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5章 みんなとお別れするまでの、つかの間のお休み

67話 始原会議Ⅲ

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「ま、その件は後ほどじゃ。 正直アレも、恐らくではあるが」
「ハルちゃんを深谷るるさんと離さずにおけば問題は無いはずですからね」

「……呪い……こほん、アレよりも喫緊の課題とは?」

「海外勢。 既に15カ国、230の工作員を水際で確保した」
「にひゃくっ!?」

「国内でももう100人以上さね。 政界からも相当の手が回ってる」
「ダンジョン周辺はうじゃじゃと。 ただいま取調中です」

「闇バイトって形で一般人もかなり。 なまじ『ハルちゃんっぽい子見つけたらいくら』って感じだから手強い」
「配信者への案件としても相当数……厄介だねぇ」

「ハッキングもかなり来てるね。 だからこそ致命的なデータは全部紙で、しかも会長の部屋でしか取り扱ってないし、デバイスも外に出しているわけだけど」

「……そう言えば……私たちが呼ばれたのも」
「左様」
「会長、毎回同じ返事ですと嫌われますよ」
「うむ……仕様のない」

えみが前回の会合を思い出すと、深く頷く一同。

「ハルちゃんはな、やばいのだ」
「それは知ってます」
「どのくらいかは知ってるんだよね?」
「え、ええ……確かレベルが★いくつとか」

その前に会長たちから聞かされたそれを思い出すえみ。

「★……あー、つまりゲームで言う」

「「転生」」

「……天才組は息がぴったりねぇ」

「転生。 生まれ変わること」
「転生。 ゲームなどで限界を超えること」

「――それが、ハルちゃんに起きておる。 じゃからあれだけちょっとおかしい動きができる」
「魔力で補助するって言っても、あれはちょっと異常だもん」

「盗さ――調査で『彼だったとき』の映像も残ってるけど……全然違うものね」

「えっ」

「あ、大丈夫。 さりげなくハルちゃんに言っといたから」
「いえ、盗撮は……もういいです」

――ハルちゃん、あなた本当、男性のときからこの人たちに目を付けられていたのね……。

その執拗さに呆れ、さらにそれを聞いたとしても「そうなんですか」としか言わなさそうな「彼」を思い浮かべ、えみはもう一度のため息。

「今の実際のレベル、いくつなんだろうねー」
「そういやレベルの基準って国内はどうなってたっけ?」

「確か、ダンジョン潜ったことない人は固定で0。 初心者からアマなら10まで」
「プロとして働ける中級者なら20までね」

「で、それ以上のトップ勢な上級者はだいたい20レベちょい。 国内最高が30くらいで海外が39まで確認だっけ?」
「そ。 なんか隠しステとかスキルとかで結構実力は変わるけどね」

「クレセントちゃんは確か中級者じゃったの?」
「え、ええ……」

「えー、すごくない? 一般人ってレベル10の壁超えられないんだけどー! って言うか私も6とかが限度だったんだけどー!」
「そうだな。 私も去年やってみようとはしたが、3でも限界だった。 まぁ私が中年親父だからかもしれんが」
「おじさんやっばー!」

――あの、その方大企業の社長さんなんですよ姉御さん……。

えみは、戻ったらハル吸いをしようと決心した。

――ハルさんの頭に顔をうずめて息を吸うと頭の中がとろけそうになる極上のあれがあるって思わないと、この場に居られないもの……。

「……けど、それならなおのこと気になるよね。 ★10って」

「んー。 創作の話だけどさ、転生ものとか昔流行ったの見た限りだとやっぱ『カンスト』ってことよね?」
「それなら、どうしても39以上進まない壁の40が★……か?」

「あるいは50とか60とか」
「ハルちゃんならあり得るなぁ」

「でも『泉』っしょ? そこでいっそのこと100とか」

「いや、そこから100は……」
「人類の壁……の予測が40だからそれは……」

「……あり得なくはないですね。 そもそもダンジョン内での異変ですから。 姿も完全に変わっていますし。 成人男性から、幼い女の子……それも黒髪から金髪に」

「しかもダンジョンのお気にだしー。 なにさ、呪い様とかノーネーム様とかあはははっ」

「あ、姉御さん……お水飲まないと……」
「あーもーかわいーなークレセントちゃんはーうりうりー」

酔っ払いに抱きつかれ、年上の女性の香水の香りと酒の匂いで戸惑うクレセントこと、えみ。

――抱きついてきているのがハルさんだったら嬉しいのに。

「ま、ハルちゃんはちょっとおかしいからな」
「ちょっとおかしいから何でもあり」
「左様」

「配信でもみんな言ってたそれ、気に入ってるんですね……」

「でも、もうみんなにバレちゃった。 みんな、ハルちゃんを欲しがってる」
「それは分かりますけど――」

ぱちっと誰かの指が鳴らされると、えみたちが入って来たのとは別の扉が開く。

「――それゆえ、今回の奇貨が鍵となるのだよ」

「……コンニチハ」

おずおずと入って来たのは長い銀髪に蒼い瞳の――。

「あ、リリちゃん」
「ハルちゃんにあんなに抱きつかれてずるいぞー!」
「変わって欲しかったぞー!」

……入って来た彼女へ、早速ヤジが飛ぶ。

『えっ……えっ……』
「あー、この子は英語で頼む。 ここじゃ翻訳機使えないし、まだ分からないんだわ」

「……海外の始原の方……確か、語学を習得してから、と」
「こっそり来ちゃってたらしいね。 ま、協定違反については後でじっくり絞るから今は置いといてあげて?」

この場に居る8人からの視線と雑談。

それらが自分に向けられており、しかも「先ほどの幸せな時間」で疲れ切っている彼女――「リリ」。

彼女は周りを見渡し……どう見ても何かとてつもなく怪しげな光景にさらにびびる様子だったが、マザーが手招きすると唇を結びながら近づいてくる。

「ってことはこの子も始原?」
「うむ。 儂ら始原の海外勢、その1人じゃ」
「コードネームは?」
「『プリンセス』さね」

――「プリンセス」。

えみは、リリという彼女の立ち振る舞いや首元のアクセサリーなどからなんとなくその意味が理解できてしまい――「まぁでもハルさんのことだから」と思考を放棄した。

『……改めてごめんなさい、私、約束を……』

『まずは英語で、ゆっくりと簡単な表現を使ってください。 それなら多分高校生の彼女でも理解できます。 そうですよね? 三日月』

「え、あ、はい。 と言いますか英語だと本当にそのコードネーム全く意味が……」
「もろクレセントだもんねーあははっ」
「うぅ……」

――コードネームとやらがこんなに恥ずかしいものだなんて。

「あー! この時代に自動通訳使えないのムカつくー!」
「まーアレ、オンラインじゃからな……機密は無理じゃて」

何かあるたびにドン引きしたり恥ずかしい思いをするえみを置いて、話は進む。

「はー……けどなんか前そんなこと言ってたわね。 外国人が2人って」

結構酔いが回っているようで、もはやどっしりと構えすぎている「姉御」。

幼女以外については常識人過ぎるえみの縮こまりようとは対称的だ。

「彼女はその1人です。 名前は……もう配信で出てしまいましたし、なによりハルちゃんに伝わりましたのでリリさんとでも」

『はい。 リリ……そう呼んでください、私の愛しい友人たち』

「まー、万が一があるから『プリンセス』でよろ」
「はーい」
「え、ええ……」





『じゃ、手短に。 ――ハルちゃんに助けられたのは』

『誓って偶然です。 私がこの国のダンジョンを体験したいと頼んだ方々が、あちらのダンジョンをと手配してくださいました。 今朝のことです』

『始原として嘘はつかないだろう。 信じよう』
『と言うことは、呪い様とやらもまた偶然で?』

『最初からハルちゃんを狙っていたのなら、似たような場面で同じようなことをしていたかもね』
『となると、ハルちゃんが助けそうな相手なら誰でも……という訳か』

「プリンセス」……リリがあのダンジョンの最下層で動けなくなったのは偶然という。

なにしろ彼女のそれではなく、同行者のリストバンドが壊れたのだから。

彼女と同行者たちで話し合った結果、単純に生き延びる確率が最も高い――レベルも非常に高い彼女が残るとなった。

雇い主である彼女が残るというのも人の命が掛かっていたら不自然ではないし――なにより始原の結束だ、嘘はつかないだろう。

『でもさ、リストバンドが壊れるなんてこと』
『そうそうないさね……あれはミサイルでも破壊不可能オブジェクトなんだよ』

『ダンジョン産じゃからの。 まぁ耐久は物によるから定期的に見んとあかんが』
『1年に1回強制的な点検がありますし……やはり』
『偶然という可能性も……あるは、ある。 年に何回かそういう事故あるしな』

『でも、プリンセス……じゃなくても、誰かしらをあの場にくぎ付けにし』
『救助要請にハルちゃんが反応するって前提で――ってことか』

しんとなる部屋。

ふざけているようでいて、ここに居る全員がハルのことしか考えていない。

そんな中。

「ふへへぇ……」

「!!!!!」
「!!!!!」
「!!!!!」
「!!!!!」
「!!!!!」
「!!!!!」
「!!!!!」
「!!!!!」
『!!!!!』

そこへ響いた「彼」のほぐれきった笑い声がスピーカーで反響し、9人全員が振り向いて、映像にくぎ付けになり。

いい大人たちも少年少女たちも、もちろんえみも姉御もひとしきり悶えた。
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