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カレシテスト
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大一は翠の早朝訓練に毎朝必ず現れて、付き合った。学校にいる間の問題集はさすがに撤回したものの、休む暇を与えないよう、嫌がらせのように宿題を作ってやった。わざわざ大一用に手作りでテストを作る為、翠の復習にも役立っている。
なかなか根を上げない大一に、翠のテストは第二段階を迎えた。
デートだ。
空が気に入るデートコースを大一が考えて実行すると言う、極めて簡潔なお題目であったが、実践するのは翠相手だから、寒い事この上ない。
翠の無茶な特訓は肉体派の男ならば付き合ってこれたが、デートテストとなると、難しい。なんせ翠と一日中一緒にいる上、本来ならば女の子と楽しみたいデートコースを男二人で回るのだ。テンションは下っていくばかりだろう。
待ち合わせ場所に一時間早くに現れた大一は、仁王立ちしている翠を発見して、約束の時間を間違ったのかと思った。
大一が現れて早々、翠は罵声を浴びせた。
「馬鹿者っ!!!貴様、空を待たせる気か!空の彼氏ならば、約束の時間の3時間前に来ておけっ!!!」
「そんな早く来たって意味無いっしょ!」
「意味なんぞ、いらん!!!空とデートする一大イベントに対しての心構えが出来ているかどうかの問題だ」
支離滅裂な理論ではあるが、一理ある。と思ってしまうぐらいには、大一も翠に感化されつつあった。
大一は翠の容姿を見て、眉をひそめた。
「なんスか、その格好」
翠はジャージで来ていた。背中には小さなリュックを背負っている。短期合宿のような装いだ。
「デートテストでジャージっておかしくないスか?」
同行するのは恥ずかしい旨をオブラートに包んでの発言だったが、返って来たのは期待外れの答えだった。
「俺はテストの現場監督だからな。相応しい格好をしたまでだ」
「単に服持ってないだけっしょ」
「生意気な口を利くな!!!!」
振り回された拳を避け、大一は翠から数歩距離をあける。
翠は大一の格好をじろじろ眺めた。
「・・・貴様は軽薄な格好だな」
「普通スよ」
大一はおしゃれなアニマルプリントのTシャツにスポーツメーカーのパーカーを羽織り、シンプルな藍色のジーンズのズボンを穿いている。ズボンはチェーンがついていた。翠がチェーンを引っ張ると、ポケットから財布が出てきた。早速中身をチェックする。
「ちょっと、お兄さん!」
「お兄さんと呼ぶなと言ってるだろーが!所持金を確認するのは兄の務めだ」
大一は抗議の権利を放棄し、翠の好きにさせた。兄は財布の中を確認した後、静かに大一に財布を返した。
そして、スススと前に進んで立ち止まると、自分の財布の中身をこっそり確かめる。なんだかその背中が悲しそうなので、大一は声をかけた。
「今日は空ちゃんとデートするつもりで持ってきましたから。俺のおごりでいいッスよ」
「駄目だ!空とのデートを想定しているとは言え、空の恋人候補なんぞに施しは受けん」
変なプライドを持っている翠に、強く推したりはせず、大一は彼に従った。余計な反論は時間の無駄だと、ここ数日で既に把握している。
のっしのっしと歩き出した翠を追いかけ、大一は一歩前に出た。翠がそれを咎める。
「下がってろ」
「空ちゃんとのデートを想定してるんでしょ。女の子を先に歩かせるなんて、男の風上にも置けないスよ」
グゥと翠は唸った。
「不愉快だ。並べ」
言われるがままに大一が翠の横に並ぶと、ちょうど手の届きやすい位置に翠の手があった。念の為、大一はお伺いを立てる。
「手繋いでいいスか?」
「初デートでそれは早すぎる!!!!」
分かりきった答えに大一は安堵した。
今日のデートは映画鑑賞だ。近所に複合型の映画館で、今話題の恋愛映画を見るのだ。男子高校生二人で恋愛映画を見るのは、羞恥プレイに等しい。けれども、翠は本気で大一をテストする気でいる為、抵抗感は感じていなかった。
「今日のは、空が見たいと言ってた映画だ。空は恋愛とホラーが混じった話が好きなんだ。よく覚えておけよ」
「意外。怖いの平気なんスね。俺、ちょっと苦手かも・・・」
初めて自信の無いセリフを吐いた大一に、翠の目が輝いた。ドンと背中を叩く。
「ビビるな。幽霊なんぞ、おらん」
ハハハと笑うだけのゆとりが、映画を見る前の翠にはあった。それは映画が始まると、どんどん萎んでいく事となった。
死んでしまったヒロインが恋しくて、恋しさのあまりに主人公はヒロインの死体を掘り起こし、死者とデートをすると言うイカれた内容の映画で、主人公視点の場面は胸が痒くなるような恋愛描写が続くが、一般視点となった途端、寒気の走るホラーに変わる。
一体、何処に需要があるのか分からない映画ではあるが、映画館は満員だった。早めに来ていたおかげで中央に席を取れた二人は、じっと映画に見入る。
集中力の高い翠は、次第に映画の世界にのめり込んで行く。主人公が死体を掘り返す場面で、翠はカタカタ震えてきた。隣にいる大一は、ポップコーンを持つ翠の手が震えてポップコーンが袋から飛び出しているので、見かねて、そっとその手を握ってみた。隣に大一がいるのも忘れて見入っていた翠は、反発せず、その手を握り返す。
「・・・・・・」
従順な態度に大一も悪い気はしない。彼も少し怖かったから、硬い翠の手は、安心させる温かさを持っていた。
映画が中盤に差し掛かると、内容はピンク色に満ちた恋愛描写が増えてきた。二人の濡れ場がやってくると、翠の手のひらがじんわり濡れてくる。大一が翠をちらりと盗み見れば、心なしか翠の顔が赤く見えた。少し硬直している姿が可愛く見えてくる。
「・・・・・・」
妙な感想を持ってしまったと、大一は慌てて映画に集中しようと前を向くが、映画が終盤を迎えると、今度は翠は涙が止まらなくなった。声さえ堪えているが、今にも号泣しそうな翠に、大一は慌てて持っていたハンカチを翠に手渡した。
スタッフロールが流れる中、翠の鼻を啜る音と嗚咽がエンディングテーマに被って聞こえてくる。その声に他の観客もつられたのか、館内はしんみりした空気に包まれた。
「大丈夫スか」
ロビーで、まだ涙の止まらない翠を座らせ、大一は向かいにしゃがみ込んだ。
「決して結ばれん二人が、俺は可哀相で・・・」
映画のヒロインと主人公は、生者と死者で、どんなに愛し合っていても、幸せな未来はもう築けない。死んだヒロインのもとへ行こうと奮闘し、最後に死のうとする主人公を説得し、ヒロインは別れを告げるのだ。
「貴様は感動しなかったのか!」
「いや、それなりに感動はしましたけど・・・」
ここまでストレートに感情を露にする翠に、冷めた感想を言ってしまっていいものかと迷ったが、正直に大一は言った。
「可哀相とは思わなかったスね。だって、そんなに好きになれる相手に出会えるだけで、幸せだと思いませんか」
「・・・・・・」
ぐすぐす泣いていた翠の涙が止まった。鼻をハンカチで押さえながら、大一を見上げる。大一は苦笑した。
「勿論、二人が一緒になれたら最高スけどね。結ばれなかったにせよ、二人で一緒にいられる時間があって、互いが互いを想い合えてると分かったら、別れが来ても惨めじゃないスよ。ね」
朗らかに笑ってみせたが、翠の顔が硬直して大一を見据えているので、自分はまた失言でもしてしまったのかと、大一が内心焦っていると、翠が破顔した。ホッと安堵したような、緊張の解けたその笑顔は、ずっと厳しい顔ばかり向けられていた大一の胸に、ズクンと響く。
「・・・そうだな」
「・・・・・・」
「好きになれるだけで、幸せ。良い思考だ」
褒められると思わず、今度は大一が硬直する。翠は繋がっている大一の手の上に、もう片方の手を乗せた。
「大一」
「はい」
名前を呼ばれ、大一は更に早鐘を打つ心臓を押さえる。
「貴様もその要領で、空を諦めろ」
「嫌です」
高く鳴っていた心音は一気に速度を落とし、大一の高まった体温をも引き下げていったのだった。
二人は手を繋いだまま、映画館を後にする。大一は気付いていたが、翠が手を離さないので、あえて指摘しなかった。
どうにも彼の手の温かさから離れがたかったのだ。
大一が翠を家まで送って帰ると、するりと離れた手に寂しさを覚える。
「寄ってっていいスか?」
翠はシッシと大一を追っ払う。家に上げてもらえると期待していた大一は不満を口にする。
「いいじゃないスか。茶の一杯ぐらい」
「愚か者。家に上げるのは、結納の時だ」
「俺ら、高校生スけど、気が早くありません?」
現役高校生の大一には結婚問題など、遠い遠い未来の話に聞こえる。だが、翠に言わせれば『お付き合い=結婚を前提』の図式が出来ている。軽い遊び感覚で空と付き合うつもりかと、翠は毛を逆立てる。
「結婚する気もないなら、二度と顔を見せるな!」
「結婚したいかどうかなんて、付き合ってみないと分からないじゃないスか」
正論ではあるが、翠の耳には念仏だ。何処からか竹刀を取り出し、大一の前に突きつける。
「空と関わりたいのであれば、最初から全力で来い」
バン!扉は無情にも閉じられた。
この兄貴には理屈や常識、限度と言うものは通用しない。彼が最後に言い放った言葉通り、死ぬ気でかからないと空の恋人の座は勝ち取れそうにないと大一は悟る。彼もまた、熱い男だ。一度火がついたら、収まりを知らない。
「このクソ兄貴!!!今に思い知らせてやらぁ!!!!!」
窓際から腕を組んで、翠は玄関で吼えている大一を見下ろしていた。周りには沢山の熊のぬいぐるみがある。空が集めているデディと言う名のぬいぐるみだ。
ガチャリと扉が開いて、空が入ってきた。
「もうお兄ちゃんったら、勝手に部屋に入っちゃヤダって言ってるじゃない」
「空。外で叫んでいる変質者がいる。通報しなさい」
「・・・そこまでする?」
呆れている空の右手には既に受話器が握り締められていた。
大一は翠の早朝訓練に毎朝必ず現れて、付き合った。学校にいる間の問題集はさすがに撤回したものの、休む暇を与えないよう、嫌がらせのように宿題を作ってやった。わざわざ大一用に手作りでテストを作る為、翠の復習にも役立っている。
なかなか根を上げない大一に、翠のテストは第二段階を迎えた。
デートだ。
空が気に入るデートコースを大一が考えて実行すると言う、極めて簡潔なお題目であったが、実践するのは翠相手だから、寒い事この上ない。
翠の無茶な特訓は肉体派の男ならば付き合ってこれたが、デートテストとなると、難しい。なんせ翠と一日中一緒にいる上、本来ならば女の子と楽しみたいデートコースを男二人で回るのだ。テンションは下っていくばかりだろう。
待ち合わせ場所に一時間早くに現れた大一は、仁王立ちしている翠を発見して、約束の時間を間違ったのかと思った。
大一が現れて早々、翠は罵声を浴びせた。
「馬鹿者っ!!!貴様、空を待たせる気か!空の彼氏ならば、約束の時間の3時間前に来ておけっ!!!」
「そんな早く来たって意味無いっしょ!」
「意味なんぞ、いらん!!!空とデートする一大イベントに対しての心構えが出来ているかどうかの問題だ」
支離滅裂な理論ではあるが、一理ある。と思ってしまうぐらいには、大一も翠に感化されつつあった。
大一は翠の容姿を見て、眉をひそめた。
「なんスか、その格好」
翠はジャージで来ていた。背中には小さなリュックを背負っている。短期合宿のような装いだ。
「デートテストでジャージっておかしくないスか?」
同行するのは恥ずかしい旨をオブラートに包んでの発言だったが、返って来たのは期待外れの答えだった。
「俺はテストの現場監督だからな。相応しい格好をしたまでだ」
「単に服持ってないだけっしょ」
「生意気な口を利くな!!!!」
振り回された拳を避け、大一は翠から数歩距離をあける。
翠は大一の格好をじろじろ眺めた。
「・・・貴様は軽薄な格好だな」
「普通スよ」
大一はおしゃれなアニマルプリントのTシャツにスポーツメーカーのパーカーを羽織り、シンプルな藍色のジーンズのズボンを穿いている。ズボンはチェーンがついていた。翠がチェーンを引っ張ると、ポケットから財布が出てきた。早速中身をチェックする。
「ちょっと、お兄さん!」
「お兄さんと呼ぶなと言ってるだろーが!所持金を確認するのは兄の務めだ」
大一は抗議の権利を放棄し、翠の好きにさせた。兄は財布の中を確認した後、静かに大一に財布を返した。
そして、スススと前に進んで立ち止まると、自分の財布の中身をこっそり確かめる。なんだかその背中が悲しそうなので、大一は声をかけた。
「今日は空ちゃんとデートするつもりで持ってきましたから。俺のおごりでいいッスよ」
「駄目だ!空とのデートを想定しているとは言え、空の恋人候補なんぞに施しは受けん」
変なプライドを持っている翠に、強く推したりはせず、大一は彼に従った。余計な反論は時間の無駄だと、ここ数日で既に把握している。
のっしのっしと歩き出した翠を追いかけ、大一は一歩前に出た。翠がそれを咎める。
「下がってろ」
「空ちゃんとのデートを想定してるんでしょ。女の子を先に歩かせるなんて、男の風上にも置けないスよ」
グゥと翠は唸った。
「不愉快だ。並べ」
言われるがままに大一が翠の横に並ぶと、ちょうど手の届きやすい位置に翠の手があった。念の為、大一はお伺いを立てる。
「手繋いでいいスか?」
「初デートでそれは早すぎる!!!!」
分かりきった答えに大一は安堵した。
今日のデートは映画鑑賞だ。近所に複合型の映画館で、今話題の恋愛映画を見るのだ。男子高校生二人で恋愛映画を見るのは、羞恥プレイに等しい。けれども、翠は本気で大一をテストする気でいる為、抵抗感は感じていなかった。
「今日のは、空が見たいと言ってた映画だ。空は恋愛とホラーが混じった話が好きなんだ。よく覚えておけよ」
「意外。怖いの平気なんスね。俺、ちょっと苦手かも・・・」
初めて自信の無いセリフを吐いた大一に、翠の目が輝いた。ドンと背中を叩く。
「ビビるな。幽霊なんぞ、おらん」
ハハハと笑うだけのゆとりが、映画を見る前の翠にはあった。それは映画が始まると、どんどん萎んでいく事となった。
死んでしまったヒロインが恋しくて、恋しさのあまりに主人公はヒロインの死体を掘り起こし、死者とデートをすると言うイカれた内容の映画で、主人公視点の場面は胸が痒くなるような恋愛描写が続くが、一般視点となった途端、寒気の走るホラーに変わる。
一体、何処に需要があるのか分からない映画ではあるが、映画館は満員だった。早めに来ていたおかげで中央に席を取れた二人は、じっと映画に見入る。
集中力の高い翠は、次第に映画の世界にのめり込んで行く。主人公が死体を掘り返す場面で、翠はカタカタ震えてきた。隣にいる大一は、ポップコーンを持つ翠の手が震えてポップコーンが袋から飛び出しているので、見かねて、そっとその手を握ってみた。隣に大一がいるのも忘れて見入っていた翠は、反発せず、その手を握り返す。
「・・・・・・」
従順な態度に大一も悪い気はしない。彼も少し怖かったから、硬い翠の手は、安心させる温かさを持っていた。
映画が中盤に差し掛かると、内容はピンク色に満ちた恋愛描写が増えてきた。二人の濡れ場がやってくると、翠の手のひらがじんわり濡れてくる。大一が翠をちらりと盗み見れば、心なしか翠の顔が赤く見えた。少し硬直している姿が可愛く見えてくる。
「・・・・・・」
妙な感想を持ってしまったと、大一は慌てて映画に集中しようと前を向くが、映画が終盤を迎えると、今度は翠は涙が止まらなくなった。声さえ堪えているが、今にも号泣しそうな翠に、大一は慌てて持っていたハンカチを翠に手渡した。
スタッフロールが流れる中、翠の鼻を啜る音と嗚咽がエンディングテーマに被って聞こえてくる。その声に他の観客もつられたのか、館内はしんみりした空気に包まれた。
「大丈夫スか」
ロビーで、まだ涙の止まらない翠を座らせ、大一は向かいにしゃがみ込んだ。
「決して結ばれん二人が、俺は可哀相で・・・」
映画のヒロインと主人公は、生者と死者で、どんなに愛し合っていても、幸せな未来はもう築けない。死んだヒロインのもとへ行こうと奮闘し、最後に死のうとする主人公を説得し、ヒロインは別れを告げるのだ。
「貴様は感動しなかったのか!」
「いや、それなりに感動はしましたけど・・・」
ここまでストレートに感情を露にする翠に、冷めた感想を言ってしまっていいものかと迷ったが、正直に大一は言った。
「可哀相とは思わなかったスね。だって、そんなに好きになれる相手に出会えるだけで、幸せだと思いませんか」
「・・・・・・」
ぐすぐす泣いていた翠の涙が止まった。鼻をハンカチで押さえながら、大一を見上げる。大一は苦笑した。
「勿論、二人が一緒になれたら最高スけどね。結ばれなかったにせよ、二人で一緒にいられる時間があって、互いが互いを想い合えてると分かったら、別れが来ても惨めじゃないスよ。ね」
朗らかに笑ってみせたが、翠の顔が硬直して大一を見据えているので、自分はまた失言でもしてしまったのかと、大一が内心焦っていると、翠が破顔した。ホッと安堵したような、緊張の解けたその笑顔は、ずっと厳しい顔ばかり向けられていた大一の胸に、ズクンと響く。
「・・・そうだな」
「・・・・・・」
「好きになれるだけで、幸せ。良い思考だ」
褒められると思わず、今度は大一が硬直する。翠は繋がっている大一の手の上に、もう片方の手を乗せた。
「大一」
「はい」
名前を呼ばれ、大一は更に早鐘を打つ心臓を押さえる。
「貴様もその要領で、空を諦めろ」
「嫌です」
高く鳴っていた心音は一気に速度を落とし、大一の高まった体温をも引き下げていったのだった。
二人は手を繋いだまま、映画館を後にする。大一は気付いていたが、翠が手を離さないので、あえて指摘しなかった。
どうにも彼の手の温かさから離れがたかったのだ。
大一が翠を家まで送って帰ると、するりと離れた手に寂しさを覚える。
「寄ってっていいスか?」
翠はシッシと大一を追っ払う。家に上げてもらえると期待していた大一は不満を口にする。
「いいじゃないスか。茶の一杯ぐらい」
「愚か者。家に上げるのは、結納の時だ」
「俺ら、高校生スけど、気が早くありません?」
現役高校生の大一には結婚問題など、遠い遠い未来の話に聞こえる。だが、翠に言わせれば『お付き合い=結婚を前提』の図式が出来ている。軽い遊び感覚で空と付き合うつもりかと、翠は毛を逆立てる。
「結婚する気もないなら、二度と顔を見せるな!」
「結婚したいかどうかなんて、付き合ってみないと分からないじゃないスか」
正論ではあるが、翠の耳には念仏だ。何処からか竹刀を取り出し、大一の前に突きつける。
「空と関わりたいのであれば、最初から全力で来い」
バン!扉は無情にも閉じられた。
この兄貴には理屈や常識、限度と言うものは通用しない。彼が最後に言い放った言葉通り、死ぬ気でかからないと空の恋人の座は勝ち取れそうにないと大一は悟る。彼もまた、熱い男だ。一度火がついたら、収まりを知らない。
「このクソ兄貴!!!今に思い知らせてやらぁ!!!!!」
窓際から腕を組んで、翠は玄関で吼えている大一を見下ろしていた。周りには沢山の熊のぬいぐるみがある。空が集めているデディと言う名のぬいぐるみだ。
ガチャリと扉が開いて、空が入ってきた。
「もうお兄ちゃんったら、勝手に部屋に入っちゃヤダって言ってるじゃない」
「空。外で叫んでいる変質者がいる。通報しなさい」
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