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9章 1ヶ月の地下ダンジョン暮らし

168話 3週間の特訓と、出撃と

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ひゅんっ……どすっ。

【ひゅーっ】
【石での攻撃も、もう百発百中ね】
【えっと、今どんくらいになってるんだっけ】
【確か50メートルくらいじゃなかった?】
【スリングショット使ってるとは言え、改めてすごい飛距離と精度だな】

【なお、弓を使っての狙撃だと……たったの3週間の修行で100メートル以上です】
【控えめに言ってもちょっとおかしい】
【ちょっとか?】
【ごめん、間違えた  えぐい成長速度】
【それな】

【まぁレベルダウンした分の再取得に掛かる経験値は半分以下らしいから……】
【まぁあれから起きてるあいだ、疲れてない時間はとにかくひたすら的を離していきながらもくもくと練習してたから……】
【まぁこの数日は起きてるあいだほとんどぶっ続けで投げたり撃ったりしてたから……】

【改めて分かる、ハルちゃんのメンタル強度】
【3週間もくもくと、たったひとりで延々と的に向かうとか】
【誰とも話さず、立ったり座ったりして本当に何時間もな】
【まぁ常人のメンタルじゃこんなことできないけどね】
【それな】

【こんなんじゃレベル1からの成長速度が分からない……】
【成長記録にはなってるだろ】
【確かに】
【もうそれでいいや】

【ハルちゃんが完全にゼロな状態ってわけでもないもんなぁ】
【まぁまぁ、ひたすら壁打ちしててもそれなりに上がるだろうってのは分かったから……】
【ダンジョンの中で?】
【そんなの無理……】
【もう無理だ……】
【草】

きちゃない袋に入ってたメモ帳を見つけて記録を取り始めて3週間……つまり、ここで目が覚めてから1ヶ月。

本ばっかり読んでてもヒマだし、そもそも疲れたら読めばいいよねってことで、体が持つ練習量を見極めながらゼロからのスタートっていう……やってみたらすっごく楽しかった毎日。

「レベルも上がりましたね。 ……調べる手段がないですし、なによりモンスター相手にしてないのでどのくらいかは分かりませんけど」

【スキルまで全部1からなのか、それともスキルはある程度残ってたのかで大分変わりそうだもんな】
【特に遠距離系スキルはスキルレベルとツリー依存だって言うもんなぁ】
【しかもどんだけ深いか分からないから】
【ああ、深層でのレベリングだからここまで……って可能性もあるってことだし】

【でもこの配信のせいで世界中のダンジョン関係の学者さんたちが頭抱えてて草】
【草】
【学者さんたちかわいそう】
【マジでかわいそう】
【この10年での研究成果がおじゃんになってかわいそう】
【この成長速度についてで論文とかめっちゃ上がってて草】

【ここに、とんでもないレベルとスキルからゼロに戻った……かもしれないし、そうじゃないかもしれないっていう例が出て来ちゃったんだもんね……】
【理論とか数字とかもうめちゃくちゃだって泣いてたね】
【かわいそう】
【なんかぞくぞくしてきた】

けど、体感じゃ何割かは戻った感じ。

こうなる前にはほど遠くって、この体になるよりもまだ遠くって、でもダンジョンに潜り始めて安定した2年目くらいよりは近くって。

そもそも幼女の肉体でのレベルとスキルだからなぁ……知ってるモンスターでものこのこ出て来てくれたらいろいろ試せるんだけど。

レベルで言ったら……まだ5とか?

魔力は結構戻ってるから、それでブーストかけられて厳密には分かんないんだけどね。

レベル10……中級者になって安定したって感じにはまだまだだと思う。

けども。

【でも……いよいよか】
【ああ……!】
【とうとうお籠もりから抜け出すハルちゃん】
【野良猫ハルちゃんだからね、そろそろ縄張り広げないとね】

ぐるっとドーム状の洞窟を見渡す。

なにもない大部屋。
感覚的には……そうだね、300階層くらいのボス部屋?

銃を使えたら反響の音とかでそれなりにスケール分かるんだけど、今は弾がほとんどない予備のしかないからなぁ……あれは護身用に取っとかなきゃだし。

そんな僕は、今日、ここから廊下に出る。

幸運すぎることにこれまでモンスターが入って来ることはなかったんだけども、それはもしかしたらここがセーフゾーン扱い……階段なかったけどね、いくら探しても……かもしれない。

だから廊下に出たら、いきなり待ち構えてる可能性がある。

それも索敵スキルが落ちてる可能性大な中で、レベルが落ちてるのが確定な中で。

「ここにも、お世話になりましたね」

【まさかの1ヶ月籠城したマイホームだからな】
【さりげなくちょこちょこ改造されてた寝床が素敵】
【きちゃない袋からいろいろ出しては飾ってたもんな】
【かわいかったな】
【分かる】

もうモンスターが来ないって判断して、第1拠点……最初に寝てたところの物はほとんど撤去済み。

第2拠点も、きちゃない袋から取り出した空箱とかをうまく使って囲って、今じゃすっかり要塞な風景。

いざってときに戻って来るだけじゃなく、今日の下見が終わったら戻って来て寝るつもりだから、寝袋とかもそのまま。

【人間、やろうと思えばダンジョンの深層で1ヶ月間、ひとりで生き延びるもんだな】
【ばっか、ハルちゃんだからだろ】
【そうだった】
【普通の人にはまず無理だもんな】
【まずは相当の容量の収納袋をだな……】

【そもそもいざというときになんとかできそうな気持ちになれない】
【そもそも誰とも話さないでひとりで敵地とかメンタル持たない】
【そもそもひとりでひたすらスキル上げとか普通じゃ続かない】

【マジでハルちゃん、ダンジョン適性高すぎ……】
【だって天使だもん】
【そうだよな、もう俺たち人間とは別枠だもんな】

「よっと」

背中には、攻略のときに誰かが使ってた分のリュック。

荷物は基本的にベルトに付けたきちゃない袋からすぐ取り出せるけども、それとは別の理由。

中身は柔らかい毛布とかが中心な、登山用のリュック。

「これがあれば正面から攻撃されたときに吹っ飛ばされても後頭部と背中から腰を保護できますし、肩とか腰のところのポケットに護身用の拳銃も引っかけられますし」

動いてはいるものの、でもやっぱり電波が届いているか分からないカメラに向かってひとり、いつものように話しかけて思考を整理。

「このロープとか、落とし穴とかのときにとっさに引っかけて助かることって結構あるので……こう、横にくくりつけておきます」

こういうのは何回でも確認するのが大切だって、サバイバル系の本で得た知識。

【どうした急に】
【説明するときだけ早口なハルちゃん】
【レベルとスキルと天使って言う種族でのごり押しじゃなく、きちんと知識を使ってるハルちゃん】

【ここだけはガチだな】
【ああ、最初のころは1日中ご本読んでただけはあるな】
【電波はなくとも、タブレットに本さえ入れとけばあんなに持つんだな……】
【それな】

声に出して必要なものは全部確認。

よし。

「じゃあ、行きます。 安全が確認できないあいだは黙ってますけど、特に怖いとかじゃないので安心してください」

【草】
【それはもう誰もが分かってるよハルちゃん】
【どんなモンスター出て来てもびっくりする以上のことはないって確信してるから大丈夫だよハルちゃん】
【ハルちゃんが怖いって思った時点でおしまいだよ】
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