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エピソード2 きもだめしの夜に彼女は

2、運命のグーとパー

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旧サークル棟は二階建ての建物だった。横幅もありなかなかの大きさだ。

 時刻は午後の八時半、辺りはすっかり闇に包まれている。入り口付近こそかろうじて小さな街灯で照らされているが、建物の中は何も見えない程真っ暗だろう。

桔平、リムル、海斗、こずえの四人が、旧サークル棟を前に集合していた。

 もちろんこんな夜に学校の敷地内に入るのはあまり褒められたことではない。だけど、片田舎の学校で特に敷地を取り囲むフェンスもないから入ってくるのは簡単だ。校舎内に侵入したりしなければ大騒ぎになることもないだろう。

 ちなみに、各自一度家に帰っているためもう制服姿ではない。桔平と海斗は短パンにTシャツという夏らしい格好だ。こずえとリムルも、身動きの取りやすい私服に着替えている。

「あれ? 海斗。あんた一人なの? てっきり彼女も誘うんだとばかし思ってたけど」

 こずえの言葉に、海斗が苦笑しつつ答える。

「いや、さすがに女の子をこんな夜に呼び出すなんてできないって。ましてや明日も学校があるってのに」

「アタシも女の子だけど、そこらへんの気遣いはないのね」

 とこずえが言うけれど、そんな扱いはもう慣れっこのようだ。大して気を悪くした様子もない。むしろ、これから始まるきもだめしを楽しみにしている様子だ。

「じゃあ、全員集まったことだし最初に懐中電灯を渡しておきますね」

 リムルが各自に懐中電灯を配る。あちこちで調達してきたのだろう。形も大きさもバラバラだった。

「それではきもだめしを始めるにあたり、わたしからちょっとお話を」

 リムルがコホンと咳払いをする。それから、懐中電灯を点けると自分の顔を下から照らした。ベタな演出を真剣に行いつつ語り始める。

「実は、あれからここのことをいろんな人に聞いて判明したことがあるんです。今から十数年も昔、この建物で悲惨な事故が起こったんです。そう、二階の一番端、演劇部の倉庫でのことでした」

 もったいをつけてから、リムルは続ける。

「一人の女子生徒が倉庫の整理をしていたところ、倒れてきた大道具の下敷きになってしまいました。少女は必死に助けを求めましたが夜になっていて建物には他には誰もいませんでした。どうにか自分にのしかかった大道具から逃れようと少女は一晩中もがいた挙句、ついに力尽きて亡くなってしまったそうです。それ以降、夜になると少女が大道具の下でもがく音が聞こえてくるそうです」

「そんな適当な話はいいから。さっさと初めて終わりにしようぜ」

面倒臭そうに桔平が言う。

「適当な話じゃないんですけどね。ちゃんとわたしなりにリサーチして聞いてきた話で」

 思うように皆が怖がってくれなかったから、リムルは不満そうに唇を尖らせた。

「今更なんだけど、ここって確か鍵がかかってたんじゃなかったっけ? 生徒が勝手に入ってイタズラしないようにって」

「あ、それなら大丈夫ですよ。ここの管理を担当している児島先生に頼んで放課後にちょっとだけ鍵を借りたんです。卒業アルバム用の写真を撮りたいって言ったら快く貸してくれました。その時に鍵を開けてそのままにしてありますから」

「お前、そこまでしてたのか…」

 懐中電灯といい鍵のことといい、地道な準備をしていたリムルに桔平は呆れつつも感心してしまう。

「でもまあ、扉は開いてるってことなんだな。よし、それじゃいつまでも立ち話をしててもしょーがないし。入ろうぜ」

「あ、待てよ桔平」

 出入り口に向かって歩き出す桔平を呼び止めたのは海斗だった。

「四人でぞろぞろ入ったって面白くないだろ? せっかくだからペアにならないか?」

 そう提案する。

「ペア? オレとお前とでか?」

「おいおい、むさい男同士で組んでどうするんだよ。せっかく男女各二名ずついるんだ。男女のペアにしようぜ」

「まあ、別にいいけど」

 桔平が納得する。すぐ近くでリムルが『よっしゃっ』とガッツポーズを決めているのには不覚にも気づかなかった。

「決まりだ。組み分けジャンケンで決めようぜ。一組合えばグーとパーだ。男同士、女同士でペアができた時はやり直し。いいな?」

 海斗のしきりで組み分けジャンケンが行われる。桔平やこずえにしてもれば昔からよくやってたことだから慣れたものだった。

「一組合えば、グーとパー」

 四人がそれぞれ右手を突き出した。

桔平  グー

海斗  パー

リムル パー

こずえ グー

「決まり。アタシと桔平。海斗と璃夢瑠っちね」

「えええええ!」

 素っ頓狂な声を上げたのはリムルだ。

「だだだ、駄目です。こんなはずじゃないんです。せっかくの計画が」

「計画?」

「いえ、何でもありません。何でも」

 もごもごとリムルが口を動かす。

「どっちから先に行く? それもジャンケンで決める?」

 瞳をキラキラと輝かせるこずえに、海斗が鷹揚に手を振った。

「お前達からでいいよ。俺達は外で待ってるから」

「ありがと、じゃ桔平。行くわよ」

 ずんずんと歩き出すこずえ。仕方なしに桔平ものその後についていく。

 旧サークル棟の扉を開けると、スイッチを入れた懐中電灯片手に二人は建物の中に入っていった。

 扉が閉まるのを確認してから、海斗は特大のため息をつく。

「璃夢瑠ちゃん、どーしてあそこでパーを出すんだ? ずっとグーを出し続けるって作戦だったじゃないか」

 組み分けジャンケンにおいて、海斗はパーを、リムルはグーを出し続けるというのが二人の作戦だった。そうしていれば二人がペアになることは絶対にない。例え重複しても、幾度かやっていく内には『桔平 & リムル』『海斗 & こずえ』のペアが出来上がっていたはずだった。

「だって、だって仕方がないじゃないですか。皆さんと違ってわたしはこのジャンケンに馴染みがないんです。死神界では誰もやってなかったんですから」

「しにがみ会? 何かのサークル?」

「ま、まあそんなとこです」

 リムルは適当に誤魔化した。

「一組合えばグーとパーっていうかけ声もいけないんです。あれだとついついパーを出したくなっちゃうじゃないですか。一組合えばパーとグーだったらわたしもちゃんとグーを出せてたと思います」

 無理やりな言い訳ではなく、本心から言っているようだった。
 海斗は思った。

(ああ、前々からそーじゃないかと思ってたけど、璃夢瑠ちゃんてやっぱり天然なのか)

 そして後悔した。

(ああ、璃夢瑠ちゃんをパーの担当にしておけば良かったぜ)

 だけど、今更反省しても遅かった。すでにペアは決定してしまい、桔平とこずえの二人は旅立ってしまっているのだから。
 嘆いていたリムルだけど、不意にハッとする。危機感も露わに言った。

「ひょっとして、吊り橋効果で桔平さんとこずえさんの仲が進展しちゃったりしたらどうしよ? ううん、桔平さんは素敵な人ですからそんな効果がなくたって二人っきりでいたら…」

「桔平さんは素敵な人…ね。そんなこと言ってくれる女の子なんて璃夢瑠ちゃんぐらいなものだろ。あいつもウダウダ言ってないでさっさと決めてしまえばいいのにな」

 そんなことを口にしてから、海斗はリムルに言った。

「まあ、心配はいらないよ。あの二人はそういう関係じゃないから」

 海斗は説明をする。

「幼馴染って同じくくりにされるけど、俺以上にあの二人の付き合いは長いんだ。保育園に入る前からだからな。その弊害とでも言うのかな? ずっと一緒だったせいで異性としてまるで意識してないんだよ」

 締めくくるように、海斗は言ったのだった。

「とにかく、あの二人に限って仲が進展するなんてことはないから、その点は安心していいと思うぜ」
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