上 下
4 / 311
1章 僕が女装して配信することになったきっかけ

4話 命名 白くて小さくて丸っこいから……おまんじゅう

しおりを挟む
「ただいまー! お母さん、この子なんだけど……お母さんが起きてる!?」

「あらお帰り、ゆず。 また断れなくて長時間のアルバイト……体に悪いわよ」

あれからずっと抱きしめたり顔をよく見てみたり、短いながらもふわふわしてて気持ちいい毛に顔をうずめたり香ばしい匂いを嗅いでるうちに、あっという間についた僕の家。

この子、子猫とか子犬みたいな良い匂いで嬉しかったけど、それを忘れるくらいの衝撃に僕はびっくりした。

築何十年の古い日本家屋……まぁこの辺のスタンダードな家だから、庭も含めて無駄に広いだけだから掃除が大変なんだけどね。

そんな家にこの子を連れて帰ってから「そう言えばトイレとかどうすれば?」とか「どんな飼い方すれば良いんだろう」とか思いついたけど……その前に「自分から廊下に顔を出したお母さん」にびっくりした。

「寝てなくていいの!? だって普段なら」
「ええ。 さっき起きてから、なんだか体が楽なの」

僕のお母さん。

お父さんに逃げられてからはずっとひとりで僕を育ててくれた――せいで、病気に罹ってから体が悪くなっちゃったお母さん。

10年くらい前の、ダンジョンが出現したときの襲撃のせいで、おじいちゃんとかおばあちゃんとかは居なくなっちゃった。

だから、僕の家族はお母さんだけ。

そのお母さんが、ベッドから起きるどころか……ドアの開く音に反応してこんなに早く、普通に起きてきてる。

「あら、懐かしいわねぇ。 ゆずがそうやってお人形さん抱っこして帰って来るのって」
「そうだっけ?」

「ええ。 小学校の初めのころまで、抱っこしていないと泣いちゃうからって先生にも許可もらったもの。 懐かしいわー」
「……そんな女の子みたいなことしてたんだ……」

覚えてないなぁ……そうだっけ。

「きゅい」
「あ、そうだお母さん! この子飼って良い?」

「あらあら、お人形さんじゃなかったのねぇ」
「うん、モンスター! ……あ」

そこまで言って「しまった」って血の気が引く。

――お母さんは、おばあちゃんたち……お母さんのお母さんとお父さんを、モンスターたちに……。

「あらあらー。 お人形さんみたいだけど」
「きゅいー?」
「ふふっ、かわいい」

と思ったけど珍しく元気に……壁に手をつくこともなく、杖を使うことも無く歩いてきたお母さんは、僕の抱っこしてるモンスターをしげしげと見てる。

「……平気なの?」

「ええ、だってゆずが食べられてないもの」
「……そっか」
「ええ」

さらっと言われる「モンスターに食べられる」っていうの。

……お母さん、病気してから大抵のことじゃ驚かなくなってるもんなぁ……。

「それで?」
「え?」
「なんてお名前?」
「いや、まだつけてないけど……」

そういやそうだった。

僕は抱っこし続けてちょっとしっとりしてる……漏らしてないよね……おまんじゅうみたいなモンスターを目の前に持ち上げる。

すっごく軽くてふわふわ。

「きゅい」

白いうぶ毛に白い地肌、蒼い目、短い尻尾。

「……ねぇお母さん、これ、なんの動物に近いと思う?」

「そうねぇ……やっぱりモンスターさんだから、かわいいけど……まだどの動物にも似てはいないわねぇ……犬、猫、兎……そうだって言われたらそうだって思えそう……」

「そうだよねぇ。 だから名前もどうしよっかなって」

もふもふしてるうちに無心になるまではネーミング、いろいろ考えてたんだけどなぁ。

「犬だったらポチとか?」
「!?」
「猫さんならタマとか?」
「!?」

「色で言うんだったら……だいふくとか?」
「!?」
「だいふくもち?」
「あらおいしそう」
「!?」

「そうねぇ、白いし……あんこもち、きなこもち、おだんご、わたがし……」
「わたあめ……マフィン……レアチーズケーキ……お腹が空いたわねぇ……」

「!?!?!?」

お母さんと2人、真剣に考えてみる。

「……あ、お母さん、吹きこぼれてる!」
「あらあら、そう言えばそうだったわぁ」

って言うか、お母さん……台所立ってたんだ。
そんなの、月に何回かなのに。

「……きゅい……」

立ち話をしてさすがに疲れたらしく、壁に体重を預けながら歩いて行くお母さん。

「こんなに元気なお母さん、久しぶりに見たな……」
「きゅい……」

お母さんを見送った僕は、腕の中で……なんかぺちゃんこになってるのを見た。

あれ?

なんかこの子、疲れてる?

気のせいかな。





「きゅいっ」

ぽりぽりぽりぽり。

「あら、にんじん。 生だけど良いの?」
「きゅい!」
「良いみたいだね。 そっか、生野菜が好きなのかぁ」

ぽりぽりぽりぽりしゃくしゃくしゃくしゃく。
耳に嬉しい音が響く。

さっきの親切な同級生……プラスマイナス1歳の同性……たちに教えてもらった通りに冷蔵庫の中のものを並べたら、真っ先に食いついたのがにんじんだった。

もちろん細長くカットしたやつ。

「にんじん……そうねぇ、うさぎさんと言えばそう見えなくもない……かしら? 真っ白だし」
「にんじんかぁ……小さい動物は大体好きだよね。 草食系の何かに近いのかな」

「お野菜が好きなら良いわね。 ご近所からよくもらえるから」
「もうちょっと庭が広ければ、本格的に庭で採れそうなのにねぇ……」
「ゆずも忙しいし、私も水やりすらできないもの……しょうがないわ」

ぽりぽりぽりぽりと、器用に両手を使って食べてるおまんじゅう。

……手先、肉球とかもなくって本当に1本だったんだけどどうやってるんだろ……まぁいいや、モンスターだからなんか器用なんだろうってことで。

「……もうおまんじゅうで良いかなぁ……」

「あら、もっとおいしそうな名前じゃなくて良いの? レアでも柔らかそうよ?」
「きゅいっ!?」

「うん、それも良いんだけど……あれ? どうしたのおまんじゅう、にんじん落としちゃって……もうお腹いっぱい?」
「……きゅい……」

と思ったらもっかい食べ始めたから、多分むせたか何かなんだろう。
昔飼ってた猫とかも食べてる途中に慌ててそうなってたし。

「おまんじゅうちゃん……かわいいわね!」
「うん! もちもちしてておいしそうな感じだよね!」

「きゅい……」

僕とおんなじセンスなお母さんは、こういうときに話がよく合うんだ。
まだ元気なころはお買い物とか行っても、食べるお店とかでケンカしたこともなかったし。

久しぶりのお母さんの料理を味わう僕たち。

でも先に食べ始めちゃったおまんじゅうは、にんじん1本分を食べてお腹がいっぱいになったのか……なんだか疲れた目をして僕たちを見ていた。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

俺だけ展開できる聖域《ワークショップ》~ガチャで手に入れたスキルで美少女達を救う配信がバズってしまい、追放した奴らへざまあして人生大逆転~

椿紅颯
ファンタジー
鍛誠 一心(たんせい いっしん)は、生ける伝説に憧憬の念を抱く駆け出しの鍛冶師である。 探索者となり、同時期に新米探索者になったメンバーとパーティを組んで2カ月が経過したそんなある日、追放宣言を言い放たれてしまった。 このことからショックを受けてしまうも、生活するために受付嬢の幼馴染に相談すると「自らの価値を高めるためにはスキルガチャを回してみるのはどうか」、という提案を受け、更にはそのスキルが希少性のあるものであれば"配信者"として活動するのもいいのではと助言をされた。 自身の戦闘力が低いことからパーティを追放されてしまったことから、一か八かで全て実行に移す。 ガチャを回した結果、【聖域】という性能はそこそこであったが見た目は派手な方のスキルを手に入れる。 しかし、スキルの使い方は自分で模索するしかなかった。 その後、試行錯誤している時にダンジョンで少女達を助けることになるのだが……その少女達は、まさかの配信者であり芸能人であることを後々から知ることに。 まだまだ驚愕的な事実があり、なんとその少女達は自身の配信チャンネルで配信をしていた! そして、その美少女達とパーティを組むことにも! パーティを追放され、戦闘力もほとんどない鍛冶師がひょんなことから有名になり、間接的に元パーティメンバーをざまあしつつ躍進を繰り広げていく! 泥臭く努力もしつつ、実はチート級なスキルを是非ご覧ください!

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

【悲報】人気ゲーム配信者、身に覚えのない大炎上で引退。~新たに探索者となり、ダンジョン配信して最速で成り上がります~

椿紅颯
ファンタジー
目標である登録者3万人の夢を叶えた葭谷和昌こと活動名【カズマ】。 しかし次の日、身に覚えのない大炎上を経験してしまい、SNSと活動アカウントが大量の通報の後に削除されてしまう。 タイミング良くアルバイトもやめてしまい、完全に収入が途絶えてしまったことから探索者になることを決める。 数日間が経過し、とある都市伝説を友人から聞いて実践することに。 すると、聞いていた内容とは異なるものの、レアドロップ&レアスキルを手に入れてしまう! 手に入れたものを活かすため、一度は去った配信業界へと戻ることを決める。 そんな矢先、ダンジョンで狩りをしていると少女達の危機的状況を助け、しかも一部始終が配信されていてバズってしまう。 無名にまで落ちてしまったが、一躍時の人となり、その少女らとパーティを組むことになった。 和昌は次々と偉業を成し遂げ、底辺から最速で成り上がっていく。

かつてダンジョン配信者として成功することを夢見たダンジョン配信者マネージャー、S級ダンジョンで休暇中に人気配信者に凸られた結果バズる

竜頭蛇
ファンタジー
伊藤淳は都内の某所にあるダンジョン配信者事務所のマネージャーをしており、かつて人気配信者を目指していた時の憧憬を抱えつつも、忙しない日々を送っていた。 ある時、ワーカーホリックになりかねていた淳を心配した社長から休暇を取らせられることになり、特に休日に何もすることがなく、暇になった淳は半年先にあるS級ダンジョン『破滅の扉』の配信プロジェクトの下見をすることで時間を潰すことにする. モンスターの攻撃を利用していたウォータースライダーを息抜きで満喫していると、日本発のS級ダンジョン配信という箔に目が眩んだ事務所のNO.1配信者最上ヒカリとそのマネージャーの大口大火と鉢合わせする. その配信で姿を晒すことになった淳は、さまざまな実力者から一目を置かれる様になり、世界に名を轟かす配信者となる.

ダンジョンで有名モデルを助けたら公式配信に映っていたようでバズってしまいました。

夜兎ましろ
ファンタジー
 高校を卒業したばかりの少年――夜見ユウは今まで鍛えてきた自分がダンジョンでも通用するのかを知るために、はじめてのダンジョンへと向かう。もし、上手くいけば冒険者にもなれるかもしれないと考えたからだ。  ダンジョンに足を踏み入れたユウはとある女性が魔物に襲われそうになっているところに遭遇し、魔法などを使って女性を助けたのだが、偶然にもその瞬間がダンジョンの公式配信に映ってしまっており、ユウはバズってしまうことになる。  バズってしまったならしょうがないと思い、ユウは配信活動をはじめることにするのだが、何故か助けた女性と共に配信を始めることになるのだった。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...