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46.X11話 さよと本と感傷と その2-1
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「あ……その。 外で声をかけたら迷惑……」
「……ううん、そんなことはないよ」
フリーズしてた僕のことを勘違いしたのか慌て出すさよ。
うん。
この子以外でこういう反応してくれる子って居ないからなんか斬新。
「あの……その、そちらの本は買いたかったものなので……あ、私がです……けれど、おこづかいとの兼ね合いで……本棚に戻したもの……なので」
気をつけないと聞き逃しちゃうくらい小さい声も、ちゃんと離れてくれているのも安心できて幸せ。
ただ僕とこうして1対1で話すのはあんまりないからか、なんかもじもじしてるのを見るのもまた安心できる。
「とても興味深い内容、でしたけど……その、お値段が。 私には、その、金額が……良いなぁ……」
ひっくり返して裏表紙を見る。
お値段、2千数百円。
確かに2千円を超える本っていうのは中高生には厳しいもの。
普通の本でも1500円を超えるとなんか一瞬手が止まるよね。
しかも彼女は鞄にぎっちり入るくらい買ってるから……1冊千円だとしても1万円は行っているはずだもん。
それだけでも、さよにとってはかなりの奮発っていうものだったんだろう。
けど電子でもなくわざわざ紙でそのくらい買うって相当に好きなんだね。
「……あっ、あのっ! ……あぅ」
普段あんまり会話をしない、声を出さないからちょっとでも勢いが出るとおっきい声になっちゃうの、僕たちみたいな人間あるある。
「……もし……もし響さんがよろしければ……響さんのお買い物が終わったあとで……その、時間もいいですし、お、お昼、一緒に食べたりしながら……あの、いえ、でもやっぱり……」
……やっぱりこそこそするのは僕には合わなかったみたい。
僕は嘘をつくのが致命的にダメなんだ。
そもそもいろいろあって、いや、なくたって元から嫌いっていうのと、これまでもこれからもさんざんにイヤな気持ちになって、なり続けているっていうのと。
あとはそれを取り繕うとしようとするとさらなる嘘で塗り固めないといけないっていうのも……この1年で改めて分かったし。
別に今の、こっそりストーキングしてたのは……む、なんか事案な言い回しだけど今の肉体的性別は同性だからセーフだよね。
つまりこんなことしないで、この子みたいに話しかけてたら楽だったんだろうなって。
なんかゆりかみたいな悪戯心を覚えちゃったばっかりに微妙に大変だったもん。
◇
結局。
さよに話しかけられるままに、隠してもしょうがないしってことで。
僕が積んでおいた本を戻されたことを白状……自白……誘導……話す流れになって、それを探して回って、そのあいだ選んだそれを持ってもらっちゃっていて、それで本を買って。
あんまりうるさくないところをふたりでうろうろと探していて、僕たちがいても居心地が悪くなさそうなところに入って……お昼のメニューを広げて見ていた。
その流れがかがりと違って自然で、ゆりかやりさみたいにたくさん話しかけられるのかーって思わなくて、なんにも考えなかった学生時代みたいにお店を選んで入っていた。
なんにも考えずにお互いになんとなくで話をしたり黙ったりしながら、ゆっくりとうろうろとして。
……ちょっと懐かしい。
「……それにしても偶然、ですね。 最近はみなさん……試験の勉強で忙しくて、あの、なので……学校でしか、会わないので。 響さんとも、何日も顔を合わせて……いないので、お久しぶり、に、なりますね」
「うん、さよも元気そうでなりよりだよ」
「はい、私も特に倒れることなく……大過なく、です。 お互いに良い傾向、ですね」
「そうだね、試験で無理しないようにね……けど君たちは今、試験期間中だよね? こうして出歩いていても平気なの? ……あ、体のこともあるけども、勉強のこととかも」
試験期間。
解放されて長いけれど、悪い夢を見るときには直前なのに勉強していないだとか、点数が悪くて死んだはずの母さんに叱られている場面だとか……そういう何かとイヤな理由で僕の記憶の奥底からたびたび引っ張り出されてくる存在。
それに、この子たちはあと数年は苦しめられることになる。
僕と同じように、学生の……数年分かけることの数回分っていうその存在が。
さらに言えば受験とか。
嫌なことは過ぎれば忘れるってことで普段はこの通りに完璧に忘れてるけど、この子たちにとってはいつものこと。
「……勉強の方、は……試験期間に入る前に終えているので……あ、あとは復習だけ、なんです。 私、無理をすると体調を崩して試験に出られない……ことが、あったりもしたので、平均点を取れば良いって、お母さんたちも」
「試験期間前に……さすがだね、さよは」
「いっ、いえっ!」
すごいね。
僕の現役の頃だってひーひー言ってた気がするのに。
けどクラスでも女子は全体的にそつなくしてた印象だし、やっぱりその辺も男女で変わるのかな。
あ、でもかがりとか居るし関係ないか。
うん、関係ない。
だからきっと学校では……かがりに、相変わらずここまで違って本当にどうして仲がいいのかっていうのが想像もできない、あのくるんくるんかがりに、学校でも放課後でも休日でも「勉強教えて」とか「試験範囲教えて」とか「プリント送って」とか言われてるんだろうね。
友だちなんて理屈でなるもんじゃないっていうのは、この子たちに友だちと思ってもらって思い出したものなんだけど……不思議なものは不思議。
でも、元から仲が良い友達なんだったら……勉強に対する姿勢だけでいいから、意識だけでいいから……自力で勉強できるようになれだなんて無茶なことは言わないから、せめてこの子を見習って欲しいところ。
本当にそういう意識だけ……1ミリでもいいから。
切に願う。
ほら、手のかかる子はかわいいって言うし。
……けども、どうしたって土壇場にならないとやる気が出ないってしか思えない僕が居る。
「……の。 あ、あの、響、さん……?」
見上げると、さよが髪の毛のあいだから僕を見つめて来ていた。
「ん……ごめん、少し考えごとを。 いつもの悪い癖だね」
「いえ、気にされなく、ても……私もよく、おはなしとかについていけなくて……なので」
さよもきっと、僕みたいに頭の中だけになって、外のことがなんにも入って来なくなるっていうのが多いんだろうな。
もちろん考えごととかで。
かがりのように妄想でもなく、ゆりかのようにテンションに支配されるわけでもなく。
りさは……そういうことがない気がする。
ああいうのを……リア充っていうんだっけ。
ギャル?
いや、今どきは陽キャって言うんだっけ?
こういうちょっとした言葉で世代が分かっちゃうよね。
「……………………」
「……………………」
会話してるはずなのにお互いに黙ってる時間の方が長い僕たち。
静寂。
こういう時間、女の子と一緒に居て存在するだなんて思わなかったけど、いざなってみると結構気が楽。
女の子がみんなこうだったら男も自然体で過ごせるのにね。
みんな、どうしていつもあれだけ口がくるくるくるくる回るんだろうね。
こうして頭の中でぐるぐる考えるのと話すのは、体力の浪費具合が全然違うのにね。
……さよっていう生粋の女子とか僕みたいな偽物だけど肉体的には女の子でも、口が重いってのはやっぱり性格……なんだろうなぁ。
「……ううん、そんなことはないよ」
フリーズしてた僕のことを勘違いしたのか慌て出すさよ。
うん。
この子以外でこういう反応してくれる子って居ないからなんか斬新。
「あの……その、そちらの本は買いたかったものなので……あ、私がです……けれど、おこづかいとの兼ね合いで……本棚に戻したもの……なので」
気をつけないと聞き逃しちゃうくらい小さい声も、ちゃんと離れてくれているのも安心できて幸せ。
ただ僕とこうして1対1で話すのはあんまりないからか、なんかもじもじしてるのを見るのもまた安心できる。
「とても興味深い内容、でしたけど……その、お値段が。 私には、その、金額が……良いなぁ……」
ひっくり返して裏表紙を見る。
お値段、2千数百円。
確かに2千円を超える本っていうのは中高生には厳しいもの。
普通の本でも1500円を超えるとなんか一瞬手が止まるよね。
しかも彼女は鞄にぎっちり入るくらい買ってるから……1冊千円だとしても1万円は行っているはずだもん。
それだけでも、さよにとってはかなりの奮発っていうものだったんだろう。
けど電子でもなくわざわざ紙でそのくらい買うって相当に好きなんだね。
「……あっ、あのっ! ……あぅ」
普段あんまり会話をしない、声を出さないからちょっとでも勢いが出るとおっきい声になっちゃうの、僕たちみたいな人間あるある。
「……もし……もし響さんがよろしければ……響さんのお買い物が終わったあとで……その、時間もいいですし、お、お昼、一緒に食べたりしながら……あの、いえ、でもやっぱり……」
……やっぱりこそこそするのは僕には合わなかったみたい。
僕は嘘をつくのが致命的にダメなんだ。
そもそもいろいろあって、いや、なくたって元から嫌いっていうのと、これまでもこれからもさんざんにイヤな気持ちになって、なり続けているっていうのと。
あとはそれを取り繕うとしようとするとさらなる嘘で塗り固めないといけないっていうのも……この1年で改めて分かったし。
別に今の、こっそりストーキングしてたのは……む、なんか事案な言い回しだけど今の肉体的性別は同性だからセーフだよね。
つまりこんなことしないで、この子みたいに話しかけてたら楽だったんだろうなって。
なんかゆりかみたいな悪戯心を覚えちゃったばっかりに微妙に大変だったもん。
◇
結局。
さよに話しかけられるままに、隠してもしょうがないしってことで。
僕が積んでおいた本を戻されたことを白状……自白……誘導……話す流れになって、それを探して回って、そのあいだ選んだそれを持ってもらっちゃっていて、それで本を買って。
あんまりうるさくないところをふたりでうろうろと探していて、僕たちがいても居心地が悪くなさそうなところに入って……お昼のメニューを広げて見ていた。
その流れがかがりと違って自然で、ゆりかやりさみたいにたくさん話しかけられるのかーって思わなくて、なんにも考えなかった学生時代みたいにお店を選んで入っていた。
なんにも考えずにお互いになんとなくで話をしたり黙ったりしながら、ゆっくりとうろうろとして。
……ちょっと懐かしい。
「……それにしても偶然、ですね。 最近はみなさん……試験の勉強で忙しくて、あの、なので……学校でしか、会わないので。 響さんとも、何日も顔を合わせて……いないので、お久しぶり、に、なりますね」
「うん、さよも元気そうでなりよりだよ」
「はい、私も特に倒れることなく……大過なく、です。 お互いに良い傾向、ですね」
「そうだね、試験で無理しないようにね……けど君たちは今、試験期間中だよね? こうして出歩いていても平気なの? ……あ、体のこともあるけども、勉強のこととかも」
試験期間。
解放されて長いけれど、悪い夢を見るときには直前なのに勉強していないだとか、点数が悪くて死んだはずの母さんに叱られている場面だとか……そういう何かとイヤな理由で僕の記憶の奥底からたびたび引っ張り出されてくる存在。
それに、この子たちはあと数年は苦しめられることになる。
僕と同じように、学生の……数年分かけることの数回分っていうその存在が。
さらに言えば受験とか。
嫌なことは過ぎれば忘れるってことで普段はこの通りに完璧に忘れてるけど、この子たちにとってはいつものこと。
「……勉強の方、は……試験期間に入る前に終えているので……あ、あとは復習だけ、なんです。 私、無理をすると体調を崩して試験に出られない……ことが、あったりもしたので、平均点を取れば良いって、お母さんたちも」
「試験期間前に……さすがだね、さよは」
「いっ、いえっ!」
すごいね。
僕の現役の頃だってひーひー言ってた気がするのに。
けどクラスでも女子は全体的にそつなくしてた印象だし、やっぱりその辺も男女で変わるのかな。
あ、でもかがりとか居るし関係ないか。
うん、関係ない。
だからきっと学校では……かがりに、相変わらずここまで違って本当にどうして仲がいいのかっていうのが想像もできない、あのくるんくるんかがりに、学校でも放課後でも休日でも「勉強教えて」とか「試験範囲教えて」とか「プリント送って」とか言われてるんだろうね。
友だちなんて理屈でなるもんじゃないっていうのは、この子たちに友だちと思ってもらって思い出したものなんだけど……不思議なものは不思議。
でも、元から仲が良い友達なんだったら……勉強に対する姿勢だけでいいから、意識だけでいいから……自力で勉強できるようになれだなんて無茶なことは言わないから、せめてこの子を見習って欲しいところ。
本当にそういう意識だけ……1ミリでもいいから。
切に願う。
ほら、手のかかる子はかわいいって言うし。
……けども、どうしたって土壇場にならないとやる気が出ないってしか思えない僕が居る。
「……の。 あ、あの、響、さん……?」
見上げると、さよが髪の毛のあいだから僕を見つめて来ていた。
「ん……ごめん、少し考えごとを。 いつもの悪い癖だね」
「いえ、気にされなく、ても……私もよく、おはなしとかについていけなくて……なので」
さよもきっと、僕みたいに頭の中だけになって、外のことがなんにも入って来なくなるっていうのが多いんだろうな。
もちろん考えごととかで。
かがりのように妄想でもなく、ゆりかのようにテンションに支配されるわけでもなく。
りさは……そういうことがない気がする。
ああいうのを……リア充っていうんだっけ。
ギャル?
いや、今どきは陽キャって言うんだっけ?
こういうちょっとした言葉で世代が分かっちゃうよね。
「……………………」
「……………………」
会話してるはずなのにお互いに黙ってる時間の方が長い僕たち。
静寂。
こういう時間、女の子と一緒に居て存在するだなんて思わなかったけど、いざなってみると結構気が楽。
女の子がみんなこうだったら男も自然体で過ごせるのにね。
みんな、どうしていつもあれだけ口がくるくるくるくる回るんだろうね。
こうして頭の中でぐるぐる考えるのと話すのは、体力の浪費具合が全然違うのにね。
……さよっていう生粋の女子とか僕みたいな偽物だけど肉体的には女の子でも、口が重いってのはやっぱり性格……なんだろうなぁ。
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