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10章 竜の花嫁

212話 なんか居たから殲滅した

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地面に広がる、うじゃうじゃとゴミ虫みたいな――いやいや違う、なんかちょっと表現違う――アリの大群みたいなモンスターさんたちを、遠くからぺちって潰したいなぁ。

近くで攻撃すると……あのダンジョンみたいに返り血とかついたらやだし、いつもの遠距離攻撃で、かつなるべく広範囲でさくさくっとやりたいなぁ。

そう思ったら、気が付いたら僕の指は魔力でできた矢を離していて。

ひゅんって飛んだ矢は、ちょっと進んだ先――僕より何十メートル先で、無数のまばゆい線に分裂。

それらは放物線を描きながら――僕からだと、まるで傘が開くようにして、地上へ金色の雨を降り注がせる。

音はなく、光だけしかなく。

そこからモンスターたち1体1体の真上に落ちると、ぱんって音。
あとは反響してる鳴き声。

……鳴き声で台無しだけど、でも。

クラッカーみたいに弾ける音と、綺麗な金色の光。

それはとっても、

「……きれい」


【聖】

【審判】


【え?】
【えーっと……ホーリージャッジメント……?】
【あの、知らない……こんな魔法……】
【そりゃあそうだろ、天使の魔法だもん】
【しゅごい】

【視界いっぱいに広がってたモンスターたちに、分裂しながら飛んで行く光の矢……】
【クラスター爆弾……なんてもんじゃないなこれ】
【あの、ハルちゃん? 魔王さんの軍勢……】
【一撃で吹き飛ばしちゃった?】
【えぇ……】

【すごすぎる】
【戦いの次元が違いすぎる】
【ハルちゃん自身、相当高いとこ飛んでるはずなのに見切れてる】
【モンスターもケタ違い、ハルちゃんの攻撃力も範囲もケタ違い】
【なぁにこれぇ……】
【今ほどその鳴き声が似合うシチュはないな】

【ああ、トカゲ  お前のおかげでハルちゃんは天使に戻れたよ】
【お礼はお前の軍勢の壊滅な!】
【満足だろ?】
【草】
【ひでぇ】

【でもトカゲだからいいや】
【ことごとく嫌われてて草】
【だってハルちゃん傷物にしかけたんだもん】
【だってハルちゃんのこと子供産おろろろろ】
【やっぱトカゲだな!】
【そのへんの爬虫類だったな!】
【草】

下の方――羽のおかげで姿勢が自由なおかげか、気が付いたら体ごと地面に向かって水平になってたらしく、真っ正面に感じる――の地面に、張り付くように光の糸が張り巡らされていく。

絶え間ないモンスターたちの叫び声。

……うん、これ、離れてて良かったね……じゃないとさすがにモンスターさんのでも落ち込みそうだし……。


【経験値】

【:】

【集計中】


「……ふぅ……あ、かなり魔力、使っちゃったんだ……」

ほっとひと息ついたと思ったら、がくんっと落ちそうになってちょっと焦った。

……なるほど、これが魔法を撃つ感覚。
全力疾走した後に倒れ込むみたいな感覚。

「……あの空間で無意識に吸ってた魔力、ほとんど使っちゃったみたい……」

んー。

「……ねむい……」


【result】

【:4513585】

【:☆105】


【えーっと?】
【どうやら450万の軍勢だったらしいな】
【経験値の間違いじゃ?】
【もうここまできたら誤差で良いだろ】
【で、レベルは☆の105だと】
【ひぇぇ】
【なぁにそれぇ……】

【経験値だとしても、数字、バグってない??】
【いやまぁ、広すぎる空間一面にみっちり居たし】
【あの、平均的な中級者ダンジョン、湧き潰ししなくて溢れそうになる目安が千体とかなんですけど……】
【つまり?】

【もし今の数字がモンスターの数だったら  モンスターが溢れるレベルのダンジョン、4500個分くらいをまとめて倒したってことだな】

【ちなみにダンジョンからモンスターあふれると、前回のノーネームちゃん騒動みたいに安保理が動くレベルだぞ】
【それが4500回分……】

【しゅごい】
【もはやすごすぎて感覚マヒしてきた】
【しかもそれでも、あのトカゲの経験値の数%って言うね……】
【これが神々の戦いか】
【天使と悪魔だな】
【神と悪魔じゃね?】
【ただでさえ天使のハルちゃんが女神になっちゃったかー】
【実際この見た目だと天使でも女神でも似合うって言うね】

「……眠い……おしゃけ、のみすぎたときみたいぃ……」

ほっぺつねってもしゃべっても、どんどん眠くなっていく僕。
多分、1回でも目を閉じたらそのまま溶けるように寝ちゃう。

「これ……ちょうしにのって、いっしょうびんあけたときみたいなねむけ……」

【草】
【もしかして:ハルちゃん魔力切れ】
【ああ……】
【なのにその表現がお酒って】
【しかも一升瓶とか】

【一升瓶……ひと晩で空けたのかこの幼女……】
【せ、せめてJKの体で……って信じとこう……】
【いや、それでもやばくね?】
【ま、まあ、天使だから大丈夫でしょ……】
【そ、そうそう、人間の尺度じゃないはずだし……】
【もう体の仕組みからして違うだろうし……】
【それなら、あのちょっとおかしい(婉曲表現)数々もまだ納得できるな!】

眠い。

眠い眠い。

人は眠気には抗えないんだ。

眠いって言ってるのに何で寝ちゃいけないの?
僕は眠いのに何で寝ちゃいけないんだ。

【あ、ハルちゃん】
【落ちる落ちる!】
【たまに羽の音でちょっと浮くけど】
【ハルちゃん! こんな死に方はダメよ!】
【ここまで来て魔力切れでの落下ダメージとか悲しすぎる】
【ハルちゃん起きてー!】

ひゅるるるる。

あの空間でずっと聞いてた風の音がしてくる。

「なんか……なつかし……」

「地面にぶつかったら、さすがのこの体でも傷つく」――そんな意識で、どうにか羽を動かしながら不時着できる場所を探す。

できるだけ高台で、落ちても痛くなさそうで、できたら安心できる場所。

地面が近づいてくる。

「無数のくぼみがあって、その中に結晶化してるモンスターさんたちが居る」地面が。

ごつごつしてる地面が。
無機質で痛そうな地面が。

「いたいのはや……いたくないとこ……」

【おちるぅぅぅぅぅ】
【ああああああ】
【落ちたら痛いぞ! がんばって飛ぶんだ!】
【ノーネームちゃん! 噛みついてでも起こせ!】

なんかもう眠すぎて何かに甘えたくなってる僕。
大人になって、すっかり忘れてた甘えたい欲。

……それは、恥ずかしくて突っぱねてた、あの子たちと一緒のとき。

るるさんが元気にぎゅってしてきたり、えみさんが縛られるの覚悟ででっかいのを押し付けてきたり、九島さんが優しく撫でてきたり、リリさんに背中から抱きしめられたり。

……あ。

指先でくいくいと引っ張る力。

その方向に、とろんとした目をやる。

――ああ。

「あれならきっと、やわらかくってあったかくって、あんしんできる」。

【あああああ】
【落ちる落ちる!】
【あ、待て、浮いたぞ!】
【よかったぁぁぁぁ】
【お、洞窟】
【壁に横穴が】

【!?】
【ちょ、人居る!】
【潜ってた人たちか!?】
【いや待て、どう見ても】
【子供!?】
【小学生とかだよな!?】
【どうしてぼろぼろな服のロリとショタがこんなに!?】

――ぽすっ。

「……ふぁあ……」

僕は、最後の力を振り絞って「そのやわらかくってあったかくって、安心できる場所」にしがみついた。

『――――――? ――――――??』

「それ」は心配そうに、おどおどと話しかけて来る。

「……おやすみぃ……」

そうして僕は、あったかさとやわらかさとにおいに包まれて、一瞬で溶けた。
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