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2章 ダンジョン配信、始めます

52話 おまんじゅうの活躍で倍になった報酬

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「お金怖いお金怖いお金怖い……」

【草】
【ユズちゃんが怯えている】
【さっき一瞬だけちょっとかっこ良かったのに】
【ま、まあ、確かにバイト代だとしても何ヶ月分だろ?】
【ユズちゃんの分が十数万だし……それを1時間だもんな】

【ダンジョンと無縁の生活してたところにこれはなぁ……】
【金銭感覚崩れるぅ】
【だから1回でも潜った奴は、もう真人間には戻れないんだよ……】
【ダンジョンって怖い】
【怖いぞ? 取り憑かれるからな……いろいろと】

理央ちゃんにみんなの倍くらい――案内役にキャリー役、そしてモンハウでばっさばっさしてもらった分で、これでも少ないけども――あげて、それでも僕たちはかなりの大金を手にした。

……これ、僕がバイト掛け持ちしてようやく1ヶ月で稼ぐお金ぇ……しかも手取りじゃなく、額面の……。

【お目々ぐるぐるユズちゃんかわいい】
【かわいい】
【覚えておけ  多分ユズちゃんでも今だけの表情だぞ】
【あとで配信続いててアーカイブと切り抜き残ってるって知って涙目になりますねぇ】
【永久保存版だな!】

「……ってことで良いかな?」

「うん!」
「もちろんです」

後ろでみんなが話してるのも耳に入らない。
僕の仲間はおまんじゅうだけだ。

抱きしめた温かさと柔らかさに、ちょっとだけ安心。

「きゅい?」
「ごめんねおまんじゅう……僕、怖がりで……」
「きゅいっ」

【かわいい】
【かわいい】
【他の子の話が聞こえてないのも含めてかわいい】

「柚希先輩!」
「……ん、ごめん。 なぁに?」

みんなから後ろ向いてたけど、どう見ても怖がっておまんじゅう抱きしめてるのがバレバレ。

僕はなるべく普段通りを装いながら振り向いた……けども。

「転送しましたから見といてください。 みんなの合意です」
「転送? …………!?」

ダンジョンでの換金は、1度リストバンドに登録した口座にお金が振り込まれて、そのあとに自分で動かす仕組みらしい。

……だから、そこにはさっき見た20万円に足らない金額があるはずなんだけど……倍くらいに増えてる。

「???」

え?

なんで?

さっきまでみんなで報酬どうやって分配するかって話になってて、だから1番活躍した光宮さんに多めにってことになって、しばらく話して、「だったら光宮さんはみんなの倍ね」ってことになって。

なった、はずなのに。

「――柚希先輩のおまんじゅうちゃん。 その子が居なければ、あの最後の数体は私でも厳しかったんです。 吹き飛ばしながら1体ずつ、低確率での怒り状態にならないようにするか、それともダンジョン内を走って撒いてからゲートに戻るか……リストバンド使うか。 ものすごく悩んでいたんです」

「ええ、何でも、私たちを先にゲートに送り届けながら、それでいて怒らせないように軽く吹き飛ばしをし続けないといけなかったそうで……とても大変な判断だったそうです」

「そうなんだって! ゆずきちゃん!」

【あー】
【さっきの理屈ならそうなるな】
【やだ、この子たち真面目】
【真面目って言うか欲がないんだろうな】
【4人とも遊んでるような子には見えないしな】

【多分まだ学校の部活とか課外授業な感覚なんだろうし】
【青春って良いな……】
【ああ……】

【これが続けて1ヶ月もしてくると、段々とお金にシビアになるわ金遣いが荒くなるわで、大体みんなパーティー数回解散してからそれなりのポジションに着くんだぜ……】

【悲しい】
【大人になるって悲しいのね】

……そっか。

さっき僕たちが彼女を納得させた論理で行くと、そうなっちゃうか。

「………………………………」

光宮さんは、どやって顔してる。
君、分かっててやったね?

……けども……受け取れる優しさだから受け取っとこ。

僕のために無理してとか変な同情でくれたわけじゃない。
正当な報酬。

そう、分かっちゃうから。

「……ん。 じゃあ帰り道に、おまんじゅうに……高級野菜とか食べさせてあげるよ。 ね?」
「きゅい!」

【高級野菜て】
【草】
【ユズちゃん……】
【そこはもっとお高いお肉とかさぁ……】

【ま、まぁ、こういうところがユズちゃんの良いところだから……】
【おまんじゅうちゃんも喜んでるみたいだし……】
【しょせんはモンスター、しょせんは馬よ……安いもんだ】

「で、残りは柚希先輩のお母さんのお薬代とかに。 それなら良いですよね? 先輩? 元からそのつもりで潜ってるんですし」
「うん。 ありがと」

ちょっと恥ずかしいけども、これはさっき光宮さんが感じてた恥ずかしさ。

「それを男の僕が受け止められなくてどうする!」ってひと踏ん張りして……顔は熱いけど、なるべく冷静に。

「? お薬? ゆずきちゃんのお母さん?」

「あ……えっとね、柚希先輩は……」
「……良いよ、理央ちゃん。 パーティー組むなら、そのうち話すことになるし」

そうして僕は、あんまりしたくはないけども「冒険する仲間」になった2人に、僕の家のことを話した。

お母さんが、病気がちなこと。

その病気はいわゆる「国の指定難病にはなってないけど普通には治せない難病」で、同じように苦しんでる人たちがたくさん居て、一応お薬でなんとかなること。

でも、そのお薬は普通のお薬じゃなくって、数少ないお薬屋さんに調合してもらうものだから保険適用がなくって、高くって。

数年前までは働いてたお母さんの貯金でやってきたけど、去年辺りで怪しくなって来たこと。

だから代わりに僕がバイトで稼いでること。
掛け持ちしてどうにかなってるってこと。

もっと稼げたらもっと良いお薬にしてもらえて、もっと良くなるかもってこと。

「……ぇ……」
「……その……」

「ごめんなさい。 この話すると気まずくなるから、小さい頃からの友達にしか言ってないんです。 でも気にしないでください」

【ユズちゃん……】
【悲報・ユズちゃん、貧乏だった】
【朗報・ユズちゃん、お母さんっ子だった】
【父親はどうした?】
【おい、言ってないってことは……察しろ】
【すまん】

【え、けど……バイトしてるって……】
【あっ】
【え?】
【もしかして:ユズちゃん、本当に高校生】
【で、でも、ほら、飛び級して名目上高校生ならバイトできるし……】
【お前らユズちゃんのこと信じて……ムリだな】
【草】
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