上 下
54 / 84

54 お誘い

しおりを挟む

「なっ何で・・・」

ジェニー姐さんの会話拒否宣言に男性薬師が固まっています

(プップップ、いい気味ですね)
(でも、明日から、この人がここの駐在薬師さんなんでしょ?)
(嫌だな~)
(もうワタシ、ここには居られないかも・・・)


そんなことを考えていると、ジェニー姐さんがワタシに話しかけてきました

「今晩にでもちゃんとお話ししようと思っていたのだけれど、ちょうどいいわ」
「スキニーちゃん、ちょっと聞いて欲しいお話があります」

いつになく真面目なお顔のジェニー姐さん

思わず背筋が伸びてしまうワタシです

「はっハイです」
「どんなお話でしょう」

「あのね? あなた、私と一緒に来ない?」

真顔なジェニー姐さんから、そんなお誘いを受けました


どこへ行くのだとか、いつ出発するのだとか、

そんな詳細情報は皆無ですが、このタイミングでの意味はひとつです


「い、いいんです?」

「誘っているのはこちらよ、当たり前じゃない」


もちろん、お返事は決まっています

「ヤフー! よろしくオナシャッス!」


ここ数日、不安だったんです

ここ数日、心細かったんです


やっと慣れてきたここでの生活

いつも一緒にいてくれた人

仲良くなれた、お友達になれたと思った人

そんな大切な人とのお別れを考えるだけで

無性に切なかったんです


そんな心境の時、さらに追い打ちをかけるように、

ワタシに暴言を吐く後釜の薬師が来てしまいました

ワタシのことを悪し様に言う人がいるこの場所にはもういられない

またひとり旅の再開と覚悟しました


でも、救われました

ひとり旅ではありません


大切に思える人に誘ってもらえて、

まだまだ一緒にいられそうで、

それがとても、うれしくて


頼れる人と一緒にいられると思うと、心は晴れ晴れ

この先の不安は一気に解消です



そんな感じで、詳細を聞かずとも、即答「OK」一択なワタシ


「これからもよろしく、スキニー」

「ハイです!」


ジェニー姐さんからの「スキニー」呼び

「ちゃん」なしの呼び捨てです


それが何だか、くすぐったくて、

心の距離も縮まった気がして、

嬉しさや感謝の気持ちを言葉にしたいけど、

それがなかなか難しくて、

でもどうしても溢れだしてしまいそうで、

代わりに涙が出てきてしまうワタシなのでした


ワタシが本当の意味で「スキニー」になったのは、きっとこの時だったのかもしれません



先程までの嫌な気分は一転、

晴れやか爽快、ルンルン気分のワタシです

(嫌なこと言われたけど、そんなの全然気にならないくらいに嬉し~い!)


今日はもう薬店を営業しないとジェニー姐さんが言うので、

ワタシは鼻歌交じりにお片付けを始めます

未だに固まっているオジャマ虫の男性薬師は完全無視

【インベントリ】に諸々収納しちゃいます


まずはテーブル、そして4脚ある椅子・・・

そんな感じで収納作業をしていると、オジャマ虫が騒ぎ出しました


「おい! 今何をした!」
「どうしてテーブルと椅子が――」

「これはワタシの私物なので、回収したまでです」

被せ気味に男性薬師の発言をシャットアウトです


「回収?」
「あの家具類がお前の私物だと?」
「そんな訳があるか!」
「あんな見たこともないようなモノをお前のような小娘が持っているわけがない」
「冗談も――」

「ええ彼女の言う通りよ。アレは全て彼女のモノ」
「机や椅子だけじゃないわよ?」
「コップや飲み物に至るまで、全て彼女が用意してくれたモノよ」

今度はジェニー姐さんがワタシの代わりに答えてくれます

「いい? 彼女はあなたが考えているような何もできない幼子ではないの」
「むしろ、その真逆。あなたよりもよほど有能よ?」

「そっそんな馬鹿な・・・」

フリーズ気味の暴言薬師は完全放置し、ちゃっちゃと撤収作業を進めるワタシなのでした



「おい! いくらだ」

プチフリーズから復活し、またも騒ぎ出した男性薬師

「いくら金を出せば、さっきの家具類を置いていく」

お返事なんてしたくありませんが、しぶしぶ答えます

「置いていくつもりはありませんし、お金なんていりません」

「は? オレが買い取ってやるって言ってるんだ!」
「素直に金を受け取って置いていけ!」
「どうせ運よく拾ったマジックバッグに、たまたま良いモノが入っていただけだろうが!」

(ワタシがジェニー姐さんと同じマジックバッグを持っているから誤解したのかな?)

「例えそうだったとしても、あなたには売りません。絶対に」

「オレに反論するな!」
「いいか? ああいう良いモノは、オレのような高貴な人間が使うべきなんだ!」
「そもそも机や椅子がなければ、明日からの業務にも支障をきたすだろうが!」
「そんなことも分からないのか!」

(うわぁ~、何でしょうか、このオレ様っぷり)

「ええ、わかりませんね。あなたの業務のことなんて、知ったことではありませんので」

「何を生意気な! 浮浪孤児の分際で!」



ジェニー姐さんの説明も丸っと無視し、再度ワタシに攻撃的な言葉を投げかける男性薬師

どうやらこの男性薬師、よっぽどワタシを無能な孤児扱いしたいようです

(まあ、机や椅子がないと困るっていうのが本当のところなんだろうけど)
(ワタシのような小娘なら、脅せばどうにかなると考えてるのかな?)
(ワタシひとりならうまくいったかもだけど、ジェニー姐さんも一緒の状況で、無理じゃない?)
(ていうか、そろそろ鬱陶しいを通り越してマジうざいんですけど~)


そんなことを思っていると、

「話が通じないバカには何を言ってもダメみたいね?」
「無視してここを離れましょう?」

ジェニー姐さんがワタシに向かって話しかけてきます

「もう、アイツと距離をとるしかないのかしらね」
「いっその事、地下のお部屋も引き上げちゃいましょうか」
「また顔を合わせたら、何を言われるか分からないもの」

そんな流れで地下のジェニ子の部屋も完全撤収です



そして今は一息ついています

場所はワタシのユニットハウス

本来ならばまだジェニ子の部屋を使っても問題なかったのですが、

あの男性薬師と鉢合わせする可能性がある地下室は嫌だったので、ユニットハウスに退避です

もちろんジェニー姐さんも一緒ですよ?



少し時間をおいて落ち着いたので、ジェニー姐さんとお話しします

「ジェニー姐さん、今後のご予定とか、決まってます?」

「特には決めてないのだけれど・・・」

そんな感じで今後の予定的なことをジェニー姐さんから詳しく説明を受けます

出立は明日以降、いつでも良いとのことです

目的地は、とりあえず、ジェニー姐さんが本拠地としている、この国第2の都市

移動手段は馬車は使わず、徒歩

別に急ぐ旅ではないので、のんびりと行くそうです

(馬車に乗って移動すると、ずっと人目が気になるしね)
(【買い物履歴】を使うワタシ的には、むしろ徒歩の方が良いのかもね)



そして話し合いの結果、

急なのですが、明日の朝出立、なんてことになりました

(善は急げ、というより、遠ざかるは縁の切れ目、そんな感じかな?)

もちろん、理由はアレ(男性薬師)です

また変なイチャモンをつけられたくないですので、ソッコーおさらばです


(それにしても、アレ(男性薬師)はどうしてここに来たんだろう?)
(元の職場で総スカン食らったのかな?)
(修行という名の左遷かな?)
(ていうか、あんなの野放しにしちゃダメでしょう)

「責任者出てこい!」

往年のボヤキ漫才の決めゼリフを吐くワタシなのでした

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界に来たようですが何も分かりません ~【買い物履歴】スキルでぼちぼち生活しています~

ぱつきんすきー
ファンタジー
突然「神」により異世界転移させられたワタシ 以前の記憶と知識をなくし、右も左も分からないワタシ 唯一の武器【買い物履歴】スキルを利用して異世界でぼちぼち生活 かつてオッサンだった少女による、異世界生活のおはなし

異世界召喚され、話したこともないクラスメイトと冒険者になる。

きんさん
ファンタジー
授業中事故に巻き込まれて、4人だけが異世界召喚される。 話したこともない美人優等生とペアをくむことになり、冒険者を始める。

神に異世界へ転生させられたので……自由に生きていく

霜月 祈叶 (霜月藍)
ファンタジー
小説漫画アニメではお馴染みの神の失敗で死んだ。 だから異世界で自由に生きていこうと決めた鈴村茉莉。 どう足掻いても異世界のせいかテンプレ発生。ゴブリン、オーク……盗賊。 でも目立ちたくない。目指せフリーダムライフ!

異世界に迷い込んだ俺は異世界召喚された幼馴染と再会した

たたたかし
ファンタジー
俺〈中森ゆうた〉が8歳の頃ある日突然異世界へ迷い込んだ。 そんな俺が8年後に異世界召喚された幼馴染〈八条夏目〉に再会する話 あぁ、なんかこんな話しあったらいいなと思って見切り発車で作った話しかも初めて書いた小説。誤字も脱字も意味もわからないと思います。そこは何とか説明修正させていただきます。

落ちこぼれ盾職人は異世界のゲームチェンジャーとなる ~エルフ♀と同居しました。安定収入も得たのでスローライフを満喫します~

テツみン
ファンタジー
アスタリア大陸では地球から一万人以上の若者が召喚され、召喚人(しょうかんびと)と呼ばれている。 彼らは冒険者や生産者となり、魔族や魔物と戦っていたのだ。 日本からの召喚人で、生産系志望だった虹川ヒロトは女神に勧められるがまま盾職人のスキルを授かった。 しかし、盾を売っても原価割れで、生活はどんどん苦しくなる。 そのうえ、同じ召喚人からも「出遅れ組」、「底辺職人」、「貧乏人」とバカにされる日々。 そんなとき、行き倒れになっていたエルフの女の子、アリシアを助け、自分の工房に泊めてあげる。 彼女は魔法研究所をクビにされ、住み場所もおカネもなかったのだ。 そして、彼女との会話からヒロトはあるアイデアを思いつくと―― これは、落ちこぼれ召喚人のふたりが協力し合い、異世界の成功者となっていく――そんな物語である。

僕のギフトは規格外!?〜大好きなもふもふたちと異世界で品質開拓を始めます〜

犬社護
ファンタジー
5歳の誕生日、アキトは不思議な夢を見た。舞台は日本、自分は小学生6年生の子供、様々なシーンが走馬灯のように進んでいき、突然の交通事故で終幕となり、そこでの経験と知識の一部を引き継いだまま目を覚ます。それが前世の記憶で、自分が異世界へと転生していることに気付かないまま日常生活を送るある日、父親の職場見学のため、街中にある遺跡へと出かけ、そこで出会った貴族の幼女と話し合っている時に誘拐されてしまい、大ピンチ! 目隠しされ不安の中でどうしようかと思案していると、小さなもふもふ精霊-白虎が救いの手を差し伸べて、アキトの秘めたる力が解放される。 この小さき白虎との出会いにより、アキトの運命が思わぬ方向へと動き出す。 これは、アキトと訳ありモフモフたちの起こす品質開拓物語。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

死に戻り公爵令嬢が嫁ぎ先の辺境で思い残したこと

Yapa
ファンタジー
ルーネ・ゼファニヤは公爵家の三女だが体が弱く、貧乏くじを押し付けられるように元戦奴で英雄の新米辺境伯ムソン・ペリシテに嫁ぐことに。 寒い地域であることが弱い体にたたり早逝してしまうが、ルーネは初夜に死に戻る。 もしもやり直せるなら、ルーネはしたいことがあったのだった。

処理中です...