上 下
131 / 382
8章 起きたらTSして金髪幼女になってたんだけど……どうしよう

131話 僕が女の子になった日の前の日のこと

しおりを挟む
今日からは1日1話ペースに戻ります。
※今話と次話だけは……貴重過ぎるハルちゃん青年verです。

◆◆◆


「ふぅ……」

夕方の通勤時間帯。

僕は、疲れ切った体を駅のホームでぐっと伸ばした。
やっぱり人混みって疲れるよねぇ……通勤だけでへとへとだよ。

あー、やっと仕事終わった。

涼しい夜空を見ながら、おんなじ顔をしたスーツ姿な同類たちととぼとぼ歩き出す僕。

けど、やっぱり長いよねぇ……8時間の労働って。

まぁ厳密には朝の用意で30分、通勤片道1時間、なんだかんだで早く出社して残業して10時間。

んで帰って着替えてだから13時間。
1日の半分だもん、そりゃあ疲れるよねぇ。

あー、学生時代は良かったなぁ。
特に大学なんかもう……。

学生時代から体育会系だったり、放課後や休日に友達と遊びに行く――そういうタイプじゃなかった僕は、この生活だけで精いっぱいだ。

朝起きて会社に行って、帰ってきて食べて寝る。

体力ってのは生まれつきなんだ。
ちょっとジムに行ったからって、そうそう着くものじゃない。

そもそもジムで毎週がんばれるのは最初から体力がある人だけ。
僕は違うんだ。

人は、生まれながらにして基礎スペックが違うんだからさ。
「がんばる」っていう基礎が。

こういうの、僕みたいな人なら分かるんだけども、元気いっぱいな人には分からないらしいね。

そりゃそうだ、土台が違うんだから何もかもが違うんだ。





スーパーで安売りになってた惣菜とお酒を両手にかさかさ。

や、作り置きはあるけども、安くなってたから……つい。

――そんな僕も、流行ってるって知ったら、とりあえずで触ってみる程度はする。

だから、どうせ合わないとは分かってたけど「ダンジョン」ってやつに潜ってみることにした。

聞けば、ゲームみたいな世界がそのまま地球にも現れたらしい。

……そう言えば一時期は「ニュースでおかしなこと言ってる……」って思ってたんだ。

ダンジョンとかモンスターとか、レベルとかドロップとか。

ああいうの、てっきり何かのゲームとかを知らない人向けに紹介してるのかって思ってたんだけども、どうやら違ってたらしいって知ったのが3年くらい前。

……会社での世間話、ソシャゲのことかってずっと思ってたんだ。

で、適当に反応してた。
やっぱり知ったフリしての適当は良くないね。





電車で会社から帰ってきてから、駅前の大きいスーパーで買い物をして、そのままバスに乗ってちょっと。

歩けば30分、バスで10分の距離のとこ。
駅前から住宅街になって――新しい商店街。

そこは、ダンジョン特需っていう感じのお店ばかりが……古い商店街を駆逐するような感じで、新しいお店が軒を連ねている。

ダンジョン関係は、とにかくお金の動きが派手だ。
実入りも多いけども、使う金額も普通の商売するよりずっと動く。

だから、普通の駅前よりも賑わったりするところもあるらしい。

「……………………………………」

んー、あんまり品揃えに変化はなし……お、新型の配信機材……げ、すっごい値段。

ダンジョンで必要なもの――道具から薬、装備までの店が立ち並ぶそこを何分かぷらぷら歩いた先に見えて来たのは、ダンジョンのゲート。

そこに吸い寄せられて行くスーツ姿の僕の同類に、出て来たばっかりな学生服とか私服の、うらやましい生活してる人たち。

あー、今お帰りなんだ……良いなぁ。
僕たち会社勤めは、お仕事してからひと潜りだよ。

けどもダンジョン潜りを専業にするのはちょっとねぇ……安定感ないし、それ以前にすっごい肉体労働だから、カゼ引いて半月寝込んだら収入ゼロだし……。

かちゃっ。

ゲートの脇の建物の中、無意識で歩いて行った先のロッカールーム。

僕みたいに、会社帰りとかにひと潜りで小遣い稼ぎっていうニーズで、でかいロッカーまで完備。

至れり尽くせりとはこういうことなのかな。
なんてね。

……もそもそとスーツを脱いで綺麗にかけて、いつもの装備を着始める。

今どきだからか、ちゃんと小さいながらも個室になってるのが最高。

僕ってば温泉とかでも裸見られたくないタイプだし、かと言って他人の毛むくじゃらなんて見たくないし。

見られる価値の無い男貧相な体でも、やっぱり見られたくないものは見られたくないんだ。

ダンジョン。
全世界に突如出現した謎のエリア。

そこから出てくるモンスターっていうのは、放っておくとダンジョンからあふれてくる災害。

それをいちいち駆逐していたら、どこの国でも軍人さんは足りない。
だから、民間人に解放されたんだってね。

かちゃり。

最近お気に入りの狙撃銃――こういう武器と一緒に。

僕が子供のころまではこんな武器、偽物でも逮捕とかされてたんだもんね……世界なんて簡単に変わるもんだ。

……結構な国で、モンスターって言う脅威そのものにもだけども、なによりも経済的な面で大混乱が起きたらしい。

なにしろダンジョンのドロップ品は、どれも地球に存在しなかったものだし、今でも製造できないものだから――当然、高く売れる。

それが大量に流通したらどうなる?

だから今じゃ、中級者が1日潜ってサラリーマンの何倍かの日給になる「程度」に抑えられるよう、ダンジョン関係はすごい税金だ。

ほんと、どこの国でもお金を巻き上げることだけは得意だよね。

あー、そのせいで毎年の税金がめんどくさいったら。

……それでも軽く2、3時間潜るだけで、僕の実力でも1万くらいは手に入る。

やる気出さないでそれだ。
他の副業なんてやってらんないね。

ま、僕のダンジョン適性があったからだけど……まぁそれは他のことにも言えるから良いってことで。

そんなわけで、僕は今日も会社帰りにひと潜りする。
どこにでもいる存在として。

ぴっ。

僕の名前と、去年かおととしくらいに鑑定したレベルが表示される。
会社の入り口みたいにカードキーをかざして入る、ゲート。

……会社から帰って副業って、自分のことながら時間を損してるって思う。

本当なら、さっき買った惣菜とお酒で今ごろ1杯やってる時間だもん。

まぁ、みんなやってるし?
これでお仕事とおんなじくらい稼げるし?

なによりお酒のランクが相当上がるんだし?
おいしいお酒のためだからしょうがない。

そうして僕は、今日も。

国主導の副業って言うGDP競争の駒として潜るんだ。

……分かっててもやらざるを得ない程度には魅力的で、そこはかとなく心地良いんだ。





潜り始めてから2時間弱。

いつもより深く潜っちゃったからそろそろ……って思った先のフロア。

……ここ、何だろ。

今日はいつもとは違うルートが運良く近道だったみたいで、結構奥まで潜ったみたいだけども。

しばらく警戒して……FOE、ダンジョン内の特性とか階層とかのすみ分けを無視していきなり出て来る所見殺しのモンスターのとこかもって警戒してたけども、索敵スキルと目視を信用するのなら……どうやらここにはモンスターは居ないらしい。

それに、ワンフロアにしては狭すぎる。

「……………………………………」

それでも銃を構えつつ、忍び足、壁と遮蔽物沿いに、息を殺してリストバンドを意識しながら進んだ先には。

……泉?

泉だ。

湖って大きさじゃない。
そんなにおっきくない、ただの水場。

……水系のモンスターが襲ってくるかと思ったし、ワンフロア……みたいだからてっきり大部屋で、四方からモンスターが群がってくると思ったけども違ったらしい。

……もしかしてモンスター、本当にいないのかな。
探知スキルにも映らないし。

こういうイレギュラーなフロアは結構ある。
大体月に……1、2回、年に10から20って考えるとそこそこ。

……特殊フロアか、珍しい。

なんか良いものないかなって期待した僕は、隅から隅まで探索してみることにした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

女の子にされちゃう!?「……男の子やめる?」彼女は優しく撫でた。

広田こお
恋愛
少子解消のため日本は一夫多妻制に。が、若い女性が足りない……。独身男は女性化だ! 待て?僕、結婚相手いないけど、女の子にさせられてしまうの? 「安心して、いい夫なら離婚しないで、あ・げ・る。女の子になるのはイヤでしょ?」 国の決めた結婚相手となんとか結婚して女性化はなんとか免れた。どうなる僕の結婚生活。

妻がエロくて死にそうです

菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。 美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。 こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。 それは…… 限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

ロリっ子がおじさんに種付けされる話

オニオン太郎
大衆娯楽
なろうにも投稿した奴です

俺達は愛し合ってるんだよ!再婚夫が娘とベッドで抱き合っていたので離婚してやると・・・

白崎アイド
大衆娯楽
20歳の娘を連れて、10歳年下の男性と再婚した。 その娘が、再婚相手とベッドの上で抱き合っている姿を目撃。 そこで、娘に再婚相手を託し、私は離婚してやることにした。

幼女になった響ちゃんは男の子に戻りたい!【TS百合】:1 ~「魔法さん」にTSさせられた僕がニートを貫いた1年間~

あずももも
大衆娯楽
僕はある朝に銀髪幼女になった。TSして女の子になった。困ったけども身寄りもないし「独身男性の家に銀髪幼女がいる」って知られたら通報される。怖い。だから僕はこれまで通りに自堕落なニートを満喫するって決めた。時間だけはあるから女の子になった体を観察してみたり恥ずかしがってみたり、普段は男の格好をしてみたりときどき無理やり女の子の格好をさせられたり。肉体的には年上になったJCたちや「魔法さん」から追われてなんとか逃げ切りたかった。でも結局男には戻れなさそうだし、なにより世界は変わったらしい。――だから僕は幼女になってようやく、ひとりこもってのニートを止めるって決めたんだ。 ◆響ちゃんは同じことをぐるぐる考えるめんどくさい子です。癖が強い子です。適度に読み飛ばしてください。本編は2話~50話(の1/2まで)、全部で111万文字あります。長いです。それ以外はお好みで雰囲気をお楽しみください。 ◆3部作のうちの1部目。幼女な女の子になったTS初期の嬉し恥ずかしと年下(肉体的には年上)のヒロインたちを落とすまでと、ニートから脱ニート(働くとは言っていない)までの1年間を描きます。1部のお家を出るまでの物語としては完結。2部では響ちゃんの知らなかった色々を別の視点から追い直し、3部でTSの原因その他色々を終えて……幼女のままハーレムを築いてのTS百合なハッピーエンドを迎えます。特に生えたり大きくなったりしません。徹頭徹尾幼女です。 ◆小説として書いた作品を2019年にやる夫スレでAA付きで投稿&同年に小説として「幼女にTSしたけどニートだし……どうしよう」のタイトルで投稿して完結→22年12月~23年8月にかけてなるべく元の形を維持しつつ大幅に改稿→23年7月から漫画化。他小説サイト様へも投稿しています。 ◆各話のブクマや★評価が励みです。ご感想はツイッターにくださると気が付けます。 ◆セルフコミカライズ中。ツイッター&ニコニコで1Pずつ週2更新です。

せっかく女の子に生まれ変わったんだから、僕はただ……お嬢さまを僕好みに育てるついでに愛でて撫で回して甘やかして楽しもうって思っただけなのに!

あずももも
ファンタジー
かつては男(年齢不詳、たぶん高校生以上)だったのと、ぼんやりと現代で生きていたっていうのしか覚えていない僕は、「リラ」っていう女の子として生まれ直してしまった。 それならまだしも、発育不良……この世界基準では10歳くらいにしか見てもらえない、いや見た目はかわいいけど、……でも、自分がかわいくたってしょうがないじゃない? そもそも自分だし。 ってことで僕自身のことは諦めて、この愛くるしい見た目を最大限に発揮して、手当たり次第女の子や女の人にセクハラもとい甘えるっていうのを謳歌していた僕、リラ。 だけど、あるできごとを境にジュリーさまっていう女神な天使さまに一途にするって決めたんだ。 だから僕は、お嬢さまにすべてを捧げ続ける。 これからも。 ☆ そんな、彼だった彼女なリラちゃんが、延々とジュリーちゃんに欲望を振りまき、やがてタイトルにあるようなことを叫んでのおしまいとなるだけのおはなしです。 この作品は、小説家になろう・ハーメルン・カクヨム・アルファポリス・ノベルアッププラスと節操なく同時連載です。 ☆ 2021年01月13日(水)完結致しました。

処理中です...