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第六章 運命

第六章 運命 12

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(なんなんだ、こいつの動きは? まるで歯が立たない。どこかに付け入る隙はないのか?)

男は右足を1歩前に踏み込むと、志保の右側頭部目掛けて左上段回し突きを繰り出す。

その瞬間、志保は右腕で男の左拳を受け流すと、右上段飛び膝蹴りを男の顔面に食らわせた。

男がよろめきながら後ろへ下がると、さらに志保は左足を1歩前に踏み込み、右上段後ろ廻し蹴りを男の左側頭部に食らわせる。

男が倒れると、志保はすかさず左正拳下段突きを男の顔面に寸止めで放ち、すぐに左拳を引いて残心した。

守優と美嘉、守善の3人は、その様子を茂みの陰から伺っていた。

「す、すげぇ……」

「あっという間に勝負が着いちゃった」

「噂通りの強さだね」

守善が額に冷や汗を浮かべる中、男は顔をしかめながら上体を起こす。

「ま、参った。降参だ。今回は俺の負けを認めてやる。だが、次こそは俺が勝つからな。覚えてろ」

男は険しい表情を浮かべて立ち上がると、志保に背を向けて歩き去っていった。

志保が男を見送っていると、そこへ志保の父がやって来る。

「フン、今回も大した相手ではなかったな。志保、まだ余力はあるか?」

「はい、お父様。たとえどなたであろうと、いくらでもお相手してみせます」

「では、カキダミシを続けるとしよう」

志保の父は懐からスルチンを取り出すと、頭上で振り回しながら勢いをつけ、茂みに向かって投げつけた。

スルチンが守善に絡み付くと、志保の父は両手でスルチンを引っ張り、茂みの陰から守善を引き摺り出す。

守優と美嘉はそれに気づき、ハッと目を見開いた。

「兄上!」

「守善様!」

美嘉と守優も茂みの陰から飛び出すと、守善は志保の父の前に倒れていた。

守善が顔をしかめる中、志保の父は守善達に目を向ける。

「気づいていないとでも思ったか? 先ほどから密かに垣間見ていたようだが、気配を隠しきれておらぬぞ。お主らも我が娘を目当てに来たのであろう?」

「あなたが若狭町の平田さんですか?」

「いかにも。儂は平田筑登之親雲上正道せいどう、我が一人娘であるこの志保の夫となるにふさわしい男を見つけるべく、カキダミシの立会人を務めておる。我が娘と戦う覚悟のある者は、いつでも勝負を始めるがよい」

志保の父・正道が守善に絡み付いたスルチンを解くと、守善は立ち上がって志保と対峙した。

「泉崎の新垣筑登之親雲上守央が嫡男、守善です。よろしくお願いいたします」

「若狭町の平田筑登之親雲上正道が長女、志保です。よろしくお願いいたします」
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