い!

ちゃむふー
ファンタジー
今までこのパーティーで上手くやってきたと思っていた。 なのに突然のパーティークビ宣言!! 確かに俺は直接の攻撃タイプでは無い。 補助魔法師だ。 俺のお陰で皆の攻撃力防御力回復力は約3倍にはなっていた筈だ。 足手まといだから今日でパーティーはクビ?? そんな理由認められない!!! 俺がいなくなったら攻撃力も防御力も回復力も3分の1になるからな?? 分かってるのか? 俺を追い出した事、絶対後悔するからな!!! ファンタジー初心者です。 温かい目で見てください(*'▽'*) 一万文字以下の短編の予定です!

お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)

いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。 --------- 掲載は不定期になります。 追記 「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。 お知らせ カクヨム様でも掲載中です。

環《リンク》シリーズ設定集

真義あさひ
ファンタジー
環《リンク》シリーズの設定置き場。 ※ネタバレについて 環《リンク》シリーズは作品がすべて繋がった(リンクした)作品群です。ネタバレや、逆に作品ごとに隠した要素に気づく・気づかないが楽しめるよう構成しております。 年数はカズン君の時代を基準に表記しています。(円環大陸共通暦801年頃) 不定期更新、更新順序は不定です。 各項目は随時アップデート。 更新項目の横には ☆ を付けています。 ※シリーズへの質問や知りたいこと、疑問点等はコメント欄へどうぞ。

家族に辺境追放された貴族少年、実は天職が《チート魔道具師》で内政無双をしていたら、有能な家臣領民が続々と移住してきて本家を超える国力に急成長

ハーーナ殿下
ファンタジー
 貴族五男ライルは魔道具作りが好きな少年だったが、無理解な義理の家族に「攻撃魔法もろくに使えない無能者め!」と辺境に追放されてしまう。ライルは自分の力不足を嘆きつつ、魔物だらけの辺境の開拓に一人で着手する。  しかし家族の誰も知らなかった。実はライルが世界で一人だけの《チート魔道具師》の才能を持ち、規格外な魔道具で今まで領地を密かに繁栄させていたことを。彼の有能さを知る家臣領民は、ライルの領地に移住開始。人の良いライルは「やれやれ、仕方がないですね」と言いながらも内政無双で受け入れ、口コミで領民はどんどん増えて栄えていく。  これは魔道具作りが好きな少年が、亡国の王女やエルフ族長の娘、親を失った子どもたち、多くの困っている人を受け入れ助け、規格外の魔道具で大活躍。一方で追放した無能な本家は衰退していく物語である。

母の中で私の価値はゼロのまま、家の恥にしかならないと養子に出され、それを鵜呑みにした父に縁を切られたおかげで幸せになれました

珠宮さくら
恋愛
伯爵家に生まれたケイトリン・オールドリッチ。跡継ぎの兄と母に似ている妹。その2人が何をしても母は怒ることをしなかった。 なのに母に似ていないという理由で、ケイトリンは理不尽な目にあい続けていた。そんな日々に嫌気がさしたケイトリンは、兄妹を超えるために頑張るようになっていくのだが……。

処理中です...