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恋する神父の愛する坊主
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蛇足
騙された挙句、散々体を嬲られた竜水は、怒りに任せて父親からの意に染まぬ結婚を了承した。気が変わらない内にと、総代の佐藤さんの従兄弟のむす(以下略)のトドに酷似した女性に連絡を取り、早々に式の準備が進められた。
父は志彩に構わず独断で聖クライスト教会の改装工事に取り掛かり、黒ずんでいた壁は白く塗り替えられ、ピンクホワイトの花柄の壁紙が張り巡らされて地面は掃き清められ、ロイヤルレッドの絨毯が長く通路に伸び、新設されたステンドグラスからこぼれ出る自然光が照らしている。全てトドに激似の婚約者の財力だ。父親は笑いが止まらない。
完全に俗物の坊さんと成り果てている父親を見れば頭痛を覚えるが、それ以上の頭痛のタネが教会で待っていると竜水は知っていた。
式は明日だ。既にトドに似た(略)とは面会を済ませている。彼女は様体に沿った豪快な女性で、結納の席で、竜水に杯を注ぎながら一升瓶を片手に酒を飲み、次々と料理を平らげて足らない分は追加注文してわんこそばの如く皿を重ね、デザートにメロン一個ぺろりと食べてしまう、大食漢だった。その食いっぷりに竜水は閉口していたが、父は怯む事無く、しきりに彼女を褒め称えていたのだった。
まだ食事が終わらない様子だったので、席を外し、竜水は自室へ移動した。竜水の部屋からは志彩の部屋が見える。窓を開け、カーテンの閉められた部屋を竜水はぼんやり眺める。いつも竜水が窓を開けると、決まってカーテンが開いて志彩が顔を出したものだ。今は薄暗いカーテンの裏に立つ志彩の影がぼんやり揺らめいているだけだった。
「…………」
激昂し、志彩に結婚宣言をしたのは自分だ。引き止めて欲しい、なんて言葉は口が裂けても言えないし言いたくない。一瞬でもそんな考えが浮かんだ自分に嫌悪する。
ゆらり
カーテンが揺れて開かれそうになった瞬間、竜水は窓を閉めてロールスクリーンを下げ、背を向けた。カラカラと窓が開く音がする。竜水はその場で動けずにいた。
「竜水」
二人の部屋の距離は近く、そう声を張らなくても、互いに聞こえる。竜水は応えない。
「……本当に結婚する気?」
竜水が意地を張って言い出した事だと志彩も分かっているが、彼が竜水に言ったように、いずれ竜水が結婚して寺を継ぐのは決まっていたから、結果それを早める事になっただけだ。
カタカタと、風が窓を叩く音がする。
返事が無いのが返事だと、志彩は息を吐いた。その吐息の音さえも、竜水の耳に届く気がした。
「なら…僕は心を込めて、君達の結婚を神の御名において…祝福するよ」
竜水はハッと息を呑んだ。
てっきり泣き言や恨み言を言われると思っていただけに、竜水の驚きは大きい。泣き虫でワガママで自分勝手な志彩が、殊勝にも自分の結婚を祝い、あまつさえ皮肉の無いマトモなセリフを吐くなど、考えられない事だった。
「おめでとう…竜水」
その声は水を含んだ声で、言葉の終わりに鼻を啜る音がした。また、小さく窓が鳴った。風の音に混じって、押し殺したような泣き声が竜水の耳に届く。
「…っく…」
竜水は背を向けたままだった。少しでも泣いている志彩を見てしまえば、自分は取り返しのつかない方向へ舵をとってしまうだろう。
グッと強く数珠を握ると、力を入れたせいか、紐が解けてバラバラと玉が散らばってしまう。落ちてしまった玉の上へ、カチンと音を立ててミニサイズの十字架が落ちた。数珠についていたこの十字架は、幼い頃に志彩からもらったものだ。山に行っても肌身離さず持っていた数珠が散らばってしまった事に気をとられ、慌てて拾い集める。
玉を繋ぎ合わせたら、もう向かいの窓のカーテンに、志彩の影はなくなってしまっていた。竜水はロールカーテンをゆっくり上げ、前を見る。部屋は薄暗く、人の気配感じられない。
コツンと窓に額を当て、竜水はそっと目を閉じたのだった。
その日は仏滅で、空は重苦しい雲が広がり地を陰らせ、高湿でムッとする熱気が周辺を取り巻いていた。
朝から黒猫が前を横切り、下駄の鼻緒が切れ、茶碗が割れて、茶柱が沈む。縁起の悪いのオンパレードもなんのその、ご機嫌な様子で父がけばけばしい豪奢な法衣で身を固め、新郎親族の席に座っている。
似合わない白いタキシードに身を包んだ竜水は、暗い面持ちで祭壇の前に立っていた。教会に入ってきた時からの志彩の視線が冷たくて、まともに見れない。
自分とヤる為に悪魔と契約までした男が、自分の結婚式を執り行うのは心中複雑だ。かと言って、彼無しで結婚を進めるのは卑怯な気がした。自分の戒めにもなる。
やがて新婦の親族や友人が集まり始め、教会に列席する。
時間だ。竜水は観念して、目を閉じた。
志彩が司会を始める。昨夜の涙声はうせ、よく通るハスキーな声が教会に響く。
扉が開いて、相撲衣装じゃなくて純白のウェディングドレスに身を固めたトド(略)が小柄な父親と立つ。竜水は曖昧に笑ってみせた。
バージンロードを歩いてくるトド(略)を竜水はぼんやりと眺めていた。お決まりのパイプオルガンによるウェディングテーマが流れて、のっしのっしとトド(略)が歩いていけば、床が悲鳴を上げる。
彼女は竜水の隣に並ぶと、まるまる肥えた顔をたっぷりと震わせて微笑んだ。これはこれで愛嬌があるかもしれないと竜水が思い始めていたら、讃美歌が始まった。
よく子供の頃、志彩が歌っていた歌だ。
♪慈しみ深き 友なるイエスは…
不意に、竜水の脳裏に小さな頃の二人が浮かんだ。
柔らかな黄金色の髪の志彩と、真っ黒な長い髪を後ろに結わえた自分が、今ここにこうして立っているように、二人で並んで立っている。
そして、互いに誓い合った言葉。
どうして忘れてしまっていたのだろう?
いや、忘れてしまっていたのではない。
無かった事にしようとしたのだ。そんなものは有り得ないと、竜水が悪魔や幽霊を信じないのと同様に、知っていてずっと知らないフリをしてきたのだ。
竜水は胸を押さえた。
この清らかな賛美歌は、自らの中に封じ込めていた想いを露にさせる。素直にさせる。
やがて賛美歌が終わると、夫婦の教えを志彩は滔々と語った。志彩の話が終わると、いよいよ神と証人の前での誓約だ。基督教式の結婚式で、最も重要な部分と言っても良い。志彩は竜水とトドを交互に見やり、頷いた。
「…出席して頂いた皆様の内、この結婚に異議のある者は、今ここで申し出なさい。さもなくば…」
永遠に沈黙せよと志彩が続ける前に、声がした。
「異議あり」
声が出て、竜水は驚いた。さっきのセリフは、志彩じゃなく、他の誰でもない、自分の声だ。志彩も驚いて竜水を凝視している。新郎側の席に座っていた父親の顔は蒼白だ。
竜水は自分でも何を言っているのか、分からなかった。だが、あの賛美歌を聴いてしまったら、いてもたってもいられなくなったのだ。
困惑している竜水をじっと見ていた志彩だったが、彼より先に正気に戻ると、柔らかに笑んだ。バサッと聖書を落として、手を上げる。
「僕も異議ありだ」
「志彩…」
見詰め合う二人の横から、トドも大きく手を挙げた。
「私も異議ありよ!!!!!」
「「え?」」
鼻息荒く、花嫁はドレスの裾をフンヌと持ち上げると、竜水の方へと体を向ける。ズンと押し当てられた肉は、胸か腹か分からない。
「ごめんなさい、竜水さん。私、やっぱり貴方と結婚出来ません。だって私には…」
バンッ!!!!
勢いよく扉が開くと、金髪碧眼細身長身のハリウッドスターさながらの色男が飛び出してきた。
「OBJECTION!!!」
「トム!!!!!!!」
地響きを鳴らしながら、トドはトムの胸の中へと駆け込んでいった。ドンと派手な音が鳴って、ぶつかった拍子にトムは吹っ飛びそうになったがなんとか後ろ足でこらえ、彼女をしっかりと抱き締めた。そして、彼女を抱え上げ、ふらふらになりながらトムは走り去っていく。新婦側の出席者が全員立ち上がり、慌てて花嫁を追いかけるも、花嫁が床にヒビを入れてしまっていたせいで、彼らは次々に床に足が嵌って倒れこむこととなった。竜水の父は、逃げていった総代の佐藤さんを追いかけていった。
竜水と志彩は顔を見合わせ、思わず空を見上げた。新調されたステンドグラスから、暖かな陽光が輝き、まるで神様の笑顔のように、二人を照らしていたのだった。
++++
そして、二人は結ばれ、極楽寺と聖クライスト教会は仲良く並んで、ハッピーエンドとなる、わけにはいかず、世の中は甘く出来ていなかったのだった。
「なんでさ?!好きなだけヤらせてくれるって言ったじゃん!!!竜水の嘘つき!」
「うるさい!私がいないからってシスターと遊んでいたのは何処の誰だ?!やっぱり貴様は信用ならん!」
「しょうがないじゃん。竜水が寺の仕事で忙しいから悪いんじゃないか!」
現在、竜水の父親は失意の世界一周旅行に出かけていて、いない。代わりに竜水が寺の住職を務めている。
「こんなコトなら、悪魔におじさんを余所に連れ出してなんて頼まなきゃ良かったよ!逆効果だった!」
勢いあまって本音を暴露してしまった志彩は、失言に気づいてアッと声を詰まらせ口を手で覆った。だが、時既に遅し。
竜水は怒りでわなわな震えている。
「…どういう事だ?」
「…えー…っと、僕、さっき何か言ったかな?」
「貴様、悪魔に頼んで私を山に戻らせないよう仕向けたんだな?」
宝くじの金は既に使ってしまった後だったから、突然、父親が世界一周旅行にいけるだけの資金が出来たのはおかしいと思っていたのだ。
「君、悪魔を信じないんじゃなかったの?」
引きつり笑いを浮かべる志彩に竜水は詰め寄った。
「……無論、悪魔なんぞおらん。だが、念の為だ。貴様…一体何の代わりにその願いを叶えさせたんだ?」
「…………僕の良心、かな」
エヘヘと笑った志彩に、竜水は噛み付いた。
「そんなもん、最初から貴様には無いわ!!!!」
竜水が志彩のキャソックを掴めば、志彩が竜水の袈裟を掴んで引っ張って、そのまま竜水を床へと押し倒す。上にのっかかる志彩の背後で、悪魔がニヤリと笑っていた。
おわり
騙された挙句、散々体を嬲られた竜水は、怒りに任せて父親からの意に染まぬ結婚を了承した。気が変わらない内にと、総代の佐藤さんの従兄弟のむす(以下略)のトドに酷似した女性に連絡を取り、早々に式の準備が進められた。
父は志彩に構わず独断で聖クライスト教会の改装工事に取り掛かり、黒ずんでいた壁は白く塗り替えられ、ピンクホワイトの花柄の壁紙が張り巡らされて地面は掃き清められ、ロイヤルレッドの絨毯が長く通路に伸び、新設されたステンドグラスからこぼれ出る自然光が照らしている。全てトドに激似の婚約者の財力だ。父親は笑いが止まらない。
完全に俗物の坊さんと成り果てている父親を見れば頭痛を覚えるが、それ以上の頭痛のタネが教会で待っていると竜水は知っていた。
式は明日だ。既にトドに似た(略)とは面会を済ませている。彼女は様体に沿った豪快な女性で、結納の席で、竜水に杯を注ぎながら一升瓶を片手に酒を飲み、次々と料理を平らげて足らない分は追加注文してわんこそばの如く皿を重ね、デザートにメロン一個ぺろりと食べてしまう、大食漢だった。その食いっぷりに竜水は閉口していたが、父は怯む事無く、しきりに彼女を褒め称えていたのだった。
まだ食事が終わらない様子だったので、席を外し、竜水は自室へ移動した。竜水の部屋からは志彩の部屋が見える。窓を開け、カーテンの閉められた部屋を竜水はぼんやり眺める。いつも竜水が窓を開けると、決まってカーテンが開いて志彩が顔を出したものだ。今は薄暗いカーテンの裏に立つ志彩の影がぼんやり揺らめいているだけだった。
「…………」
激昂し、志彩に結婚宣言をしたのは自分だ。引き止めて欲しい、なんて言葉は口が裂けても言えないし言いたくない。一瞬でもそんな考えが浮かんだ自分に嫌悪する。
ゆらり
カーテンが揺れて開かれそうになった瞬間、竜水は窓を閉めてロールスクリーンを下げ、背を向けた。カラカラと窓が開く音がする。竜水はその場で動けずにいた。
「竜水」
二人の部屋の距離は近く、そう声を張らなくても、互いに聞こえる。竜水は応えない。
「……本当に結婚する気?」
竜水が意地を張って言い出した事だと志彩も分かっているが、彼が竜水に言ったように、いずれ竜水が結婚して寺を継ぐのは決まっていたから、結果それを早める事になっただけだ。
カタカタと、風が窓を叩く音がする。
返事が無いのが返事だと、志彩は息を吐いた。その吐息の音さえも、竜水の耳に届く気がした。
「なら…僕は心を込めて、君達の結婚を神の御名において…祝福するよ」
竜水はハッと息を呑んだ。
てっきり泣き言や恨み言を言われると思っていただけに、竜水の驚きは大きい。泣き虫でワガママで自分勝手な志彩が、殊勝にも自分の結婚を祝い、あまつさえ皮肉の無いマトモなセリフを吐くなど、考えられない事だった。
「おめでとう…竜水」
その声は水を含んだ声で、言葉の終わりに鼻を啜る音がした。また、小さく窓が鳴った。風の音に混じって、押し殺したような泣き声が竜水の耳に届く。
「…っく…」
竜水は背を向けたままだった。少しでも泣いている志彩を見てしまえば、自分は取り返しのつかない方向へ舵をとってしまうだろう。
グッと強く数珠を握ると、力を入れたせいか、紐が解けてバラバラと玉が散らばってしまう。落ちてしまった玉の上へ、カチンと音を立ててミニサイズの十字架が落ちた。数珠についていたこの十字架は、幼い頃に志彩からもらったものだ。山に行っても肌身離さず持っていた数珠が散らばってしまった事に気をとられ、慌てて拾い集める。
玉を繋ぎ合わせたら、もう向かいの窓のカーテンに、志彩の影はなくなってしまっていた。竜水はロールカーテンをゆっくり上げ、前を見る。部屋は薄暗く、人の気配感じられない。
コツンと窓に額を当て、竜水はそっと目を閉じたのだった。
その日は仏滅で、空は重苦しい雲が広がり地を陰らせ、高湿でムッとする熱気が周辺を取り巻いていた。
朝から黒猫が前を横切り、下駄の鼻緒が切れ、茶碗が割れて、茶柱が沈む。縁起の悪いのオンパレードもなんのその、ご機嫌な様子で父がけばけばしい豪奢な法衣で身を固め、新郎親族の席に座っている。
似合わない白いタキシードに身を包んだ竜水は、暗い面持ちで祭壇の前に立っていた。教会に入ってきた時からの志彩の視線が冷たくて、まともに見れない。
自分とヤる為に悪魔と契約までした男が、自分の結婚式を執り行うのは心中複雑だ。かと言って、彼無しで結婚を進めるのは卑怯な気がした。自分の戒めにもなる。
やがて新婦の親族や友人が集まり始め、教会に列席する。
時間だ。竜水は観念して、目を閉じた。
志彩が司会を始める。昨夜の涙声はうせ、よく通るハスキーな声が教会に響く。
扉が開いて、相撲衣装じゃなくて純白のウェディングドレスに身を固めたトド(略)が小柄な父親と立つ。竜水は曖昧に笑ってみせた。
バージンロードを歩いてくるトド(略)を竜水はぼんやりと眺めていた。お決まりのパイプオルガンによるウェディングテーマが流れて、のっしのっしとトド(略)が歩いていけば、床が悲鳴を上げる。
彼女は竜水の隣に並ぶと、まるまる肥えた顔をたっぷりと震わせて微笑んだ。これはこれで愛嬌があるかもしれないと竜水が思い始めていたら、讃美歌が始まった。
よく子供の頃、志彩が歌っていた歌だ。
♪慈しみ深き 友なるイエスは…
不意に、竜水の脳裏に小さな頃の二人が浮かんだ。
柔らかな黄金色の髪の志彩と、真っ黒な長い髪を後ろに結わえた自分が、今ここにこうして立っているように、二人で並んで立っている。
そして、互いに誓い合った言葉。
どうして忘れてしまっていたのだろう?
いや、忘れてしまっていたのではない。
無かった事にしようとしたのだ。そんなものは有り得ないと、竜水が悪魔や幽霊を信じないのと同様に、知っていてずっと知らないフリをしてきたのだ。
竜水は胸を押さえた。
この清らかな賛美歌は、自らの中に封じ込めていた想いを露にさせる。素直にさせる。
やがて賛美歌が終わると、夫婦の教えを志彩は滔々と語った。志彩の話が終わると、いよいよ神と証人の前での誓約だ。基督教式の結婚式で、最も重要な部分と言っても良い。志彩は竜水とトドを交互に見やり、頷いた。
「…出席して頂いた皆様の内、この結婚に異議のある者は、今ここで申し出なさい。さもなくば…」
永遠に沈黙せよと志彩が続ける前に、声がした。
「異議あり」
声が出て、竜水は驚いた。さっきのセリフは、志彩じゃなく、他の誰でもない、自分の声だ。志彩も驚いて竜水を凝視している。新郎側の席に座っていた父親の顔は蒼白だ。
竜水は自分でも何を言っているのか、分からなかった。だが、あの賛美歌を聴いてしまったら、いてもたってもいられなくなったのだ。
困惑している竜水をじっと見ていた志彩だったが、彼より先に正気に戻ると、柔らかに笑んだ。バサッと聖書を落として、手を上げる。
「僕も異議ありだ」
「志彩…」
見詰め合う二人の横から、トドも大きく手を挙げた。
「私も異議ありよ!!!!!」
「「え?」」
鼻息荒く、花嫁はドレスの裾をフンヌと持ち上げると、竜水の方へと体を向ける。ズンと押し当てられた肉は、胸か腹か分からない。
「ごめんなさい、竜水さん。私、やっぱり貴方と結婚出来ません。だって私には…」
バンッ!!!!
勢いよく扉が開くと、金髪碧眼細身長身のハリウッドスターさながらの色男が飛び出してきた。
「OBJECTION!!!」
「トム!!!!!!!」
地響きを鳴らしながら、トドはトムの胸の中へと駆け込んでいった。ドンと派手な音が鳴って、ぶつかった拍子にトムは吹っ飛びそうになったがなんとか後ろ足でこらえ、彼女をしっかりと抱き締めた。そして、彼女を抱え上げ、ふらふらになりながらトムは走り去っていく。新婦側の出席者が全員立ち上がり、慌てて花嫁を追いかけるも、花嫁が床にヒビを入れてしまっていたせいで、彼らは次々に床に足が嵌って倒れこむこととなった。竜水の父は、逃げていった総代の佐藤さんを追いかけていった。
竜水と志彩は顔を見合わせ、思わず空を見上げた。新調されたステンドグラスから、暖かな陽光が輝き、まるで神様の笑顔のように、二人を照らしていたのだった。
++++
そして、二人は結ばれ、極楽寺と聖クライスト教会は仲良く並んで、ハッピーエンドとなる、わけにはいかず、世の中は甘く出来ていなかったのだった。
「なんでさ?!好きなだけヤらせてくれるって言ったじゃん!!!竜水の嘘つき!」
「うるさい!私がいないからってシスターと遊んでいたのは何処の誰だ?!やっぱり貴様は信用ならん!」
「しょうがないじゃん。竜水が寺の仕事で忙しいから悪いんじゃないか!」
現在、竜水の父親は失意の世界一周旅行に出かけていて、いない。代わりに竜水が寺の住職を務めている。
「こんなコトなら、悪魔におじさんを余所に連れ出してなんて頼まなきゃ良かったよ!逆効果だった!」
勢いあまって本音を暴露してしまった志彩は、失言に気づいてアッと声を詰まらせ口を手で覆った。だが、時既に遅し。
竜水は怒りでわなわな震えている。
「…どういう事だ?」
「…えー…っと、僕、さっき何か言ったかな?」
「貴様、悪魔に頼んで私を山に戻らせないよう仕向けたんだな?」
宝くじの金は既に使ってしまった後だったから、突然、父親が世界一周旅行にいけるだけの資金が出来たのはおかしいと思っていたのだ。
「君、悪魔を信じないんじゃなかったの?」
引きつり笑いを浮かべる志彩に竜水は詰め寄った。
「……無論、悪魔なんぞおらん。だが、念の為だ。貴様…一体何の代わりにその願いを叶えさせたんだ?」
「…………僕の良心、かな」
エヘヘと笑った志彩に、竜水は噛み付いた。
「そんなもん、最初から貴様には無いわ!!!!」
竜水が志彩のキャソックを掴めば、志彩が竜水の袈裟を掴んで引っ張って、そのまま竜水を床へと押し倒す。上にのっかかる志彩の背後で、悪魔がニヤリと笑っていた。
おわり
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