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3章 珍しいスライムさんをゲット

74話 シルバースライムさん

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柚希に突進したはずのモンスターが、謎の力で弾き飛ばされ……そのまま結晶になって数秒。

最初のボス部屋で柚希たちの配信を観ていた理央とあやは――なくなっていたはずの転移陣が出現したのに気が付いた。

「……っ! なぜかまた転移陣が……そ、そんなことより柚希先ぱ――――――い!!」
「あ、ちょ、ちょっと! また上に転送されたら! ……わ、私もっ!」

ためらいゼロで飛び込んだ理央、それに続いておっかなびっくりで飛び込んだあや。

2人は――配信で観ていた、はぐれた2人の居る部屋に転移していた。

「柚希先輩! 柚希先輩!!」
「ひなたさんも! 大丈夫ですか!?」

「え。 あ。 ……うん、だいじょうぶ……みたい?」

ひなたのことも気にしつつも、無事を確認した理央は……地面にごろんと寝ている柚希の元へ一直線。

「……ひなたさん、お怪我は?」

対するあやは、ひなたの元へ急ぐ……が。

「……えっと。 あ、今、モンスターさんが勝手に倒れて結晶化して……びっくりして力抜けて、おひざ、転んで擦りむいた……くらい……?」

【草】
【かわいい】
【ひなたちゃんかわいい】
【おめめぱちくり】
【この、なんにも分かってない顔が好き】
【分かる】

【しかしこの温度差よ】
【真っ青だった理央ちゃんとあやちゃん……そしてきょとんひなたちゃんとすやすやユズちゃん】
【草】
【ユズちゃんだけやっぱ何か違うんだよなぁ】
【まぁユズちゃんだし……】
【ま、魔力切れだし……】

【けどこの幼女、きょとんとしている】
【そらそうよ】
【だってボスのボア、なんか自爆したんだもんな】
【まぁびっくりしてるのは俺たちも同じだし】
【本当、何が起きたんだ……?】
【なんかユズちゃんがやったんだとは思うが】

地面に座り込んで、きょとんとしているひなた。
彼女の前に跪き、軽く全身を確かめるあや。

「大きなケガをした直後はアドレナリンが出て脳が認識できない」――そんな知識から、軽く腕や脚、頭や胴のケガや打撲を探す……が、ケガはほとんどなく。

「……本当、膝くらいしか……あ、今応急手当てしますね。 ちょっとしみますよ」

「えー……痛いのやだぁ……」

【優しい】
【あやママ……】
【あの母性だもんなぁ】
【俺もあやママに看病されたい】
【分かる……】

「柚希先輩……はぁー……良かったぁ……っ」

一方で――幸せそうな寝顔を浮かべながらすやすやと寝入っている柚希。

そんな彼を見ているうちに、ようやく無事が分かった理央は、彼に覆いかぶさるようにして脱力する。

【ぶわっ】
【良かった……良かった……】
【良かったね、理央ちゃん……】
【WSSされてないで……】
【草】

【そっち!?】
【今感動の場面だろ! いい加減にしろ!】
【だってこの子、最後タゲ切り替わって襲われ始めるまではひなたちゃんとロリロリしてるの見て絶叫してたし】
【あー】
【草】

「……ぐすっ……良かったぁ……」

「すー……すー……」

【理央ちゃん……】
【理央様……】

軽く調べるも、特に頭も打ったわけでもなさそうな柚希。

ついでで胸元のユニコーンも……胸に抱かれ、それはそれは幸せそうに寝入っている。

「……ばか。 心配したんですからぁ……」

【かわいい】
【かわいい】
【さすがは公開百合宣言する娘だ……】
【百合力が違うな……!】
【ああ……!】

「……けど、さっきはなんで……痛っ!」
「ごめんなさいね。 はい、あとはガーゼと包帯です」

「……そうですよね……偶然HPが尽きたってわけでも……」

理央が柚希の体を……ついでにどさくさに紛れ、「大切なもの」がユニコーンのせいでなくなったりしないないかも、しっかりとその感触を手で確認したりしながらまさぐっていたそのとき。

「ぴぎ?」

柚希の、地面と接している影になっていた部分から……どろりと蠢く、銀色の物体が鳴いた。

「っ!?」

【!?】
【何!?】
【なんぞこれ!?】

「――理央さん! シルバースライムは先手を打ってきません! そこで攻撃してしまうと寝ている柚希さんが! 落ち着いてください!」

「あっ……そ、そうだった……ありがと、あやさん……」

【あっぶえ】
【思わずで拳が出そうになってたな】
【反射で振り上げてたもんなぁ】
【意識ないユズちゃんの真横で戦闘になったらやばいし】
【けど、なんでシルバースライムがこんなところに……?】

柚希を抱き上げ、お姫様抱っこをしながら後ずさりする理央。

「ぴぎ、ぴぎっ」

「……スライムさん……着いて来てる……?」
「戦闘中、ひなたさんたちは攻撃を……」

「どうなんだろ。 ゆずきちゃんのおまんじゅうちゃんの攻撃当たったけど、魔法反射で弾かれた?みたいだし……攻撃判定じゃない……かも……?」

後ろに下がる理央を守るように、ひなたとあやが前へ。

しかし彼女たちを気にするでもなく、かと言って攻撃するでもなく。

そのシルバースライムは、ただただ彼女たちの前で液体の体をゆらゆらとしている。

【なんかかわいい】
【そうか? 怖くね?】
【スライムって目とか口とかないもんなぁ】
【基本が強烈な酸性の液体だから、本当は近づかれるとやばいんだけど……】

【でもあのスライム、ユズちゃんの下に……あっ】
【どうした】
【ユズちゃんってさ  テイマーだよな?】
【そうだけど、何で今さら  ……あっ】
【あっ】

「……ということらしいのですが」

コメント欄を、両手の塞がる理央に見せるあや。

「……私たち、ゆずきちゃんのお友達なの。 あなたも?」

「ぴぎ!」

【ひなたちゃん!?】
【ちょ、素手でスライムって】
【手のひら溶けちゃうよ!?】
【ひぇっ……あ、あれ?】

「……ひんやりしてる……けど、ちょっとあったかい……」

しゃがんで、手を差し出したひなた。

そんな彼女の手はスライムに近づき――「特に皮膚が溶けるということもなく、普通に接触した」。

「……あ、Wikiにありました……ええと、『テイマーにテイムされたスライム系統は、人間に対して……普段の移動時の接地面と同じように、見えない膜を張って……』……つまりは、触れても溶けない……そうです」

【本当だ、テイマーの配信のアーカイブとかちょっと観てきたけど、確かに手とか肩に乗ってたりするな】
【テイマーの配信なんて滅多にないから見たことないわ】
【俺も】

【けど……ダンジョン潜ってたら冷や汗もんの光景だな……】
【ああ……】
【ロリっ子がスライムを、両手ですくって持ち上げてるんだもんな……】
【この時点で大惨事……のはずだもんな、普通なら……】

「……つまり、柚希先輩。 この子を、テイムしていた……ってことですか?」
「そう……いうことなのでしょうね。 どのタイミングなのかは分かりませんけど……」

【だよなぁ】
【モンスターって普通、1回倒されてから結晶化するけど、その際にテイマーの攻撃だと確率で起き上がるんだもんなぁ】

【え? けど、ユズちゃんの話だと、そもそもユニコーンちゃんも違うんじゃ?】

【あ】
【あっ】
【そういや……倒して……ない……?】
【えぇ……】
【なぁにそれぇ……?】

【そうだった……ユズちゃん、確かユニコーンのこと、「助けただけ」って……】
【そんなのあるぅ……?】
【あるにはあるらしいな】
【あーマジだ】
【うわほんとだ】
【テイマーなんてレア過ぎて知らないことばっかだな】

「すぅ……すぅ……」

3人の少女と、コメント欄が「?」で埋め尽くされている空間。

その中心で……実に幸せそうな夢を見ているらしい柚希と、抱かれているユニコーン。

「ぴぎっ!」
「ひゃあっ、ほっぺたひんやりするー」

【あっ(尊死】
【あっ(昇天】
【こわいよー】
【モンスターに攻撃されたことあるヤツなら冷や汗出る光景が……】
【でも見ろよ  ほほえましい光景になってるぞ?】

「……あ、宝箱……かなりレアなのが……」

「あ、ほんとだ! ひなた、取ってくる!」
「念のために私も行きますね」

警戒する理央が振りかえるも、転移陣はしっかりと残っており――表示してあるリストバンドも「転送しますか?」の表示が出たまま。

「……なんで、さっきはできなかったんだろ……」

ぽつり。

そんな疑問が発せられたが――誰にも分からなかった。





『……異界の人族の言語を解析……ふぅん、なるほど……』

そんな彼女たちを、部屋の隅から眺める存在が居た。

その存在は、柚希たちが「ダンジョンの、正規のボスフロアに」侵入してきたのを見出した存在。

その存在は、柚希たちの入ろうとしていた転移陣に『別のダンジョンのフロアへの細工』をした存在。

「実に、美味しそうな魔力と――処女の血が、いただけそうですね? テイマーの……ユニコーンが先約を取っている、可憐な君は」

その存在は――神話で言うところの――――――。
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