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誤解はとけたが
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時間を遡ること十五分程。
昼休みが始まって間もない生徒会室には、咲を始めとする生徒会メンバーが集まっていた。
別に咲が招集をかけたわけではないが、この非常こと態に自然と集まったのだった。
「厄介なことになりましたね」
「噂はどんどん広がっているし」
「何か手を打たないと」
一人の男子メンバーが会長席の先に顔を向ける。
「会長、どう思います?」
「………」
咲は返事をしなかった。悲しそうな表情で窓の外を眺めている。
「会長?」
「あ、ごめんなさい。何? 井戸田君」
咲が意識を向ける。
「張り紙のことです。生徒会として行動すべきだと思うんですが」
「そう…ね」
「じゃあ決まりだな。とにかく犯人探しをしよう」
一人がそう提案し、他のメンバーも賛同する。
「張り紙がされたのは早朝だからな。誰が登校していたのかを徹底的に聞き込み調査しよう」
「もし犯人を見つけたら?」
「当然、つるし上げるに決まっているさ。会長を侮辱したんだ。当然だろう」
「ちょっと待って、みんな」
咲がメンバーを止める。
「犯人探しはしないで」
「え、どうしてですか?」
「どうしてって言われても……」
咲は口ごもる。
見つかった倉之助が生徒会メンバーに糾弾され、その場で真実を語ってしまう怖さもあった。
だけど、それよりも怒ったメンバー達にどうかされてしまうのではないかという心配の方が強かった。
(あんなことをされたのに、それでも高梨君のことを心配してるなんて。私にも困ったものだわ)
自分自身に呆れつつ、咲はもう強く言い放つ。
「犯人探しはしない。これは決定よ!」
咲がそう宣言した以上、もはやメンバー達は何も言い返せなかった。納得がいかないといった表情ながらも仕方なく頷く。
「分かりました。会長がそう言うのでしたら……」
少しだけ気まずい空気が流れる中、一人の女子メンバーが口を開く。
「そう言えば、副会長。来てませんね」
「あ、確かに来てないね。彼のことだから真っ先に駆け付けてくると思ってたのに」
「張り紙のことを知らないとかか?」
「こんな大騒ぎになってて知らないなんてありえないよ」
(さすがに、伝えないってわけにはいかないわね)
咲はふうとため息をつく。倉之助をクビにしたことをメンバー達にはまだ伝えていなかったのだ。
理由を尋ねられても答えられない以上、正直にクビにしたとは言わないでおこうと思った。
(彼の方から辞めさせて欲しいって言ってきた。そう説明するのが一番だわ)
それでも、倉之助を受け入れていた皆に伝えるのは非常に気の重いことだった。
躊躇っている咲の前で、メンバー達は引き続き倉之助の話題を続けている。
「ひょっとして高梨さん、今日欠席してるとか?」
「いや、それはないぞ」
一人の男子メンバーが首を横に振った。
「おれ、今朝学校に来る途中で高梨と会ってるから。まあ、会ったって言うか見かけただけだけど」
「えっ!?」
咲が大きく目を見開いた。
「大森君、そのことを詳しく話して!」
咲の真剣な眼差しに、男子メンバーは困惑しながらも答える。
「えっと、ほら、羽場坂のコンビニんとこです。おれがコンビニで少し立ち読みしてたら、コンビニの前を高梨が歩いていって」
「それは何時の話?」
「確か、八時十五分ぐらいだったかな」
咲が張り紙を見つけそれを剥がしたのが七時四十分ぐらいの時間だった。張り紙をした人物は少なくともその時間より早くは登校をしていたはずだ。
だけど、大森の話を聞く限り倉之助が登校したのはずっとずっと後のようだった。
念のため、咲は確認する。
「それ、間違いなく高梨君だったの? よく似た別の人物ってことは」
「いや、それはないですって会長。おれ、目だけは無駄にいいんですから」
確信を込めて繰り返す。
「あれは間違いなく高梨でした。あのクセっ毛と人の良さそうな顔は間違いっこありません。でも、どうしてそんなこと気にするんです?」
咲はその質問に答えなかった。真剣な顔つきで考え込む。
(つまり、高梨君は張り紙をした犯人じゃなかったってことなのね)
そうなると新たな疑問が生まれる。倉之助以外の一体誰が、あの張り紙に書かれていたような咲の真実を知ることができたのか? だ。
もしかしたら、秘密を抱えることに耐え切れなくなった倉之助が誰かに漏らしてしまったという可能性はある。
それでも、あの悪質な張り紙をしたのが倉之助でないことは咲にとって嬉しかった。
同時に、申しわけない気持ちで一杯になる。
(そうよ。あの高梨君がそんなことするはずないわ。少し冷静になれば分かることになのに、どうして私は彼を疑ってしまったのよ)
激しい後悔の念にさいなまれる。
(早く謝らなくっちゃ)
ポケットから携帯を取り出し、倉之助にメールを打とうとする。だけどその手を止めた。
(駄目だわ。こんな大切なことをメールなんかですませたら。ちゃんと直接会って言わなきゃ。ごめんなさいって。それから、虫が良すぎるかもしれないけど、また生徒会に戻ってきて欲しいって)
「ごめんなさい、私ちょっと大切な用ことを思い出したわ」
メンバー達にそう告げると、咲は足早に生徒会室の外へと出る。
「!?」
そこで、咲は足を止めずにはいられなかった。
目を輝かせた鬼の生徒達が、生徒会室の出入り口を取り囲んでいる。
「何だお前達は!」
「何しに来たのよ!」
異変に気づき、メンバー達も飛び出してくる。
「まあまあ、そう興奮しないように」
そんな声と共に、鬼の生徒達の間をぬって一人の男子生徒が姿を現す。
スラリとした長身で、顔立ちは整っている。髪の毛の色は見ことな青。頭からは二本の角が生えている。当然、瞳は金色だ。
「藍川!」
メンバー達からそんな声が漏れた。
元副会長、藍川は穏やかな口調で言う。
「僕達は赤沢会長を迎えに来たんです。これから講堂に来てもらえませんか?」
「講堂で何をするの!?」
気丈に尋ねる咲に、藍川は答えた。
「臨時の生徒集会です。今朝の張り紙のことで、今学校中が大騒ぎになっています。会長の口から、あれが根も葉もない嘘であることを説明して欲しいんです」
「会長、無視して下さい。こんな奴の言うことなんて聞く必要ありません!」
「そうです、こんな呼び出しに応じる義務自体、会長にはありませんから」
「確かにこの呼び出しは強制ではなくお願いです。どうぞ断ってくれて結構です。その場合は、全校生徒の三分の一以上の署名を集めるまでです。そうすれば生徒会に対する質疑集会を正式に開くことができますからね。まあ、今の学校の雰囲気から考えれば、二、三日もあれば署名は集まるでしょうが。どうします? 僕としては早くに潔白を証明してしまった方が楽だと思いますが。待たされれば待たされる程、生徒達の間で不信感が増しますよ」
流暢に語ってから、藍川はニヤリと嫌らしく笑った。
「それとも、集会に出られないわけでもあると言うのですか? 例えば、あの張り紙の内容は本当で、これまで全校生徒を騙していたとか」
「いい加減にしろ!」
メンバーの一人が藍川の胸倉を掴んだ。
「生徒会の暴力だ!」
「知る権利への弾圧だ!」
鬼の生徒達が息まく。
一触即発の空気の中、凛とした声が響く。
「止めなさい!」
その声に、辺りは一瞬で静まり返る。
「大森君、手を離して。皆も落ち着いて」
メンバーを制してから、咲は藍川を睨む。
「この騒動に便乗して貴方がこんな行動に出るとはね、藍川君。私を失脚させて自分が会長になろうとでも思っているのかしら?」
「いえいえ、僕はただ少しでも早く会長の無実を証明したいだけですよ」
藍川は肩を竦める。
「それで、私にも弁明の機会は与えられるのよね?」
「もちろんです。そのための集会ですから」
「分かったわ」
咲は大きく頷いて見せた。
「その集会、参加しようじゃない」
昼休みが始まって間もない生徒会室には、咲を始めとする生徒会メンバーが集まっていた。
別に咲が招集をかけたわけではないが、この非常こと態に自然と集まったのだった。
「厄介なことになりましたね」
「噂はどんどん広がっているし」
「何か手を打たないと」
一人の男子メンバーが会長席の先に顔を向ける。
「会長、どう思います?」
「………」
咲は返事をしなかった。悲しそうな表情で窓の外を眺めている。
「会長?」
「あ、ごめんなさい。何? 井戸田君」
咲が意識を向ける。
「張り紙のことです。生徒会として行動すべきだと思うんですが」
「そう…ね」
「じゃあ決まりだな。とにかく犯人探しをしよう」
一人がそう提案し、他のメンバーも賛同する。
「張り紙がされたのは早朝だからな。誰が登校していたのかを徹底的に聞き込み調査しよう」
「もし犯人を見つけたら?」
「当然、つるし上げるに決まっているさ。会長を侮辱したんだ。当然だろう」
「ちょっと待って、みんな」
咲がメンバーを止める。
「犯人探しはしないで」
「え、どうしてですか?」
「どうしてって言われても……」
咲は口ごもる。
見つかった倉之助が生徒会メンバーに糾弾され、その場で真実を語ってしまう怖さもあった。
だけど、それよりも怒ったメンバー達にどうかされてしまうのではないかという心配の方が強かった。
(あんなことをされたのに、それでも高梨君のことを心配してるなんて。私にも困ったものだわ)
自分自身に呆れつつ、咲はもう強く言い放つ。
「犯人探しはしない。これは決定よ!」
咲がそう宣言した以上、もはやメンバー達は何も言い返せなかった。納得がいかないといった表情ながらも仕方なく頷く。
「分かりました。会長がそう言うのでしたら……」
少しだけ気まずい空気が流れる中、一人の女子メンバーが口を開く。
「そう言えば、副会長。来てませんね」
「あ、確かに来てないね。彼のことだから真っ先に駆け付けてくると思ってたのに」
「張り紙のことを知らないとかか?」
「こんな大騒ぎになってて知らないなんてありえないよ」
(さすがに、伝えないってわけにはいかないわね)
咲はふうとため息をつく。倉之助をクビにしたことをメンバー達にはまだ伝えていなかったのだ。
理由を尋ねられても答えられない以上、正直にクビにしたとは言わないでおこうと思った。
(彼の方から辞めさせて欲しいって言ってきた。そう説明するのが一番だわ)
それでも、倉之助を受け入れていた皆に伝えるのは非常に気の重いことだった。
躊躇っている咲の前で、メンバー達は引き続き倉之助の話題を続けている。
「ひょっとして高梨さん、今日欠席してるとか?」
「いや、それはないぞ」
一人の男子メンバーが首を横に振った。
「おれ、今朝学校に来る途中で高梨と会ってるから。まあ、会ったって言うか見かけただけだけど」
「えっ!?」
咲が大きく目を見開いた。
「大森君、そのことを詳しく話して!」
咲の真剣な眼差しに、男子メンバーは困惑しながらも答える。
「えっと、ほら、羽場坂のコンビニんとこです。おれがコンビニで少し立ち読みしてたら、コンビニの前を高梨が歩いていって」
「それは何時の話?」
「確か、八時十五分ぐらいだったかな」
咲が張り紙を見つけそれを剥がしたのが七時四十分ぐらいの時間だった。張り紙をした人物は少なくともその時間より早くは登校をしていたはずだ。
だけど、大森の話を聞く限り倉之助が登校したのはずっとずっと後のようだった。
念のため、咲は確認する。
「それ、間違いなく高梨君だったの? よく似た別の人物ってことは」
「いや、それはないですって会長。おれ、目だけは無駄にいいんですから」
確信を込めて繰り返す。
「あれは間違いなく高梨でした。あのクセっ毛と人の良さそうな顔は間違いっこありません。でも、どうしてそんなこと気にするんです?」
咲はその質問に答えなかった。真剣な顔つきで考え込む。
(つまり、高梨君は張り紙をした犯人じゃなかったってことなのね)
そうなると新たな疑問が生まれる。倉之助以外の一体誰が、あの張り紙に書かれていたような咲の真実を知ることができたのか? だ。
もしかしたら、秘密を抱えることに耐え切れなくなった倉之助が誰かに漏らしてしまったという可能性はある。
それでも、あの悪質な張り紙をしたのが倉之助でないことは咲にとって嬉しかった。
同時に、申しわけない気持ちで一杯になる。
(そうよ。あの高梨君がそんなことするはずないわ。少し冷静になれば分かることになのに、どうして私は彼を疑ってしまったのよ)
激しい後悔の念にさいなまれる。
(早く謝らなくっちゃ)
ポケットから携帯を取り出し、倉之助にメールを打とうとする。だけどその手を止めた。
(駄目だわ。こんな大切なことをメールなんかですませたら。ちゃんと直接会って言わなきゃ。ごめんなさいって。それから、虫が良すぎるかもしれないけど、また生徒会に戻ってきて欲しいって)
「ごめんなさい、私ちょっと大切な用ことを思い出したわ」
メンバー達にそう告げると、咲は足早に生徒会室の外へと出る。
「!?」
そこで、咲は足を止めずにはいられなかった。
目を輝かせた鬼の生徒達が、生徒会室の出入り口を取り囲んでいる。
「何だお前達は!」
「何しに来たのよ!」
異変に気づき、メンバー達も飛び出してくる。
「まあまあ、そう興奮しないように」
そんな声と共に、鬼の生徒達の間をぬって一人の男子生徒が姿を現す。
スラリとした長身で、顔立ちは整っている。髪の毛の色は見ことな青。頭からは二本の角が生えている。当然、瞳は金色だ。
「藍川!」
メンバー達からそんな声が漏れた。
元副会長、藍川は穏やかな口調で言う。
「僕達は赤沢会長を迎えに来たんです。これから講堂に来てもらえませんか?」
「講堂で何をするの!?」
気丈に尋ねる咲に、藍川は答えた。
「臨時の生徒集会です。今朝の張り紙のことで、今学校中が大騒ぎになっています。会長の口から、あれが根も葉もない嘘であることを説明して欲しいんです」
「会長、無視して下さい。こんな奴の言うことなんて聞く必要ありません!」
「そうです、こんな呼び出しに応じる義務自体、会長にはありませんから」
「確かにこの呼び出しは強制ではなくお願いです。どうぞ断ってくれて結構です。その場合は、全校生徒の三分の一以上の署名を集めるまでです。そうすれば生徒会に対する質疑集会を正式に開くことができますからね。まあ、今の学校の雰囲気から考えれば、二、三日もあれば署名は集まるでしょうが。どうします? 僕としては早くに潔白を証明してしまった方が楽だと思いますが。待たされれば待たされる程、生徒達の間で不信感が増しますよ」
流暢に語ってから、藍川はニヤリと嫌らしく笑った。
「それとも、集会に出られないわけでもあると言うのですか? 例えば、あの張り紙の内容は本当で、これまで全校生徒を騙していたとか」
「いい加減にしろ!」
メンバーの一人が藍川の胸倉を掴んだ。
「生徒会の暴力だ!」
「知る権利への弾圧だ!」
鬼の生徒達が息まく。
一触即発の空気の中、凛とした声が響く。
「止めなさい!」
その声に、辺りは一瞬で静まり返る。
「大森君、手を離して。皆も落ち着いて」
メンバーを制してから、咲は藍川を睨む。
「この騒動に便乗して貴方がこんな行動に出るとはね、藍川君。私を失脚させて自分が会長になろうとでも思っているのかしら?」
「いえいえ、僕はただ少しでも早く会長の無実を証明したいだけですよ」
藍川は肩を竦める。
「それで、私にも弁明の機会は与えられるのよね?」
「もちろんです。そのための集会ですから」
「分かったわ」
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