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45話 彼女からの、告白 2 7/7

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「ふふんっ、どうかしら!」

ふんっと鼻息荒く僕の反応をくるんくるんしながら待っているかがり。
そして顔を覆ってふさぎ込んでいる感じのゆりか。

控えめに言って大惨事だってのは僕にだって分かる。

かがりが「早く早く!」って僕の返事を待ってるらしいけど、じーっと見つめられるのは困るからちょっとだけ下のほうを見て……あ、陽の光が移動している。

そこそこ時間、経っていたんだなぁ。

……思ってもみなかった。

ゆりかのそれにももちろんかなりびっくりさせられたんだけど、完全にあり得ないって思ってたかがりからまで告白されるだなんてね……どうしよ。

こんなにもちゃんと話せてたんだし……ただの思いつきとかってあしらっちゃうのはさすがにひどい。

かがりのことは、今までずっと……ゆりかたちみたいに年相応にしっかりした子たちとは違ってちょっと危ないところのある子って……主に自分で自分をコントロールできないフシが多々見受けられて、なのにどうやら親御さんもそれをたしなめるどころか溺愛しているフシがあるっていう子で。

精神年齢だって気づかいとかの面で、あと勉強とかを戦略的にこなせるゆりかっていうちょっと高めの子と足して2で割ったらいい感じになりそうだって。

体つきとか身長とかもそうなんだけど、でもそんな感じの子だって……今まではずっと、こうして話されるまでは思っていたんだ。

だけどそんな彼女も彼女なりに考えていて、ゆりかのを見て聞いて僕のことを……そう思っているんだってはっきりと自覚しているのは真実なんだろう。

子供の成長は早いね。
ほんのきっかけですぐに、こうして変わるんだ。

僕みたいに成長期がおしまいになって……たとえ30になったって40になったっておじいさんになったってそんなには変わらないだろう僕とは違って、この子たちは成長期なんだ。

どう返事したものかと考えていたら、ゆりかがびくっと起き上がって僕も少しだけびくっとなる。

「ぬーん、やぶへび。 へびをつっついちゃったよぅ、かがりんの心をさ、最後のひと突きをさぁ……よりにもよって私が、恋敵ってのを作り上げちゃったよぉ……どうしよ」

君には本当に同情するよ……僕相手であってもライバルを自分ででなんてね。

「マジかぁ……マジなのかぁ!! んもー、ヘンな雰囲気になって告るの土壇場でてきとーに流しちゃったり、そーゆーのがイヤだったってのもあるしチキンった可能性があるからって……なによりさ、どーせ、どーせさ? 『いつかはかがりんにロックオンされて聞かれて私自身の口から今のを再現させられるよりかはマシかな』なんて思ったのがまさかの失敗だったとは……あ、よく考えたら今みたいにかなーり再現度高い感じでみんなにも広められちゃうのかちくせう! なんてこった!」

気がついたらさっきまでみたいにじーっと見てくるのを止めていて、話し終わって満足したからかぽわぽわしているかがりに向かって席を立ち、じりじりと近づいていくゆりか。

「ま、どーせ初恋ってのは初恋のままで甘酸っぱく終わるって相場が決まってるんだし、しゃーないかぁ。 でも策士であると評判のこの私がしてやられるとはね。 裏目だよ裏目」

ゆりかに気がついたのかどうかはわからないけど、かがりがぽわぽわから戻って来て……表情がなんだか優しい感じになっていて。

「ふぅ。 それで響ちゃん」

え?

あ、答えだよね……一応告白なんだし。

でもどうしよ、ゆりか以上に答えにくい。
ゆりかに対してはなんだかすらすらと答えられたけど、かがりの今の告白に対してはどう答えたらいいかまだ思いついていないんだ。

一応はきちんとした女の子と見ていた……まぁ言動は子供っぽいところが多分にあるけど、それでも精神年齢的に女の子だって僕の無意識が感じていたゆりかと。

着替えさせてくるのと言い連れ回されるのと言い、僕ががんばらないと集中してくれない勉強や興味ない本の読書と言い話し出したら止まらないのと言い……手のかかる生徒って感じだったかがりがいきなりだもん。

本当になんて応えたらいいのか思いつかない。

「これで、ふたり。 ね?」

「?」

「ふたりの女の子……ゆりかちゃんに続いて私もね? ……下条かがりという女の子まで響ちゃんのことが大好きで、男の子として見ていて。 響ちゃんが無事に元気になってお外を自由に、なんの心配もなく出歩けるようになって。 そして『できるならこちらに帰ってきてほしいなぁ』……そう思っている女の子がふたり、できてしまったわね?」

え。

……この子、まさかそのために……?

「くすっ、響ちゃん、学校に行けるようになったらそのかわいらしい見た目で『お姫さま』って呼ばれても、しばらくしたらきっとやっぱり『王子さま』って呼ばれてしまいそうね。 だって、こうして私たちの言葉を受けてもそうやっていつもの通りなんだもの。 高嶺の花ね?」

いや、高嶺の花……の男バージョンはなんて言うんだろ。

「だからね、響ちゃん。 例えあなたが海の向こうに行ってしまったとしても、遠く離れてしまっても、ここからこうしてあなたが元気になれることを心待ちにしている女の子……いえ、乙女がふたりもいるのだということを覚えておいてくれるかしら? いえ、乙女ならあとふたりもいるのだから4人の女の子が、ね。 響ちゃん、モテモテね? これで元気になれたら、さよちゃんに聞いたようなお薬やリハビリなどもきっと乗り越えられるわ! だって女の子を4人も待たせているのだもの!」

「……かがり」

「ちくせうちくせう! 何さ何さ、せっかく告るついでにいいこと言ってひびきを勇気づけてポイント稼ぎしたというに! よりにもよってかがりんに後から全部かっさわれたよ! トンビだよちくせう!」

あ、うん……そうだよね。

君の告白の理由も聞いたけど、きっと無意識でだろうけどもそれを上書きする形で励ましてくれちゃったもんね……。

ずいぶん近くまで迫っていた……いつものように僕の目の前に迫っていた圧力のあるふたつを、むんずと両手でつかんで僕からかがりを引き離すゆりか。

「あら? どうしたのゆりかちゃん」

「やっぱかがりんをフリーにさせちゃならんかったねぇ。 それがこの結果だよ。 怒りのあまり、告るついでにダブルメロンってゆー武器をへーぜんと使ってるかがりんのこれをもぎたくなってきた。 もいでいい? もいでいいよね!? ねぇ!? もいでもどーせすぐに生えてくるんでしょ!」

「なにを言っているの……ちょっと痛いわ、手を離してちょうだい?」
「いーや、離さない。 ひびきの目の毒だしなによりもそれ超ほしい。 半分くらいは分けてくんない? ねぇ?」

ゆりかが暴走している……まぁゆりかの告白って言うのをダメにしたのもかがりの暴走なんだけども。

いや、かがりなりに僕のことを想ってって分かってるけど……さすがにゆりかの心情を考えちゃうと、ねぇ?

「ちょっとセクハラは止めてちょうだいゆりかちゃん! どうしましょう、ゆりかちゃんの目が怖いわ響ちゃん、助けて!」

きっと、こうしてじゃれ合っているのも僕を元気づけるっていうのと……あとは多分雰囲気を戻すためのもの。

そう思っておこ。

なんかいろいろと台無しだから。

「なーんで動かすだけでこんだけすらいむみたく動くの? これほんっとーに私とおんなじムネってヤツなの? いやおっぱいか! おっぱいだなこれ!! ちくせう、私には存在しないものだコレ! どーあがいても谷間ってもんすらできない私への侮辱に他ならないよかがりん! いや、メロンとかスイカとかそんな感じのなにかを蓄えているばいんばいんよ!」

「そう言われるの、あまり好きじゃないから止めてってばゆりかちゃん! って、ひゃんっ!? ちょ、ちょっと!?」

「重くて柔らかくて――……いいのう、持つものは。 持たざる私にはけっっして持ち得ないものだよ。 だから許されぬのだ」

……もう、せっかく君たちの言葉で感傷に浸っていたのにどうしようもない騒ぎ方してるから覚めちゃったじゃない。

「ふたりとも」

「なーに、ひびきん」
「なにかしら響ちゃん」

ゆりかはかがりの胸を……制服の中に腕を突っ込んでかがりのを掴んでいるらしいゆりかと掴まれているらしいかがりが、それを忘れたような顔をしてこちらに振り向いてくる。

反応早いなぁ。

やっぱりただのおふざけか。
女子のそれって男子よりスキンシップ多いからなぁ。

「そろそろ静かにしないと……隣室の人や病院の人たちから怒られるよ? 次からの面会、できなくなるかもしれないんだけども」

「ごみん」
「ごめんなさい……」

すっと手を引き抜いたゆりかと、その弾みで持ち上げられていたからか「とぷん」って音がする幻聴とともにひとはねしたかがりのそれ。

「あと君たち……告白してくれた以上は当然、僕の内面は男だって本気で思ってくれているんだよね? 男だって」

「あ、はい」
「え、ええ」

「つまり僕は男子。 男子の前で今のようなことをするのは少しいただけないと思うよ。 まぁ僕は肉体的には女子だからそこまでの抵抗はないんだろうけども」

「……!!」
「あ、かがりん、顔赤くなれるのね」

「もうっ! ゆりかちゃんひどいじゃない!」
「いや、告ったのに上書きしてきた泥棒猫にゃ言われたかないけど……」

お互いに怒る理由があるからか、さっきよりは控えめな声で言い合うふたり。

かがりは顔を赤くして胸を押さえながらゆりかを追い回し、ゆりかはぽかぽかと叩かれながらうろちょろと逃げ回っている。

……こういうところは年相応。

年相応の女の子というもの。

……けど、多分子供の方がこういうのは素直なんだろう。

僕は……ふたりには気が付かれない程度に熱くなっているほっぺたを冷まそうって、開けてある窓からの景色を見るフリをしていた。
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