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11章 天使から女神へ

263話 久しぶりの戦い-VS.ライオンさん1匹目&2匹目

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近づく。

近づく。

天井が近づいてくる――いや、地面が近づいてくる。

こっちを向いて吠えてるライオンさんたちがぐっと近づいてくる。
まるで、逆向きに天井ごと押し潰してこようとするよう。

【こわいよー】
【怖すぎて草】
【あの、これ、時間的に自由落下でも100メートルくらいは急降下……】
【ひぇぇ】
【ひゅんってする】

風を切る音。
風を切る冷たさ。

そのどちらもが、気持ちいい。

……いろいろ、試してみたいけども。

「あの子たちが、心配します……からっ」

結構近づいて来たところで、まずは頭の上の輪っかをぶいんっと投げる。

そうしてすぐさま矢を何本かつがえ、輪っかを投げた先へ照準合わせ。

「これで――どうっ!」

矢を放った僕は、すでにライオンさんたちの目の前。

そこから、

「グォォォォォォ!?」

輪っかと矢を投げてないライオンさんの頭目がけ、羽を調節して真上に落下――する直前に羽を使ってさらに姿勢制御して――思いっ切り、蹴りをかましてみる。

軽すぎる僕の体。

それでも、何十メートル上から落ちてきたエネルギーは相当のもののはず。

「ふんっ!」

「グオォ!?」

【うわえっぐ】
【なぁにこれぇ……】
【おろろろろろろ】
【なんかすごいことしなかった?】
【してた】
【ハルちゃんが……アクロバティックなことを……!】

「……あたた、足が……」

そのまま羽を前にばさりとたたみながら急減速……地面に足を下ろす。

あ。

羽があると、こうやって着地が楽なんだ。

……けども、さすがに思いつきで蹴りかますのはやり過ぎだったかなぁ……でもなんかできそうだったし。

そもそもサンダルだし、そもそも僕、基本歩く程度しか鍛えてないし、それに幼女……じゃなくなってるけど、それでも小学生くらいの女の子だし。

足が痛い……具体的には、くじいたときくらい。

でも、よく分からない表記でもそれなりにあるレベルのおかげでケガはしてないみたいだね。

「あ、輪っか」

ひゅるんって飛んできたのをぱしってつかんで、ぺいって投げ上げると頭の上数十センチに収まる感覚。

なんか不思議だけども分かるんだからしょうがない。

僕が振りかえると、矢の刺さったライオンさんが結晶に。

一方で蹴りをかましたのはまだ頭抱えて悶絶してて、あと、もう1匹は……なんか唸りながら足踏みしてる。

【ライオンしゃんがおびえている】
【そらそうよ……】
【あの動き、人間じゃ無いもん……】
【まぁ女神だし】
【どっちかっていうと爆裂天使の方じゃね?】
【あー】

【リリちゃんのときとかに爆発落とし穴罠コンボで急降下、からの地面に両手ついて無傷でショートカットしてたあの動きに似てるよね】
【ロケット背負って吹っ飛んでから真下に落ちたノーネームちゃん戦のときとも似てる】

【やっぱハルちゃん、こっちが大元だったのね……】
【羽使って……完全に空を飛ぶ生物の動きなんよ】
【そりゃあ発想からして違うわけだ】
【しかも女神だしな!】
【天使の輪っかぶん投げて攻撃してるしな!】
【それ本当に女神とか天使? 何か別のものじゃない?】
【草】

「あ、矢が」

ライオンさんたちは、僕をものすごく警戒してるのか近寄ってこない。

だから残りの矢で仕留めようとしたんだけども……ない。

「矢筒……そうだよね、20本くらいしか入らなかったもんねぇ」

腰の紐にくくりつけてた空っぽの筒をひっくり返してみるけども、当然ながら中から矢が出て来るなんてことはなかった。

もちろん、結晶化したそばに落ちてる中の折れてない矢を拾えば良いんだけど……ライオンさんたち居るし。

「こんなときにきちゃない袋さんがあればなぁ……」

まぁ、残ってた武器とかはもうほとんどなかったんだけどね。

でもほら、このダンジョンでドロップした矢とかの消耗品、運びきれないから結構捨てながら降りてきてるし。

あれがあれば、きっとまたいくらでも収納できたんだ。
それこそ、捨ててきた結晶とかも全部。

【朗報・きちゃない袋さん、思いだしてもらえた】
【良かったね】
【感動した】
【草】
【結局きちゃないままで草】

けど……どうしよ。

子供たちは……うん、結晶で顔だけが突き出てる状態。
矢は持ってるだろうけども、さすがに「矢」って単語は覚えさせてない。

というかあの中から投げてもらっても、拾いに行く前にライオンさんたちに襲われるし……。

「……ノーネームさん」


【ヤメテ】


「や、攻撃手段無いんですよ」


【光】

【弓矢】

【有】


「……無いのでしょうがないですよね」


【ヤダ】

【ヤメテ】

【オネガイ】


ノーネームさんはちょっと嫌がってるけども、僕だっていい加減使ってみたいんだ。

だから僕は、顔の前でぴこぴこと文句言ってるノーネームさんを視界に入れないようにして――。


【ダメ】

【後悔】

【崩壊】

【NG】


「……邪魔ですって」


【!?】


目の前に張り付かれたからむんずとノーネームさんをつかんで、服の中――胸元の、和服の胸元みたいになってる場所にぐいっとノーネームさんをしまい込む。

すっごくもぞられるけども、片手で押さえとけば逃げ出せないはず。

なんかぴこぴこ文字は浮き出てるけど……無視すれば良いし。

「よし」

【草】
【ひでぇ】
【良くない、ハルちゃんそれ良くない】
【必死で止めてたノーネームちゃんになんてことを!】
【ノーネームちゃん、今顔ひしゃげてたぞ……】
【草】
【ノーネームちゃんかわいそう】
【一応は人形さんみたいなのだからねぇ……】

【ハルちゃん! ダメでしょ!】
【これ、あれよね  ハルちゃん、魔法使いたいだけよね】
【だろうなぁ……】
【ずっと使いたがってたしなぁ……】
【ダンジョン溶かしちゃったあのときからずっと、ね……】
【ハルちゃん、こういう攻撃のときとかはやたらご機嫌になるからなぁ……】
【やっぱり殺戮の天使……】
【ああ……】


【アアアアアアアア】

【囚】

【脱出】

【不可能】

【アアアアアアアア】


【草】
【ノーネームちゃんが!】
【かわいそすぎて草】
【ノーネームちゃん、結構がんばってたのに最後の最後で力技使われてて草】
【ハルちゃん……もうちょっと保護者の言うこと聞こ……?】
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