上 下
40 / 41

40話 僕の知らない、もうひとつの結末 その1

しおりを挟む

「……あら。 そうそう、大事なことを忘れていたわぁ。 あの子が思っていた以上にぽけーっとした顔を見せてくれたものだからおかしくって、伝えずにいるところだったわ、危ない危ない」
「シルヴィー? 私、これからお父さまの元へ」

リラが放心状態となって……彼女たちにとっては、きっと張り詰めていた気持ちが緩んでぼうっとしているのだろうと感じられ、だからこそリラから少し離れたところで盛り上がっていたのだが。

父親への連絡のために……リラに、休養のことなどを伝えたのだと……だからこそ、これからリラが働こうとするのを何が何でも止めなければなりません、と伝えようと部屋から出ようとしたジュリーを、シルヴィーが引き留める。

「ちょっと待ってちょうだいな。 すぐに済むものだし……どうせ朝食をご一緒するのだから、そのときでいいじゃないの、私だって当事者なのだから問題ないでしょう」
「………………………………。 それも、そうですね」

ひとしきりに、これからいかにリラを甘やかして……今までの分以上に楽しませるかを話していた彼女たちは、時間を気にしてそわそわとし始めているメイドたちに急かされるように感じつつも……最後の話題にたどり着く。

「で。 これ、ものすごく……、ちょっと近くに来てちょうだい。 いえ、もっと」
「……? これでも充分ではないですか」

「もっと。 ナイショのことなのよ」
「え……ええ、いいですけれど……」

そうして……小一時間前の彼だった彼女が見ていたら、すわ百合キスに乗り出されるか、と構えただろう距離まで顔が近づいた彼女たち。

もちろんふつうの、使用人に限らずほとんどの人間ならば、ただの他人に聞かせられない話なのだと解するだけなのだが。

その証拠にメイドたちも、さりげなく距離を取って彼女たちのことを視界に入れないようにと……代わりにリラを。

リラが、ショックのあまりに放心しているがゆえに。

……ジュリーたちがまたしても周りにさりげなく置いた人形たちに囲まれ、「小さい小さいお姫さま」な様子の彼女を、滅多に見られない彼女を、熱心に見つめていた。

「……で、ね? この前言っていた、あーすぃ……なんとかってやつなんだけど」

「………………………………? そのためにわざわざ……あら、もしかしてシルヴィーもしてもらいたいの? それで、こっそりと? ええ、そうですわっ、前に話しましたように、あれはとても気持ちの良いものなのですっ。 はじめの数回はほとんどの場所で、それが過ぎても悪いところは痛かったりするのですけれど、それを過ぎると、リラの手が刺激してくる箇所が……上手く表現できないのですけれど、とにかく気持ちいいのですっ」
「…………………………………………………………………………………………」

「ええ、それはもうシルヴィーが大好きになったおふろなどというものよりも、ずっとずっとですっ。 あのですね、おふろで気持ちよくなったあとに寝そべってリラにあれをしてもらうと、いつの間にか眠ってしまうくらいには。 私、もう……あれなしの生活には戻れないくらいですっ」

力説しているうちに腕を使ったりして徐々に声が大きくなるほどに興奮してきているジュリーという……ほんとうに、無垢な少女。

「それ」がいかにいいものであって、リラの提供してくれるすばらしいもので、ぜひに友人であるシルヴィーにも試してみてもらいたいのだと、それはもう必死になってきていて。

「ジュリー。 声、声」
「そのですね、……ああもうっ! これを言語にできないのがもどかしくて仕方がありませんわっ。 けれど、とにかく……気持ちの良いところをリラに触られていると、なぜだか体の「中」からふわっと持ち上がるような感覚とともに何かが突き抜けそうな、そのようなもどかしくもすてきなものが襲ってくるのです。 思わずに声も出てしまいますし、それがとても恥ずかしいように感じてしまうのですけれども、けれどもリラはそれが自然なことだから我慢しないようにと言うので口から出して……なので終わる頃には息もとても苦しくて、終わってからはしばらくぼぅっとしてしまうくらいには疲れてしまいますけれども、おふろから上がって汗が引く頃には多少の風邪程度でしたらすっかりよくなってしまって」

「ジュリー? ね、ジュリーそのあたりで」
「危ないからとお湯の中でしてもらったことはほとんどないのですけれども、頼み込んでしてもらったときには……じっくりとしてもらったときには、それはそれはもうっ、意識がどこかに行ってしまいそうな感じでっ。 ……そうです、どうして思いつかなかったのでしょう、シルヴィーも次に泊まるときにはぜひリラにしてもらったらいかがでしょうか、ええ、恥ずかしいでしょうからもちろん別々にしてもらって。 そうすれば………………………………むぐっ?」

「はーい。 人払いはしておいたから、落ち着いてちょうだーい?」

唐突に口をふさがれて戸惑っていたジュリーは、……熱が入りすぎていたというのにも、シルヴィーの言うとおりに室内に使用人たちが見当たらないことにも気がついた。

いるのは、未だ魂が抜けていて、ぼけーっとしているリラだけだ。

もちろん、周りのことには一切に気がつけないでいる……話の渦中であり続ける彼女だけ。

なお、いつの間にか周りの人形が増えているが、彼女はそれにも気がつかないでいる。

気がつけないでいる。

ゆえに、彼女たちの会話も一切に耳に入らない。

「……ごめんなさい、ついはしゃぎすぎてしまいましたわ。 はしたないところを」
「えーと……。 ごめんなさい、傷が浅いうちに言っておいた方がよかったのだけれど、間に合わなさそうだったから。 それで、ね? あなたのそれ。 リラから……いつも?」

「ええ、ほぼ毎晩に。 治療の一環ですから」
「………………………………。 で、ね。 それ、少なくともあなたの話を聞いただけで確かめたりはしていないから確証はない……あ、いえ、あなたの言うとおりにリラにしてもらえば分かるかしらね。 そうしたら確実ね、きっと……なの、だけれど」

妙に歯切れの悪い……話し好きなシルヴィーという少女の、ふだんは彼女の方の話が止まらない性質から、いつものように首をかしげるジュリー。

「……? シルヴィー?」
「え、ええ。 ………………………………その。 ね? あの、その。 ……あー、こういう話、したことのない子と話すのって緊張するわねぇ――……、で! その、あーすぃっての、南方で最近……なんでも前はそれほどじゃなくて、つい最近に爆発的に流行りはじめたものらしいのだけれど。 それは、――――――っていうものとそっくりなのよ」
「へ」

「そっくりなの」
「え………………………………、え?」

「だから、――――――――と。 知っているかしら、これ。 あ、知っているのね、よかったわぁ……一から説明しなくてよくって」

急に耳元でささやかれたその単語に、はじめはお嬢さまなジュリーの口からお嬢さまらしからぬ声が出て……理解が頭に届き、そして、一気に顔が真っ赤になる。

「え、……。 あああああ、あのっ、シルヴィー!? それって、男性が……って聞いたことがある、え、えええええっ……」
「そういうものね」

「………………………………ふぅっ。 あの、……男性が、町にあるというそういう店に行ってしてもらうという、そのっ」
「……あははっ。 まさかジュリー、あなたがこの名前を聞いただけで分かるだなんて思ってはいなかったわっ。 だってあなた、私と会ったばかりのころは、ほんとうにその方面については無頓着だったものねー。 同年代の他の子はみーんな知っているのに、あなただけがきょとんとした顔だけを返してくるものだから、もうおもしろくって」

「………………………………………………………………。 ……そういえばシルヴィー、以前から度々、つぶやくようにおかしなことを言っていましたものね……。 あれらはそういうものだったのですか」
「ええ。 隠しているのじゃなくて、ほんとうに知らないのかを知りたくてやっていたの。 ……まさか、ここまで無知な子だとは思わなかったものだから。 ごめんなさいね?」

「……、はぁ……」
「何も知らないというのも、それはそれで男心をくすぐるものだそうだけれど……まったくに知らなくてはアルベール王子も困るでしょう。 今度、私直々にいろいろと手ほどきしてあげましょうか?」

ずい、とせまるシルヴィー。

豊満な胸を押し付けるようにして顔を近づけたままの銀髪の少女に、今までさんざんに……現代で言うのであればセクハラというものをされていたという事実に衝撃を受けながらも、これがシルヴィーという少女なのだと理解している金髪の少女はため息をつき。

「……どうせ、聞きたくないと言っても聞かせてくるのでしょう? でしたら……ええ。 どうか、お手柔らかに」
「言質は取ったわよ? それじゃー、どのへんから教えましょうかねぇ? ………………………………。 ……前のあなたなら、興味ないんだとか、聞いたらよくないことですー、とか何とか言って、聞く耳すら持たなかったでしょうに。 これも、リラのおかげ……なのかしらね?」

「…………こればかりは、あなた、シルヴィーの影響よ。 悪い遊びばかり教えてきて。 何よ、ご用の方のお店に変装して出向いて、さんざんに平民としての扱いを受けた後に乗り付けた馬車の中で着替えをして正体を見せて反応を見るだなんてものをさせたりしてっ。 あなたは、ほんとうに……」
「あれもまた楽しかったでしょう? 大丈夫よ、ほんとうに悪いことはしないんだから。 ………………………………。 で。 その、あ――……」

「あーすぃ、ね?」
「ああそうそうあーすぃね、あーすぃ。 で、それ、私……ちょっと前に南方の方に招かれて出向いた先で聞いて回ったときに耳にしたのだけれど。 たしかに、いろいろな病気にも効くという触れ込みだったのだし、事実私の頭痛とかも良くはなったのだけれど」

「……あの? も、もしかしてシルヴィー、あなた」

「ええ、あーすぃ、を受けたわよ? ああ、もちろん、そういう部分はなしのものだったみたいだけれども。 でも、……頼めば、その先にはどのような施術があるのかっていうのは、聞いてみたのよ。 しっかりと、ね。 だから、リラに……知らないフリして頼んでみれば、きっと分かるわ。 だって、実際に半分は体験したのだし、どういうことをするのかは聞いているのだもの」
「………………………………と、言うことは」

ずっとふたりで……互いの唇がすぐ側にあるほどに密着して話し続け、それも途中からは……年ごろの少女たちにとっては何かと色づく話題であったために、汗ばむほどになっており、顔も体も火照っている。

「……え、ええと? リラはそれを学んできたのだけれど、そういうものだと知らずに、そういう部分までをも持ち帰ってきてしまったと言うこと? いえ、でも、実際に私には……そういうことはしてこなかったのだし。 そ、その、……な場所にはいちども触られたこと、ないもの。 ……けれども、いくら未知の技術だったからと言って、あの頭の良いリラがまちがえて、だなんてあるのかしら……?」

「……それなのだけれどね? ジュリー。 あの子は、……リラは。 ひょっとしたら……だけれども。 いえ、そうだとしたらいろいろと説明がつくし、納得がいくのよね。 ……あの子、そっちの気っていうものが――――つまりは女性「も」好き、っていう子なのかもしれないわね?」

と、シルヴィーは。

当たらずとも遠からず……いや、半分正解で半分不正解なその答えを、導き出した。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

俺の娘、チョロインじゃん!

ちゃんこ
ファンタジー
俺、そこそこイケてる男爵(32) 可愛い俺の娘はヒロイン……あれ? 乙女ゲーム? 悪役令嬢? ざまぁ? 何、この情報……? 男爵令嬢が王太子と婚約なんて、あり得なくね?  アホな俺の娘が高位貴族令息たちと仲良しこよしなんて、あり得なくね? ざまぁされること必至じゃね? でも、学園入学は来年だ。まだ間に合う。そうだ、隣国に移住しよう……問題ないな、うん! 「おのれぇぇ! 公爵令嬢たる我が娘を断罪するとは! 許さぬぞーっ!」 余裕ぶっこいてたら、おヒゲが素敵な公爵(41)が突進してきた! え? え? 公爵もゲーム情報キャッチしたの? ぎゃぁぁぁ! 【ヒロインの父親】vs.【悪役令嬢の父親】の戦いが始まる?

転生令嬢は現状を語る。

みなせ
ファンタジー
目が覚めたら悪役令嬢でした。 よくある話だけど、 私の話を聞いてほしい。

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

異世界でも男装標準装備~性別迷子とか普通だけど~

結城 朱煉
ファンタジー
日常から男装している木原祐樹(25歳)は 気が付くと真っ白い空間にいた 自称神という男性によると 部下によるミスが原因だった 元の世界に戻れないので 異世界に行って生きる事を決めました! 異世界に行って、自由気ままに、生きていきます ~☆~☆~☆~☆~☆ 誤字脱字など、気を付けていますが、ありましたら教えて頂けると助かります! また、感想を頂けると大喜びします 気が向いたら書き込んでやって下さい ~☆~☆~☆~☆~☆ カクヨム・小説家になろうでも公開しています もしもシリーズ作りました<異世界でも男装標準装備~もしもシリーズ~> もし、よろしければ読んであげて下さい

髪の色は愛の証 〜白髪少年愛される〜

あめ
ファンタジー
髪の色がとてもカラフルな世界。 そんな世界に唯一現れた白髪の少年。 その少年とは神様に転生させられた日本人だった。 その少年が“髪の色=愛の証”とされる世界で愛を知らぬ者として、可愛がられ愛される話。 ⚠第1章の主人公は、2歳なのでめっちゃ拙い発音です。滑舌死んでます。 ⚠愛されるだけではなく、ちょっと可哀想なお話もあります。

魔法のせいだからって許せるわけがない

ユウユウ
ファンタジー
 私は魅了魔法にかけられ、婚約者を裏切って、婚約破棄を宣言してしまった。同じように魔法にかけられても婚約者を強く愛していた者は魔法に抵抗したらしい。  すべてが明るみになり、魅了がとけた私は婚約者に謝罪してやり直そうと懇願したが、彼女はけして私を許さなかった。

処理中です...