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エピソード1 タイムリミットは44週
3、電波系彼女はモノホンの死神!?
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く抱いている願望が末期の願いとして一つだけ叶えられるんです。逆に言うならば、死神はこの条件をクリアしない限り刈り取りを執行することはできません。願いを叶えられないまま、死の執行期限である44週が過ぎてしまったら、もうその人物は特待死者ではなくなります。桔平さんの場合は今がその初週なんです」
説明が終了した。
「どうです? 理解していただけましたか?」
「…ああ、とりあえずはな」
苦笑しつつ、桔平は噛み砕いた内容を復唱した。
「つまり、君は死神界ってところからやって来た死神で、オレの魂を狙ってる。だけど魂を刈り取るためにはオレの願望を一つ叶えなくちゃならない。オレの場合は、それが彼女が欲しいってことだから、自分が彼女になろうとしてる。そういうことなんだな?」
「そのとおりです。一回の説明で理解するなんて桔平はさんはすごいです! わたしはこのシステムを覚えるのにけっこう苦労したんですから」
感嘆の眼差しを向けてくるリムルを見ながら、桔平は確信した。
(この娘、アレか。いわゆる電波系って奴なのか)
って。
リムルの説明した内容は理解した。だけど理解したからと言って信じるということにはならない。
だって死神だ。はいそうですかと頷けるはずがない。
目の前の少女が少々電波だとしても、まっすぐに自分のことを好きになってくれたら桔平はさほど気にしなかっただろう。電波も含めて受け入れていた可能性だってある。それぐらいの冒険心は持ち合わせているつもりだ。
だけど、問題はその妄想の内容だ。
魂を刈り取るためには、桔平の願望を叶えなければならない。だから彼女になろうとしたとリムルは説明した。
これが、桔平にはどうにも面白くなかったのだ。
彼女の妄想において、桔平の彼女になろうとしているのはあくまで刈り取り条件を満たすため。桔平のことが好きになったわけじゃないのだ。
何だかひどくゲンナリだった。
そして、ガッカリだった。
「いい加減にしてくれよ」
不機嫌そうに呟く。
「オレ、もう行く。いつまでも君の妄想なんかに付き合ってられないから」
「妄想? 何がです?」
リムルはキョトンとした顔を見せる。なまじ可愛い顔立ちなだけに余計に腹立たしい。
「だから、君が死神だとかいう妄想だよ。そんなことあるはずないだろ? 死神なんてものは漫画や映画の中だけの存在。現実にそんなのはいないんだよ」
きっぱりと言い切る桔平に、リムルは怒ったように頬を膨らめた。
「ひどいです! 死神界は本当にあるし死神だって本当にいるんです! わたしがその一人ですから間違いありません!」
意固地になって強く主張するリムルに、桔平は少々意地悪な質問をする。
「だったら、鎌はどうしたんだよ? 確か君は鎌持ちとかいう特別な死神なんだろ? でもって、オレの魂を刈り取るために来たんだろ? それなのに鎌を持ってないなんておかしいじゃないか」
「あ、鎌を見せれば納得してくれるんですね。だったら簡単です。」
ふっふっふとリムルは不敵に笑った。成り上がったばかりのボスキャラのような安い笑いだ。
リムルは少し後ずさり桔平と距離を開けた。次いで右手を高く掲げる。ゆっくりと誰かに語りかけるような口調で呪文を唱え始めた。
『空をも包む翼を持つものよ。金色の稲妻を降らせる主よ。わたし、死神リムルが命じます。出てきてください、終末の死神鎌、ケツアルコアトゥルス!』
それから起こった超常現象を桔平は生涯忘れることはできないだろう。
掲げたリムルの右手の先の空間に、突如として魔法陣が浮かび上がったのだ。そこから落っこちてきてリムルによって掴まれたのは、金色に輝く巨大な死神鎌だった。
刃の部分は大きな鳥の嘴をかたどっていた。持ち手には蛇の体が巻き付いている。それは、翼を持った巨大な蛇という伝説の怪物、ケツアルコァトゥルスの名に相応しい死神鎌だった。
驚きで目を見開き言葉を失っている桔平の前で、リムルは片手で軽々と死神鎌を振り回す。
「少々無骨な感じに見えますけど、斬れ味は抜群なんですよ。それにわたしの鎌さばきだってかなりのものなんです」
リムルは、校舎裏に生えていた木の前に立った。太い幹のブナの木だ。
「見ててくださいね」
待つことしばし、風が吹き一枚の葉がヒラヒラと舞い落ちる。
「てやああああ!」
リムルは死神鎌を奮った。空中で葉が二つに断ち斬られる。
「どうです! これが鎌持ちの腕前です!」
桔平に体を向け喜ぶリムルの後ろで、ズズズという鈍い音が響く。
ブナの木がゆっくりと傾き倒れた。校舎側に倒れなかったのか不幸中の幸いだった。
「ああああ、うっかり斬りすぎちゃいました」
一瞬焦ったような顔になるも、リムルは言い放つ。
「ま、こういう失敗もたまにはあります。でも、いつもじゃないから心配いりません! 桔平さんの魂を刈り取る時は肉体は傷つけないようにうまくやるので安心してください。スプラッタな光景はわたし、苦手なので注意します」
ただひたすら言葉を失っている桔平に、リムルは笑顔で尋ねた。
「桔平さん。これで信じてくれましたよね? わたしが正真正銘、死神だってことを」
目の前でこんなものを見せられたら信じない訳にはいかない。
「ああ、そうだ…な」
少々青冷めつつ、桔平はコクリと頷く。
「良かったです。鎌を見せた甲斐がありました」
リムルは死神鎌を右手に持ち高く掲げる。先ほどと同じように頭上に魔法陣が現れ、死神鎌が吸い込まれていった。
「今のは特別なんですよ。条件が満たされ刈り取りを実行するその瞬間まで鎌は出してはならないって決まりなんですから」
上機嫌に喋っていたリムルだったけど、そこでふと小首を傾げる。
「あれ、だけどどーしてそれまで鎌を出しちゃいけないことになってたんだっけ?」
む~~~って眉間にシワを寄せて考え込んでから、リムルはピコンと閃いた。
「あ、そーでした。それまでは自分が死神だってことを隠さなきゃいけないからでした。だから鎌を見せないよーにって…」
そこでリムルは言葉を止めた。
自分が、とんでもない失敗をしてしまったことにこの時になって初めて気付いたのだった。
そう、隠すどころかリムルは堂々と自分が死神だってことを桔平に伝えていた。しかも、疑う桔平に丁寧にも鎌まで見せている。
「ああああ、大失敗です!」
リムルは頭を抱え天井を仰ぎ叫んだ。
「いくら初仕事で舞い上がってたって言ったってわたしってば何てことを」
その場を転げ回らんばかりの勢いで嘆いてから、リムルは未だ驚きのあまり茫然としている桔平へと顔を向けた。
超絶にぎこちない笑みを浮かべると、最強にワザとらしくこう言った。
「な、な~~~んちゃって! これまでのお話は全部わたしのモウソーです。さっきの大鎌はよくできたCGです! この倒れた木はトリックです! 種もしかけもあるイリュージョンです!」
気を取り直したようにコホンと咳払いをする。どうやらすべてなかったことにするつもりのようだ。
「とゆーわけで、今市桔平さん。わたしを彼女にしてくれますか!?」
明るく尋ねるリムルに、どうにか驚きから立ち直った桔平は魂を込めて叫んだ。
「するか馬鹿!!!」
踵をかえすと全速力で走り出す。
「ああ、待ってください。それじゃ困るんです! 待ってください、桔平さん、きっぺ~さ~~~ん!」
リムルの懇願するような声が響いたのだった。
説明が終了した。
「どうです? 理解していただけましたか?」
「…ああ、とりあえずはな」
苦笑しつつ、桔平は噛み砕いた内容を復唱した。
「つまり、君は死神界ってところからやって来た死神で、オレの魂を狙ってる。だけど魂を刈り取るためにはオレの願望を一つ叶えなくちゃならない。オレの場合は、それが彼女が欲しいってことだから、自分が彼女になろうとしてる。そういうことなんだな?」
「そのとおりです。一回の説明で理解するなんて桔平はさんはすごいです! わたしはこのシステムを覚えるのにけっこう苦労したんですから」
感嘆の眼差しを向けてくるリムルを見ながら、桔平は確信した。
(この娘、アレか。いわゆる電波系って奴なのか)
って。
リムルの説明した内容は理解した。だけど理解したからと言って信じるということにはならない。
だって死神だ。はいそうですかと頷けるはずがない。
目の前の少女が少々電波だとしても、まっすぐに自分のことを好きになってくれたら桔平はさほど気にしなかっただろう。電波も含めて受け入れていた可能性だってある。それぐらいの冒険心は持ち合わせているつもりだ。
だけど、問題はその妄想の内容だ。
魂を刈り取るためには、桔平の願望を叶えなければならない。だから彼女になろうとしたとリムルは説明した。
これが、桔平にはどうにも面白くなかったのだ。
彼女の妄想において、桔平の彼女になろうとしているのはあくまで刈り取り条件を満たすため。桔平のことが好きになったわけじゃないのだ。
何だかひどくゲンナリだった。
そして、ガッカリだった。
「いい加減にしてくれよ」
不機嫌そうに呟く。
「オレ、もう行く。いつまでも君の妄想なんかに付き合ってられないから」
「妄想? 何がです?」
リムルはキョトンとした顔を見せる。なまじ可愛い顔立ちなだけに余計に腹立たしい。
「だから、君が死神だとかいう妄想だよ。そんなことあるはずないだろ? 死神なんてものは漫画や映画の中だけの存在。現実にそんなのはいないんだよ」
きっぱりと言い切る桔平に、リムルは怒ったように頬を膨らめた。
「ひどいです! 死神界は本当にあるし死神だって本当にいるんです! わたしがその一人ですから間違いありません!」
意固地になって強く主張するリムルに、桔平は少々意地悪な質問をする。
「だったら、鎌はどうしたんだよ? 確か君は鎌持ちとかいう特別な死神なんだろ? でもって、オレの魂を刈り取るために来たんだろ? それなのに鎌を持ってないなんておかしいじゃないか」
「あ、鎌を見せれば納得してくれるんですね。だったら簡単です。」
ふっふっふとリムルは不敵に笑った。成り上がったばかりのボスキャラのような安い笑いだ。
リムルは少し後ずさり桔平と距離を開けた。次いで右手を高く掲げる。ゆっくりと誰かに語りかけるような口調で呪文を唱え始めた。
『空をも包む翼を持つものよ。金色の稲妻を降らせる主よ。わたし、死神リムルが命じます。出てきてください、終末の死神鎌、ケツアルコアトゥルス!』
それから起こった超常現象を桔平は生涯忘れることはできないだろう。
掲げたリムルの右手の先の空間に、突如として魔法陣が浮かび上がったのだ。そこから落っこちてきてリムルによって掴まれたのは、金色に輝く巨大な死神鎌だった。
刃の部分は大きな鳥の嘴をかたどっていた。持ち手には蛇の体が巻き付いている。それは、翼を持った巨大な蛇という伝説の怪物、ケツアルコァトゥルスの名に相応しい死神鎌だった。
驚きで目を見開き言葉を失っている桔平の前で、リムルは片手で軽々と死神鎌を振り回す。
「少々無骨な感じに見えますけど、斬れ味は抜群なんですよ。それにわたしの鎌さばきだってかなりのものなんです」
リムルは、校舎裏に生えていた木の前に立った。太い幹のブナの木だ。
「見ててくださいね」
待つことしばし、風が吹き一枚の葉がヒラヒラと舞い落ちる。
「てやああああ!」
リムルは死神鎌を奮った。空中で葉が二つに断ち斬られる。
「どうです! これが鎌持ちの腕前です!」
桔平に体を向け喜ぶリムルの後ろで、ズズズという鈍い音が響く。
ブナの木がゆっくりと傾き倒れた。校舎側に倒れなかったのか不幸中の幸いだった。
「ああああ、うっかり斬りすぎちゃいました」
一瞬焦ったような顔になるも、リムルは言い放つ。
「ま、こういう失敗もたまにはあります。でも、いつもじゃないから心配いりません! 桔平さんの魂を刈り取る時は肉体は傷つけないようにうまくやるので安心してください。スプラッタな光景はわたし、苦手なので注意します」
ただひたすら言葉を失っている桔平に、リムルは笑顔で尋ねた。
「桔平さん。これで信じてくれましたよね? わたしが正真正銘、死神だってことを」
目の前でこんなものを見せられたら信じない訳にはいかない。
「ああ、そうだ…な」
少々青冷めつつ、桔平はコクリと頷く。
「良かったです。鎌を見せた甲斐がありました」
リムルは死神鎌を右手に持ち高く掲げる。先ほどと同じように頭上に魔法陣が現れ、死神鎌が吸い込まれていった。
「今のは特別なんですよ。条件が満たされ刈り取りを実行するその瞬間まで鎌は出してはならないって決まりなんですから」
上機嫌に喋っていたリムルだったけど、そこでふと小首を傾げる。
「あれ、だけどどーしてそれまで鎌を出しちゃいけないことになってたんだっけ?」
む~~~って眉間にシワを寄せて考え込んでから、リムルはピコンと閃いた。
「あ、そーでした。それまでは自分が死神だってことを隠さなきゃいけないからでした。だから鎌を見せないよーにって…」
そこでリムルは言葉を止めた。
自分が、とんでもない失敗をしてしまったことにこの時になって初めて気付いたのだった。
そう、隠すどころかリムルは堂々と自分が死神だってことを桔平に伝えていた。しかも、疑う桔平に丁寧にも鎌まで見せている。
「ああああ、大失敗です!」
リムルは頭を抱え天井を仰ぎ叫んだ。
「いくら初仕事で舞い上がってたって言ったってわたしってば何てことを」
その場を転げ回らんばかりの勢いで嘆いてから、リムルは未だ驚きのあまり茫然としている桔平へと顔を向けた。
超絶にぎこちない笑みを浮かべると、最強にワザとらしくこう言った。
「な、な~~~んちゃって! これまでのお話は全部わたしのモウソーです。さっきの大鎌はよくできたCGです! この倒れた木はトリックです! 種もしかけもあるイリュージョンです!」
気を取り直したようにコホンと咳払いをする。どうやらすべてなかったことにするつもりのようだ。
「とゆーわけで、今市桔平さん。わたしを彼女にしてくれますか!?」
明るく尋ねるリムルに、どうにか驚きから立ち直った桔平は魂を込めて叫んだ。
「するか馬鹿!!!」
踵をかえすと全速力で走り出す。
「ああ、待ってください。それじゃ困るんです! 待ってください、桔平さん、きっぺ~さ~~~ん!」
リムルの懇願するような声が響いたのだった。
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